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あらすじ
1961年、株式会社明治(以下、明治社という)のうがい薬として発売され、「カバくん」のキャラクターで多くの方々に愛用された「イソジン」。うがい薬=「イソジン」のイメージで馴染みが深いものとなっておりましたが、発売からおよそ50年後の2015年、「イソジン」はお馴染みのキャラクター「カバくん」とそれぞれ別のブランドに分裂しました。
さらに翌年の2016年には、両者が互いに訴え合い、温厚そうな「カバくん」も訴訟の場に登場することになります。
ところで、「イソジン」というネーミングは、明治社のものでないことをご存じでしょうか?「イソジン」は、明治社と技術提携して殺菌消毒液の生産に取り組んでいた海外の大手製薬会社「ムンディファーマ」のブランドで、「イソジン」に含まれる成分の名称から作られた造語です。
ムンディファーマ社は、「イソジン」ブランドのうがい薬が発売される前、1957年に「ISODIN」の商標権、1960年に「イソジン」の商標権をそれぞれ取得しています。
明治社とムンディファーマ社の問題がメディアなどで報じられた頃、「イソジン」が無くなると思われた方も多いと思いますが、単に、両者のライセンス契約が終了し、明治社が「イソジン」のブランドを使えなくなったというだけです。
争点は“ココ”
ムンディファーマ社側が明治社を訴えた理由は、分裂後に明治社が販売したうがい薬のパッケージにあります。明治社が販売したうがい薬は、かつて両者が提携していたころの「イソジン」にそっくりでした。また、明治社がムンディファーマ社側を訴えた理由は、ムンディファーマ社がパッケージに使用しているカバのキャラクターが明治社の「カバくん」に似ていたからです。
(明治社HPより抜粋)
しかしなぜ、明治社がキャラクター「カバくん」に似ているとしてムンディファーマ社を訴えることができたのでしょうか?実は、明治社は、1994年にキャラクター「カバくん」をロゴ商標として登録しています。さらに、明治社は、2013年に「カバくん」という文字も商標登録しています。
つまり、「イソジン」というネーミングとキャラクター「カバくん」のセットでうがい薬のブランドを形成していましたが、そのブランドが、ライセンス契約の終了に伴い完全に分解されてしまったのです。ブランドが分裂しても、双方が販売するうがい薬の中身は分裂前と変わらなかったため、どちらもすでに世間に定着したイメージを利用したかったということでしょう。
「イソジン」に該当する“商標権”や「カバくん」の“著作権”は多くの方が聞いたことがあると思います。では、「不正競争防止法」をご存じでしょうか。これは知的財産に大きく関連する法律です。
「不正競争防止法」第一条では、以下のように定義されています。
“この法律は、事業者間の公正な競争およびこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止および不正競争に係る賠償賠償に関する措置等を講じ、持って国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。”
つまり、この法律は、事業者間の公正な競争の促進を図ることを目的としており、不正競争があった際には、損害賠償等に関する措置を規定しています。では、不正競争とは具体的にどのようなものでしょうか。今回は、いくつかある類型から4つを概説します。
① 周知商品等の混同惹起
広く知られた商品の表示態様による訴求力、集客力を利用し、類似品や模倣品を使って市場に混同を生じさせる行為のことです。
② 著名商品等の不正使用
自己の商品等に対して、著名な商標やブランドを使用する行為などです。
③ 商品形態のデッドコピー
他者の商品形態を模倣し、販売する行為のことです。
④ 営業秘密の不正使用
組織内部に存在する機密情報を不正に取得、使用する行為です
今回の事例では、ムンディファーマ社のカバのキャラクター、明治社の商品パッケージはそれぞれ「不正競争防止法」の違反に該当すると互いに申し立てています。
不正競争防止法には、商標権などの知的財産権と同様に、不正の利益を得る目的が無くても罰せられるケースがあります。
これから起業される方は、会社名、商品名、サービス名が他社の商標を使用していないか、また商品の模倣をしていないかなどをしっかり調べましょう。
イソジンのキャラクターが「カバ」から「イヌ」へ
明治社とムンディファーマ社の訴訟は、和解というかたちで決着がつき、ムンディファーマ社側がパッケージを変更することになりました。
また、ムンディファーマ社は、2017年9月に「イソジン」のキャラクターを「カバ」から「イヌ」へと変更いたしました。
ムンディファーマ社としては、長く慣れ親しまれ、すでに定着していた「イソジン」=「カバ」のイメージに終始を打ち、新たなブランドを構築するという判断に至りました。
余談ですが、明治社とムンディファーマ社の両者は、2016年から2017年にかけて、それぞれのうがい薬のパッケージデザインや「カバ」「イヌ」のキャラクターを、バリュエーションも含め大量に商標登録しており、ブランド保護という観点ではスキがなくなっています。
(イソジン製品サイトより抜粋)
知的財産権の取得を“AI”で実現!
商標権ついてどれくらい知っていますか?
本章で少し触れましたが、商標権は知的財産権の一つに位置し、商品やサービスの“名前”・“図形(ロゴ)”・“色彩”などを保護するための権利です。
起業のお考えの方々に一番身近であり、注意しなければならないものです。
当社では、独自開発のAI技術を使ったオンライン商標サービス「Cotobox」、昨年11月からベータ版を公開しています。
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執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 五味 和泰氏
(cotobox株式会社 代表取締役/はつな知財事務所 代表)
早稲田大学理工学部卒。南カリフォルニア大ロースクール卒。
弁理士。自らベンチャー企業を立ち上げ、オンライン商標サービスを提供。今まで知的財産権に縁がなかった中小企業・小規模事業者に対して知財サービスへのアクセスの容易化を目指している。