今回は、皆さんが普段使っているような身近な製品の、見た目・デザインについての権利「意匠権」について解説します。
ラディウス株式会社というコンピュータ関連の周辺機器を開発・販売している会社があります。この会社は「エーシーアダプタ」の意匠権を有していますが、この意匠権に基づいて訴え、意匠権侵害が認められて被告製品の販売差止が認められた裁判例があります。
(平成23年(ワ)第247号 意匠権侵害差止等請求事件)
(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120702151918.pdf)
上記の事例は、ラディウス社のアダプターと類似した製品を販売していた会社に対して販売差止をしたというものですが、エーシーアダプタのような一般的な機器でも、意匠権を取得してデザインを保護する事ができます。使いやすい製品のデザインはそれ自体が価値を持ちますので、当然ながら「真似」しようとする会社が出てきますので、知的財産として保護しておくべきです。
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デザインを模倣から保護するための意匠権
売れる製品にはどんな特徴があるでしょうか。
・安くて品質が良い
・機能に優れる
・機能が豊富
このような製品は確かに売れそうです。でも最近は、同じような機能の製品であれば、使いやすくてかっこいいデザインを選ぶ、という場合も増えてきました。
家具や鞄、眼鏡などはデザイン重視で選ばれる場合が多い商品ですが、例えば、英ダイソン社の掃除機のような電化製品でも、同じようなサイクロン式の掃除機が国内メーカーからも出ているにもかかわらず、デザインがいい、ということで選ぶ人もいます。
このように、デザインの良し悪しが売上を左右するようになってきており、デザインの重要性が高くなってきています。
でも、一方で模倣されやすいのもデザインの特徴です。
特許製品などは何が素晴らしいのか、一見したところわかりにくく、すぐに模倣されることが困難な場合が多いですが、見た目ですぐに特徴がわかってしまうデザインの場合には、すぐに特徴を把握できてしまい、模倣も比較的容易です。
このような模倣からデザインを守るための手段が「意匠権」です。
意匠権を取得した物品の形態が模倣された場合には、意匠権を行使することによって、模倣を差し止めることができます。
意匠権の保護対象である意匠とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって視覚を通じて美感を起こさせるもの、と定義されております。
ただし、意匠権の登録対象となる物品は、独立した工業製品として流通可能なものに限ります。
そうはいっても、加工食品から始まり、衣服などの身の回り品、住宅設備品、事務用品や娯楽用品、事務用品等、多岐にわたります。
・特許庁での分類は、
A 製造食品および嗜好品
B 衣服および身の回り品
C 生活用品
D 住宅設備用品
E 趣味娯楽用品および運動競技用品
F 事務用品および販売用品
G 運輸又は運搬機械
H 電気電子機械器具および通信機械器具
J 一般機械器具
K 産業機械器具
L 土木建築用品
M A~Lに属さないその他の基礎製品
N 他グループに属さない物品
となっています。
http://www.ipdl.inpit.go.jp/D_GUIDANCE/JDesignNew.ipdl?N0000=165
また、特許権か意匠権か、という二者択一ではなく、両方で保護することができる場合もあります。
例えば、タイヤの表面にある独特の模様です。すべりにくく、走りやすく、といった目的を達成するために考えられた模様ですが、その模様の機能面を保護するものとして特許権が設定され、同時にデザイン面を保護するものとして意匠権が設定される場合もあります。
機能だけでなく見た目でも模倣から保護できれば強いですね。
コピー品だけでなく類似品についてどこまで排除できる?
意匠権の権利範囲は、同一の意匠だけでなく、類似の意匠にまでおよびます。
意匠は模倣が容易なので、意匠が僅かに異なるだけで権利範囲外となってしまうようでは、せっかくの意匠権が使えないものになってしまいます。そこで、権利範囲に多少の幅があるものとなっています。
多少の改造品であっても、見た目にその特徴が表れているのであれば類似とされ、権利範囲内のものとして権利行使することができます。
この類否判断は、その商品を使う人の視覚を通じた「美感」に基づいて行われます。
そのため、例えばコンタクトレンズのようなものの場合、その意匠が、ヒトの目との比較において,より自然で調和的,かつ穏やかな印象を与えるような美感を有するものなのか、又は、ヒトの目との比較において,自然らしさを捨象し,人工的,メカニカルな印象を与えるような美感を有するものなのか、によって、類否判断が異なります。
先ほどの「エーシーアダプタ」の裁判例の場合、「エーシーアダプタ」の「本体の全周囲は,厚さ方向に厚さの約2分の1を半径とする半円弧状の面取りがされ,本体の四角隅部は,正面視において,いずれも,厚さの約2分の1を半径とする四半球状となっている」部分が公知のアダプタとは異なる新規で特徴的な部分であるとされました。
そして、登録意匠と被告製品とは、「この特徴的部分において共通するのみならず,それ以外の基本的構成態様および具体的構成態様の多くの部分においても共通しており,需要者に対し,全体として共通の美感を生じさせるものとり需要者の注意をひきやすい部分であって、需要者に対して全体として共通の美感を生じさせるものである」と認定され、類似である、とされたのです。
ただ、類似とは、形態が類似しているだけでなく、物品の用途および機能も類似である必要があります。
なので、例えば自動車や電車についてのみの登録意匠に対して、形態が酷似したお菓子やおもちゃがあってもそのままでは意匠権の侵害にはなりません。
(ただし、新製品の場合には、不正競争防止法といった他の法律にも注意する必要があります。)
部分的な特徴が同じでも全体のデザインが異なるデザインは、その特徴部分のみでも保護可能
一つの意匠に独創的で特徴ある創作部分が複数箇所含まれている場合、物品全体としての意匠権しか取得できないとしたら、それらの一部分が模倣されていても、意匠全体としての模倣が回避されていれば当該意匠の意匠権の効力は及ばない状況になってしまいます。
それでは困る、ということで、部分に係る形状等について独創性が高い部分を部分意匠として保護できるようになりました。
部分意匠には、例えば、パンツのゴム部分のデザインや、靴の甲側のデザイン、炊飯器の蓋部分、といったものが、それぞれパンツ、靴、炊飯器の部分意匠として登録されています。(意匠登録第1326033号、意匠登録第1373118号、意匠登録第1374670号)
このような部分意匠には、当該物品の機能を果たすために必要な表示を行い、かつ、その物品にあらかじめ記録された画像や、当該物品の機能を発揮できる状態にするための操作用に使用される画像までも含まれます。
例えば、カメラの前後左右の傾きを感知する水準器としてデジタルカメラの表示部に表示される水準器画像や(意匠登録第1434670 号)、スマートフォンでの通話機能を発揮するための画面表示画像(意匠登録第 1450488 号)が登録されています。
秘密にして保護することもできる?
意匠権として登録された意匠は、ほどなく公開されます。
となると、モデルチェンジ用としてのデザインを意匠登録しようとした場合、運よく登録されたとしても使用前に公開されてしまうようでは、意匠登録できても意味がありません。
このようなケースを救済するために、「秘密意匠」といって、意匠権として登録されてもしばらくの間、意匠の公開を保留することができる制度があります。
モデルチェンジや流行に左右されやすい車や衣服といった分野の製品には重宝されている制度です。
いろいろな方法で大切な知的財産を保護し活用しよう!
せっかく特徴的なデザインを創作しても簡単に模倣されてしまってはたまりません。見た目で特徴がすぐにわかるデザインだからこそ、しっかりした模倣対策が必要になります。
デザインの模倣や活用が気になる場合には、保護の内容や活用に最適な手段である意匠権を検討してみませんか。