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○下手なニュースリリースで知的財産権を失う?
自社のことを少しでも多くの人に知ってもらうための方法の一つに、ニュースリリースがあります。
ニュースリリースには、新商品・新サービス発表から社長交代、組織変更、筆頭株主変更、決算、社会的活動等、いろいろなものがあります。
特に新商品・新サービス発表の場合には、マスコミなどの報道機関が記事として取り上げてもらえれば宣伝効果も高いため、実際に販売したりサービスを開始したりする時期よりも前に公表するときもあります。
でも、せっかく自社製品やサービスを幅広くPRするためのニュースリリースであっても、時期と内容に注意しないとせっかくの知的財産を実際の商品販売やサービス提供前からすでに失ってしまうリスクがあります。
○知的財産権である商標権、特許権を確保するには新規性が必要
特許権を取得するための要件の一つに「新規性」、すなわち、その特許出願より前にその発明がまだ公知になっていない、という要件があります。
例えば、鉛筆の断面が丸しかないときに、六角形にしたという発明を特許権で保護したい、とします。この発明で特許権を取得するためには、少なくとも特許出願前に断面が六角形の鉛筆が公知になっていないことが必要です。
ここで、「斜面でも転がりにくい新しい鉛筆として、断面が六角形の画期的な鉛筆をこのたび販売します」みたいなニュースリリースをした場合、ニュースリリースは不特定多数の人に向かって発表するものなので、その時点でこの発明の「新規性」が失われてしまいます。
見た目ですぐにわかってしまうような場合には、このようなリスクが特に高くなります。
一方、ニュースリリースの際には、その商品やサービスの名称も公表することになります。ここで注意が必要なのが、その商標です。
商標権の成立要件には特許権のような「新規性」はありません。なので、ニュースリリースしたからといって、それだけで商標権を取得することができなくなってしまうことはありません。
しかし、ニュースリリースによって商品名やサービス名が公知になりますので、悪意のある第三者がニュースリリースで知った商標を先に商標登録出願して商標権を取得してしまう可能性があります。
もし、自社で商標権を取得していなかった場合には、せっかくニュースリリースした商品名称を使用できなくなってしまうというリスクがあります。
○機会を確保しつつリスクも抑えるニュースリリースとは?
もし、特許権を取得したい場合には、ニュースリリースする前に特許出願を済ませておけば問題ありません。商標権についても他人に取得されないようにするためには、ニュースリリース前に商標登録出願をすることになります。
でも、プロモーションの準備等が忙しく、出願がずれこんでしまう場合もあります。そのようなときには、ニュースリリースの内容を工夫することになります。
では、知的財産権の取得の可能性を残したニュースリリースとはどのようなものでしょうか。
特許権に関することであれば、例えば、スマートフォンやタブレットのアプリについて、このようなニュースリリースがあります。
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/201309/13-0919/
このニュースリリースでは、アプリ画面やアプリの特長を記載していますが、このアプリがどうやって端末にある電話の発信履歴やブラウザの閲覧履歴を自動的に抽出するのか、といったことや、集められた履歴の情報をスポット情報のデータベースとマッチングさせる方法や、ひもづけされた情報のクラウド上での管理方法について、具体的なものは開示されておりません。
アプリの特許性は、これらを実現するしくみにあるので、このニュースリリースの直後に特許出願したとしても、ニュースリリースによって新規性は失われていないので、特許権取得の可能性は残されます。
一方、商標権の場合には、例えば、エアコンについて、このようなニュースリリースがあります。
http://panasonic.co.jp/corp/news/official.data/data.dir/2013/09/jn130918-2/jn130918-2.html
このニュースリリースでは、「Xシリーズ」という名称しかなく、具体的な商標がありません。
もともとエアコンは具体的な商標が特になくてもいい商品だから、というのもありますが、一般名称や記号などで公表しない、ということもあり得ます。
○デザインについてのニュースリリースはどうなの?
一方、デザインの場合はどうでしょうか。
デザインを保護する権利としては意匠権があります。意匠権の場合、実はニュースリリースした後でも6ヶ月以内に出願できれば、「新規性」を失わないという特例があります。
デザインの場合、テストマーケティングによって売れ行きを判断することも多く、そのために出願前にデザインを公表する場合があることから、このような特例が認められています。
なので、仮にニュースリリース前に意匠登録出願ができなかった場合でも、公表後にすぐに出願することで、意匠権取得の可能性を残すことができます。
ただし、デザインは見た目ですぐにわかるものなので、ニュースリリースの後にそれを見た悪意のある第三者が先に意匠登録出願をしてしまった場合、相手方はもちろん自社も意匠権を取得できなくなってしまう可能性があるので注意が必要です。
○はやる気持ちを抑えることで自社の利益を守ることができる
自社の活動を周知させるためのニュースリリースは、PRにとって大事な手法です。そのため、少しでも早くリリースしたい、ということもあるでしょう。
でも、注意しないと上述のような機会損失やリスクもあります。
知的財産という大事な利益を守るためにも、ニュースリリース前に知的財産権の観点からその内容をもう一度見直してみませんか。