Vol.15 モバイル業界のトップランナーが斬る。モバイル広告の行方

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
「大挑戦者祭 2007」レポートの第二弾となる今回は、モバイルカンファレンスにおいて大きなトピックの一つであったモバイル広告について、ディスカッションの内容と 絡めつつお届けします。

前回も触れましたが、携帯電話を通じた広告の市場は2009年までに700億円を越える規模にまで達すると予想されていま す。
現在オンライン広告市場に占めるモバイル広告の割合はまだまだ少ないものの、誰もが持っていて、かつ常時30cm以内の範囲にあるケータイ は、広告媒体としてのステータスをじわじわと伸長しつつあります。

しかし、ここでモバイル広告のデメリットを一つ挙げると、モバイ ル端末は画面が小さいという制約があり、表現力が乏しいということです。

次の言葉は、カンファレンスでのKLab真田氏が発言を引 用したものです。
「日本においてはケータイ端末のサイズが今以上に大きくなることはないでしょう。
なぜかと言うと、過去 色々なメーカーが何度も大きな端末にトライしましたが、10万台以上売れたことは一度もないんですよ。
アメリカでは、Black Berry(※)などの大きな端末が売れていますが、日本では(ウィルコム社の)W-ZERO3端末が売れていると言ってもかつてのPDA端末と同じ程度 しか売れていません。
ということでメーカーも歴史的に懲りているので、端末が大きくなることはないでしょう。」

※ カナダのResearch In Motion(RIM)が開発、製造している通信機能を備えた携帯端末。ごつい。

もし、氏の言うことが 正しければ、当面の間小画面という制約が翻ることはない、ということです。

もっともケータイが大きくなるということはそれだけPDAやサ ブノートに近づき、携帯性が薄れるということにつながるので、仕方のないことではありますが。(余談で「観音開きケータイがあれば」という真田氏の意見は ありました。)

なお、現在すでにあるモバイル広告の主要モデルには以下のものがあります。

・テキスト広告
・バナー広告
・動画広告
・検索エンジン連動広告
・行動ターゲティング広告(=Behavioral Targeting 広告、以下BT広告)

テ キスト広告、バナー広告においては、小画面ゆえにPCに比べてぱっと見のインプレッション効果が期待できませんし、動画広告においては小画面に加えて、通 信速度の問題があるのでどうしても邪魔になりがちです。

成長著しい検索エンジン連動広告にしても、1画面に表示できる広告の数が2つから せいぜい4つと少ないため、かなり上位に表示されるよう設定しないとユーザーに辿り着いてもらえません。
(BT広告については後述します。)

こ れらを踏まえた上で、質疑応答の時間に以下の質問をさせていただきました。
 

Q. ケータイは小画面という制約があるので、広告の訴求力に限界があると思います。
そこで、ケータイに特化した広告のカタチについてご意見をお聞かせ ください。

まずはKLab(株)代表取締役社長、真田哲弥氏の回答です。
 

真田氏の回答

「画面サイズがでかければ感動がでかいか、と言うとそうかもしれま せんが、一方で広告効果においては物理的な迫力以外に色々あると思います。

例えば、一つはタイミングの制御。

PCの広告 は家に帰ってPCを開くまで見られないが、ケータイであればお店のレジを出た直後に『お買い上げありがとうございました』という絶妙のタイミングでメール を送ることができます。

また、PCでFLASHを作りこんだサイトと、ケータイの画面で見るシンプルなサイトで、必ずしも表現力が豊かな 方が買うところまで持っていけるのかというと実はそうではなくて、買いたいと思った時にすぐに行動が起こせて、かつ(購買までの)導線が切れない方が結果 が出たりします。

例えば、TVCMによって『今度買おう』と思わせたとしても、次の瞬間には忘れる。ところが、ケータイだったら広告を見 せてすぐに、ケータイで買う、あるいは最寄の店舗に案内されて最寄の店舗で買う、ということが可能になります。

その辺のノウハウがまだ確 立されていないがゆえに、ビジネスチャンスがあるのではないかと思います。」
 

真田氏の回答はまさに「常 に持ち歩く」モバイルだから可能な広告モデル、BT広告についてといえるでしょう。

BT広告であれば

・時間に合わせて、主婦にスーパーのタイムセールの案内メールを送信
・趣味趣向に合わせて、映画好きなユーザーに最新DVD情報を配信
・場所に合わせて、現在の位置情報を検索したユーザーに近隣の施設情報も表示

な ど、それぞれのユーザーの属性や特性に合わせた広告を見せることができます。

ただ、真田氏本人も言っていますが、BT広告は一定の ユーザー数を抱えていて初めて成り立つモデルです。
従って、すでにリアルな店舗会員がいてモバイルサイトと連動させようとする場合や、コアとなる サービスを持っていて定期的にサイトを訪問するユーザーがいる場合には、大いに可能性がありますが、さあこれからBT広告でこういうサービスを始めよう、 というのは無理とは言いませんが、かなり苦しいと思います。

続いて(株)NAVIBLOG代表取締役社長 マンダリ・カレシー氏からいただいた回答です。
 

カレシー氏の回答

「『作 りこみ』だと思います。

今までは広告が簡単に作れちゃったんですが、これからはすぐに買う、すぐにク リックする、ではないと思います。

世界的に見るとプロダクトプレイスメント(※)とか、バイラルで特定 の人にしか流さないような広告をいかにうまくサービスの中に取り入れるかという風になっています。

聞い た話ですが、先日あるアーティストが付けていたリップグロスがあって、特にこれを買ってくれというものではなかったのですが、一気に何万本も売れたという ことがあったそうです。

本当に買う人は、ただ単に広告に書かれているからというのではなくて、体験の中 でなるほどな、私もこれが必要だな、と思うことで買うのです。

はっきりとした答えはないのですが、『買 う』という行為においては、PCだろうがモバイルだろうが一緒ですので、要はどううまくメディアを利用するかという『作りこみ』だと思います。」
 

※ 映画やテレビドラマなどの中で、主人公などに現実の新製品・新商品を利用させたり、ゲームの中で企業広告や商品の広告などを掲載すること。

カ レシー氏の答えは私が想定していた範囲より遥かにマクロで、モバイル広告という枠を超えた「これからの広告」ということに言及したものでした。

確 かに発信者が直接宣伝する既存の広告ではモノが売れなくなってきているのは事実で、プロダクトプレイスメントのような第三者の発言によって初めて人が信用 し、購買に結びつくというパブリシティの手法も目立ってきています。

ここで私は(株) ジャパネットたかた、高田明氏の講演を思い出しました。
氏は講演の中で、「とにかく自分が体験していいと思ったものを情 熱を持って、何度もいいと言い続ける」、という口コミの重要性を語っていましたが、まさにこの至極単純な言葉の中に本来の意味での広告 のカタチがあるのかもしれません。

私なりの結論としては、「どういう広告なら商品が売れるか?」という広告ありきの発想ではなく、「こう いう商品ならこういう人に薦めたい!」という商品ありきの発想が今の広告に求められることであって、何も既存の広告モデルにモバイルを当てはめる必要は全 くないということです。

最後に、これからのモバイル広告について得た2つのヒントを挙げて今回のレポートを終えたい思います。

■ 「画面が小さい」から「持ち歩ける」=いつ?どこで?誰に?何を?というターゲッティングが可能
■口コミの力がモノが売れる大きな原動力の一つに なる

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