去る3月11日、日本最大級の起業イベント「TOKYO起業家サミット大挑戦者祭2007」が 開催されました。ドリームゲート主催のこのイベントに、今回はグランプリの関東予選、そしてセミファイナルの司会という大役も仰せつかり、前段階からさまざま な角度で関わらせていただきました。
そして、コンテンンツの一つとして、
「モバイル」 - 未来のモバイルビジネスによって、
人類のコミュニケーション方法を変えていく
と題したカンファレンスが行われました。
私 もモバイルナビゲーターとしてオーディエンスに混じって、参加いたしました。
その中で、大きな争点の一つとなったのが「公式サイト」VS 「一般サイト」。
今回はこのテーマをレポート形式で掘り下げてみたいと思います。
- 目次 -
講演者
KLab(株) 代表取締役社長 真田哲弥氏
(株)ドワンゴ 代表取締役会長 川 上量生氏
(株)NAVIBLOG 代表取締役社長 マンダリ・カレシー氏
コー ディネーター
モバイル・コンテンツ・フォーラム 事務局長 岸原孝昌氏
「公式サイト」というビジネスモデル
最初に前提として、黎明期から昨今に至るまでのわが国におけるモバ イルビジネスの成長プロセス、特徴についてKLab真田氏が解説してくれた場面がありました。わかりやすい内容だったので、以下簡単に引用させていただき ました。
1.参入障壁
携帯コンテンツ市場において、当初公式サイトがほとんどのトラフィック を占めていたが、公式サイトになるにはキャリアの厳しい審査を通らなければなれない。しかし、一旦審査を通るとある種独占的特殊な地位を得ることができ た。
つまり、ベンチャーにとってもっとも重要な参入障壁をしっかりと通信キャリア側が作ってくれた。
2.広告/集客
ケー タイには通信キャリアの「メニュー」が存在していて、そこからワンクリックでサイトに行くことができるという独自のユーザー導線があり、そこからトラ フィックを稼ぐことが可能であった。
つまり、PCサイトの場合と違い、莫大な広告宣伝費を使う必要がなかった。
3. 固定課金モデル
ダウンロード課金やPPV課金ではなく、月額固定課金しか採用しなかったことは日本でモバイルコンテンツビジネ スが成長できた大きな要因。
これらは日本独自の「特殊環境」であり、これが優れていたから業界が発展してきた。
― 上記のお話は、モバイルコンテンツビジネスの現在までの成功パターンですが、狭義には「公式サイト有料課金モデル」というもっとも有力なビジネスモデルについ ての意訳であると解釈することができます。
つまり、これまでは通信キャリアの作った垣根の中に入ることを許された公式サイトに限り、豊かな 土壌の中で好きな作物を育てる恩恵に預かることができた、というわけです。
しかし、現在では数々の外的要因により、クローズドからオープン へとシフトしつつあり、公式サイト以外の一般サイト、俗に言う勝手サイトでも立派にビジネスが成立するような環境になりました。
議 論はここから白熱していきますが、その前に共通認識としてコーディネーター岸原氏のあげた次のデータがあることを前置きしておきます。
●一般サイトの収益モデルは、コマースと広告に集約されるが、現在のコマース市場は4,000億円超、
一方で公式サイトの主要収益モデルであるコンテンツ市場は3,000億円超、とすでにコマースの
売り上げがコンテンツのそれを上回っている。
●さらにコマース市場では潜在的に7,000億円の売上げが見込まれており伸びしろは十分にある。
●一方で、3G端末・パケット定額制の普及でリッチコンテンツ市場が急激に拡大している。
●補足データとして電通総研の発表データによると、2009年にはモバイル広告市場は775億円に達するという。
― さあ、いよいよゴングです。
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公式サイト VS 一般サイト
― 口火を切ったのはNAVIBLOGカレシー氏でした。
「公式サイトモデルはもう終わりですね。」(笑)
― その理由とこれから求められる発想について以下、カレシー氏の発言を要約してお届けします。
公式サイトに入るに は費用もかかるし時間もかかるが、入ったにしてもどれだけ優位性になるのかというと疑問がある。
だから、でき るだけ一般サイトでやっていくしかないという時代になっていて、自分のサイトを自分のユーザーにいかに見せるかが重要。
こ こで、QRコードが大きな役割を持つ。
これからはQRコードで自分のユーザーを誘導してEコマースを行っていくか、ということだと思う。
参 入障壁という話が出たが、参入障壁があると、小さな企業はどうしようもない。
公式サイトは元々あったモデルと して仕様は固まってきたが、公式サイトになってもならなくても一緒の話になってきた。
だから、これか らは自分のコアユーザーをどうやってつかんでいくかということであり、QRコードを入り口にしてどういう風にうまく自分のユーザーを自分のブランドの周り に置くかという時代になってきた。」
― それに対するドワンゴ川上氏の反論はこの言葉から始まりました。
「公 式サイトは終わっていません。」
― いずれも結論から発言していただき、ありがたい限りですが、以下それに続く意見を同じく要約させていただきました。
今の ケータイ業界の進化はゲーム業界の進化に非常によく似ている。
PS、PS2などゲーム機はどんどん進化しているが、実はユーザー数は減っていて、 昔と比べて『みんながやっている』ものではなくなっている。ところが、ゲーム業界において、ユーザーの密度が下がっているにも関わらず売り上げは増えてい た。
それが見えにくくなっているのはユーザーの年齢層が拡大しているからである。
ケータイの文化にも同じことが当てはまる。
年 齢層の拡大ということに隠れているが、実は多くのユーザーはケータイ端末の進化についていけていない。
なぜついていけていないかというとこれは ゲーム機と一緒で、難しすぎるから。
その要因の一つにキャリア側の政策があり、キャリアは新端末を発売 するに当たって、その端末の持つ新しい機能で勝負をする。
それに従って、公式のメニューリストに「着うたフル(R)」や「ムービー」などの新しい カテゴリーが増えて複雑化することで、ついてこれるユーザーがどんどん減っている。
これはキャリアにとっては正当な戦略なのだが、コンテンツプロ バイダーにとっては不利であるといえる。
しかし、公式サイトのモデルそのものが間違っていたとは全く思っていないし、実際年齢層の拡大が あるのでマーケットは拡大している。
ただ今はメニューが多くなりすぎているので、これからは●●プラン、■■プランといった抽象的なパッ ケージでの提供が出てくるのではないだろうか。
恐らく、今後コンテンツプロバイダーの統廃合が起こり、わかりやすくワンストップで簡便な サービスを提供できる少数のところに収斂されていく、というステージなだけで、決して公式サイトが終わりとは思っていない。
もう一つ加え ると、PCの世界でiTuneやネットワークゲームのような課金モデルというのが増えてきており、このようなPCの課金モデルとモバイルの課金モデルの融 合というところに答えがあるのであって、公式モデルが古いとかそういうことではない。
― ラストはKLab真田氏の発言。
「ヘビーユーザーは無料の一般サイトに流れるが、エントリーユーザーは公式サイ トに留まる」
― 言わば、前二者の折衷案とも言える二極化論です。以下同様に真田氏の見解の要約です。
例 えば、テレビ放送だとBSやCSが出てきても、結局は地上波を見る人が大半。
同じように、ケータイもヘビーユーザーは同じサービスが無料であるな ら、探してでも無料を見るが、探すのが面倒な人や探すのがわからない人は、わかりやすい公式サイトに行く。
つまり、公式サイトのトラ フィックは徐々に下がっているが、どこかで下げ止まる。
一方で、公式サイトの付加価値の大半を産んでいた着メロというサービスが何社かに 集約されることはほぼ間違いなく、下位は死滅していく。
(最後の一文について「メディアの人いたら書かないでくださ い」との真田氏からのお達しでしたが、どの道WEBで動画配信されているので、書かせていただきました。)
以上が、カンファレンス から抜粋した内容です。
実感としては、公式サイト、一般サイトともに勝負の時期に突入したということです。
公式サイトは今までの ようなキャリアの擁護を受けることができなくなった今、新たな集客のメソッドを考え出して、声高な呼び込みを行う必要があり、一方で一般サイトは誰もやっ ていない隙間を見つけて、既得権益化している分野にどう切り込んで行くのかというアイデアを捻出しなければならず、大袈裟に言えば時は戦国時代に突入し た、といったところでしょうか。
ちなみに私自身の意見としては、先行者利益が生まれる段階が完全に終わった、 ということです。
確かに公式サイトモデルが、日本のモバイル業界の成長を支えてきたことは事実です。
しかし、公式サイト の「メニューリスト」は単なる各カテゴリーのリンク集・ランキング集に過ぎず、言ってみればキャリアが作ったソーシャルブックマークに 他なりません。
結果として、ここまで公式サイトが濫造されれば、ユーザーが「検索」を求めるのは自然の流れであり、ゆえに導線が多様化するのは必 然のことで、「早い者勝ち」の理論はあっさりと淘汰されてしかるべきです。
ですから、コンテンツプロバイダーが第一に考えべきは、公 式、非公式という敷居にとらわれるのではなく、いかにユーザビリティを向上させるか、ということに集約されるのではないでしょうか。
次 回は同じく「大挑戦者祭2007」で議論された別のテーマについて取り上げたいと思います。