『お客様の声をよく聞くことが重要』 よく言われることです。でも、そのお客様の声が本当のことを言っていないとしたら? 今回は、そんなエピソードをお話しします。
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大当たりのはずが失敗した新商品
あなたはインスタントコー ヒーを飲みますか?
最近は、品質のよいコーヒーを手軽な価格で提供するカフェも増えましたし、自宅でも手軽にドリップコーヒーを味わえる ようになりました。今では、コンビニでもいろいろとこだわったコーヒーを買うことができます。ですから、インスタントコーヒーといっても、あまりピンとこ ない人もいるかもしれません。
しかし、そんなインスタントコーヒーも画期的な新商品と注目を集めていた時代があったわけです。
今回のお話はその時代に遡ります。時代こそ違えど、新商品の 背景として共通するものがありますから、その点では参考になると思います。
あるメーカーが、味も香りもよいインスタントコーヒーの開発に 成功し、満を持して発売をしました。
それまでは、コーヒー豆をひいてドリップして飲むという手間があり、さらに現代のように簡単にできる機 械があるわけではなかった時代です。
そうしたことから、『味も香りもひけをとらないで簡単』 しかも 『値 段も手ごろな』インスタントコーヒーは大当たりするはずでした。
しかし、その結果は、惨憺たるもので一向に期待したよ うには売り上げがあがりませんでした。
「事前調査では味も香りも従来のコーヒーに比べて遜色ないという結果が出ていたのに。これは一体ど ういうことだ?」
疑問に思ったメーカーは再度、消費者調査を実行しました。
矛盾したリサーチ結果
主にコーヒーの購入をすることが多い主婦を対象に、購入をためらう理由を調査 してみると、意外な結果が待ち受けていました。
銘柄を隠した試飲テストを再度やってみても味と香りは従来品に比べて遜色がないという結果 が出たにもかかわらず、なんと、味と香りに問題があるというのです。
飲んでみて味と香りに問題がないのに、買わない理由は味と香りに問題 がある。調査結果は完全に矛盾してしまいました。
一体これはどういうことでしょう?
ホンネをあぶりだす質問方法で見えたものとは?
この会社の下した決断 は、もう一度テストをするということでした。
しかし、今度はちょっと違った方法を取り入れます。
投射法とか投影法など と呼ばれるものですが、簡単に言えば
『人が意識していない自分の信念や価値観、本音を間接的で意図が分かりにくい質問でみ つける方法』です。
この場合では、具体的には、AとBの架空の主婦2人の買い物リストを見てもらって、それぞれの主 婦に対する感想を聞くというものでした。
リストA、リストBにはいくつか買い物の品目がありますが、 その違いはただ一点だけ、つまり、リストAにはコーヒー豆、リストBにはインスタントコーヒーが入っている以外はまったく同じです。
そし て、この買い物をした2人をそれぞれどう思うかという質問をしたのです。
さて、その結果はコーヒー豆の入っているリスト Aの買い物をした人に対しては、賢いとか心の温かいという感想を持ち、インスタントコーヒーの入ったリストBの買い物をした人に対しては、怠け者とかだら しないという感想が持たれたのです。
そうです。問題は味や香りではなかったのです。
表のメッセージ、裏のメッセージ
そ の後、このメーカーはテストの結果を受けて、発信するメッセージを『簡単、安上がり』というものから、『空 いた時間を家族にサービスなど賢く使える』というものに変えて成功したそうです。
消費者心理に関するマーケティング 調査のエピソードとして、けっこう有名な話ですので、聞いたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
でも実は、私が言いたいのは、 マーケティング調査のことではありません。この話は、とても大切な原理原則を教えてくれていると思うのです。
・お客様 は、本当に思っていることを口にするとは限らない。
・一面的な見方は危険、多面的な見方が必要。
・ 差別化されたメッセージであればよいわけではない。
ひょっとすると、もっとさまざまな学びを得る 方もいらっしゃるかもしれません。
差別化が大事。USP(ユニークセリングプロポジション)がなければダメ。
最近よく耳にされていると思いますが、それ以上の奥深さを感じます。
たかがメッセージ、されどメッセージ。
「他社とは違う良さに自信があるのになぜ売れない?」そう思った時こそ、表のメッセージと裏に潜むメッセージを疑ってみても良いかもしれません。