起業家にとってしっかりとしたプレゼンテーション力は、資金調達や営業活動等、ビジネスを展開させていく上で非常に重要なスキルとなります。今回は、プレゼンテーションで一番の勝負どころであり、それまでの事前準備の集大成とも言える本番発表において、相手を惹きつける魅力と説得力を出すための実践方法に関するご説明をしたいと思います。
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正面から相手と向き合う姿勢と視線
私がこれまで研修やセミナーを通じて見てきたビジネスパーソンのプレゼンテーション発表でもっとも多い問題点、それは発表者の姿勢、視線が聴き手の方を向いていないということです。多くの場合、最初の挨拶が終わるとすぐに手元の資料に視線が落ち、最後まで淡々と読み上げてしまうか、体ごと投影されているスライドの方を向いたまま、必死にレーザーポインタをなぞっているというどちらかのパターンになってしまいます。所々で何度か聴き手の方に視線を向けるだけか、あるいは発表者と聴き手が一度も視線を合わせることなく終了するプレゼンテーションも少なくありません。何か用意してきたものを読み上げることが、プレゼンテーションの基本形式であるかのような勘違いをしているのではないかとさえ思ってしまいます。
ではここで、バスガイドさんの例を考えてみましょう。もしあなたが旅行に出かけた際、担当のバスガイドさんが旅行客にほとんど視線を向けることなく、手元のあんちょこ資料をただ読み上げていたとしたらどのように思うでしょうか。おそらく大きな違和感だけが残り、説明の内容など何も伝わってはこないでしょう。もしあなたが、姿勢も視線も聴き手に向いていないプレゼンテーションをしていたとしたら、これと全く同じことが起きているのです。もちろん、そんなバスガイドさんは見たことがありません。皆さん入念な準備と練習を行った上で、バスの中では旅行客一人ひとりと視線を合わせながら、さわやかな笑顔と共に言葉を届けてくれます。同じようにプレゼンターも聴き手とまっすぐ向き合い、視線を合わせながら発表をしていかなければなりません。それが心と心が通じ合うコミュニケーションの基本だからです。当たり前の事なのですが、これが本当に出来ていない例を非常に多く目にしますので、ぜひ注意していただきたいと思います。
聴衆の反応に負けない折れない心
プレゼンターにとって聴き手に姿勢と視線を向ける上で一つだけ大きな壁があります。それは、聴衆の反応、プレッシャーです。これは経験したことのある方も多いと思いますが、最初からプレゼンターの話に目を爛々と輝かせ、笑顔で大きくうなずいてくれるような聴き手というのは、まずいません。いたとしてもごく少数です。多くの聴衆の反応というのは、無表情で淡々としていたり、時折首をかしげたり、隣の人と何やらひそひそ話をしたりするものです。あるいは、説明している箇所とは全く違う資料のページを見ている人も少なくありません。こうした聴衆の反応に心が折れてしまうプレゼンターが多いのです。しかし、よく考えてみてください。そういう聴衆の興味を惹きつけて、自分の考えを訴えていくのがプレゼンテーションなのですから、それぐらいのことで心が折れたりせず、逆に挑んでいくぐらいの強い気持ちを持っていかなければなりません。でも笑顔は忘れずに。
自分のプレゼン内容に対する強い自信と信念
聴衆に対して正面から向き合う姿勢と視線を徹底したら、最後は「声」です。大きく力のある声で言葉を届けていかなければ、それまでの入念な準備がすべて無駄になってしまいます。声の大きさというのは、個人差がありますし、自分の声の大きさを客観的に自分で把握することは意外に難しいものです。特に普段の声が少し小さめの人は、どのくらいまでボリュームを上げれば聞き取りやすくなるのか、判断が難しいという相談を受けることがあります。そんな時、私はよく「少し窓が開いている地下鉄の車内でも聞こえるぐらいの声」を意識してみましょうというアドバイスをします。皆さんもちょっと想像してみてください。地下鉄の車内で上の方だけでも少し窓が開いていると結構な騒音です。その中で会話をしようとしたら、かなり大きな声を出さないと相手に届きません。そのぐらいの力加減を意識してみると良いと思います。
そして、もう一つ大切なことは、自分のプレゼンテーション内容に対する強い自信と信念です。「自分はどうしてもこの結論を伝えたい」「プレゼンテーションの目的を達成したい」という強い思いです。こうした心の状態は、必ず声に表れてきます。それは、ただ単に音量が大きければよいということとは違います。聴衆の前に立ったら中途半端な迷いは捨て、自分の考えに強い自信と信念を持って発表に専念してください。そのことが、魅力的で説得力のあるプレゼンテーション成功への最大のカギとなるのです。