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「白い恋人」と「面白い恋人」との争いとは?
「白い恋人」というお菓子をご存じでしょうか。北海道土産で有名ですね。食べたことがある方も多いでしょう。「白い恋人」は札幌市にある石屋製菓が販売する、ホワイトチョコをクッキーで挟んだ菓子の商品名です。1976年に発売され、出張や旅行の際の北海道土産として人気を博し、有名なお菓子になりました。
その「白い恋人」に酷似した商品として、あの吉本興業が2010年の夏ごろから販売を開始したお菓子「面白い恋人」という商品があります。当時はニュースになったので覚えている方も多いかと思います。
この「面白い恋人」、最初はみたらし味のゴーフレットとして、関西地区を中心に販売されました。
ところが、東京地区でも販売が開始されたことから、「面白い恋人」は白い恋人と商品名がほぼ同じで、パッケージの外観も似ているとして、石屋製菓が商標権に基づき吉本興業に販売差し止めと廃棄を求める訴訟を提起しました。
結局、吉本興業側がパッケージの図柄を変更し、原則として関西6府県での販売に限り、損害賠償金は支払わないことで和解が成立。大阪や兵庫など関西6府県の主要駅やお土産店などで「面白い恋人」が再発売されました。
争いのきっかけは解釈の違いから
そもそも、なぜ、このような争いにまで発展してしまったのでしょうか。
もともと吉本興業側は、パロディとして商品展開を進めたようです。
ここで、パロディとは辞書によれば、「既成の著名な作品また他人の文体・韻律などの特色を一見してわかるように残したまま、全く違った内容を表現して、風刺・滑稽を感じさせるように作り変えた作品」とあります。
つまり、オリジナルの作品とは混同を生じないことが前提となっています。しかも、悪意やただ乗り、といったことは許容されるものではないでしょう。
でも、ここまではパロディとして許容できるけれども、これ以上はダメ、といった明確な基準はありません。
今回の争いは、商品名だけでなく、白をベースに青や金色を配した「面白い恋人」のパッケージも「白い恋人」のものと類似している、として、「度が過ぎる」というのがきっかけのようです。
商標権の侵害とされてしまう境界線
ここで商標法では、商標登録出願をする際、どのような商品若しくは役務について使用するかをあらかじめ指定することになっています。これを指定商品又は指定役務といいます。
石屋製菓は、「白い恋人」の文字商標に対しては、登録第1435156号等、さまざまな指定商品についての登録商標を持っています。また、パッケージについても第30類「チョコレート,チョコレートを使用してなる菓子,チョコレートを使用してなるパン」を指定商品とした登録商標を持っています(登録第4778317号)。
商標権の侵害とは、指定商品若しくは指定役務と同一又は類似する商品若しくは役務(サービス)について、登録商標若しくはこれに類似する商標を使用することをいいます。
では、類似とはどのような状態をいうのでしょうか。
類似については最高裁の判例があり(例えば、最高裁第三小法廷昭和43年2月27日判決)、商標の外観、観念(イメージ)、称呼(呼び方)の3点について紛らわしいかどうか、ということに加えて、取引の実情などを含め全体的に考察されます。
商標権以外のリスク。著作権。不正競争防止法
商標権以外でも問題になる権利として著作権があります。
著作権に関係する事件として、「パロディ事件」という名称がつけられた有名な事件があります。
これは、写真家が撮影した雪山写真を素材として自動車公害を揶揄するパロディ作品が著作権侵害にあたるかどうか、が争われました(最高裁第三小法廷昭和55年3月28日判決。結局、和解成立)。
また、不正競争防止法という法律も関係する場合があります。この法律は、商品の類似によって消費者に「混同を生じさせる行為」(2条1項1号)を不正競争と規定し、このような行為の差し止めや損害賠償を認める法律です。さらに「著名」な表示と似ていれば、混同が生じなくても不正競争に当たる(同2号)と定めています。
今回、石屋製菓は、消費者に対するアンケート結果などを根拠に挙げ、首都圏の92%、関西圏の94.5%が、「白い恋人」が「どのような菓子か分かる」と回答した、として、著名性を主張したようです。
もし、著名性が認められたら、お菓子の種類が違うとか、販売地域が違う、といった反論が認められなくなります。
パロディとして許される範囲って?
人気のバロメーターとしてみるのか、人気へのただ乗りととらえるのか。
しかし、規制する一方では創作活動も制限されてしまいます。
アメリカでは、パロディが公正な利用(フェアユース)にあたれば著作権侵害にあたらない、とされています。
ただ、今回、「面白い恋人」が関西のみで販売されていたころは石屋製菓もある程度は黙認していたようですが、東京でも売られるようになり、見過ごせなくなったために提訴に踏み切ったとのことです。
ブランド価値をおとしめたり、不当に利益を得たりする目的であれば当然認めるわけにはいきません。また、そのような意図がなくても消費者が間違えて買ってしまったり、本家の評判が落ちてしまったりするような結果になってしまえば、やはり放置されるべきものではありません。
パロディは人気のバロメーターでもありますが、本家の影響力を利用する以上、ただ乗りとされないための配慮が必要になります。
パロディとして許される範囲の線引きは難しい問題ですが、まずは、相手方は商標権・著作権・不正競争防止法など、さまざまな権利・法律によって守られていることを認識することです。そして、パロディがパクリにならないようにまず意識しなければいけないことは、パロディする相手を貶めない配慮や、相手方のブランド価値が毀損するようなことはしないことといった、ビジネス以前の信義的な問題をクリアしておくことではないでしょうか。