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○特許権の権利範囲とは?
特許権は、土地や形のあるものとは異なり、形のない発明という技術的思想の創作を保護する権利です。
形がなくても、「権利」とする以上、その範囲を決める必要があります。
特許権の権利範囲は、特許発明の技術的範囲で決まり、この技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められます。
つまり、技術的範囲は言葉で表現されるため、技術的範囲に入っているか入っていないかは、特許請求の範囲の記載をすべて満たすか否か、で決まります。
まず、わかりやすい特許の事例として、「カドケシ」という消しゴムでの特許権をご紹介します。
「カドケシ」とはこんな消しゴムです。とてもユニークな形状で大ヒットした商品なので、見たことのある方も多いと思います。
http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/kadokeshi/
この消しゴムは、特許第4304926号で保護されている特許発明を商品化したものです。
この消しゴムの特許請求の範囲の記載は、
「複数の直方体又は立方体を組み合わせてそれぞれの立体が外方に突出した角を有する形状をなすとともに、前記直方体又は立方体の幅寸法、高さ寸法、奥行き寸法がすべて全体の対応する寸法よりもそれぞれ小さい消しゴムであって、」
「複数の直方体又は立方体を辺同士のみが互いに接するように配置しているとともに、接する辺の部分に接合部を設けて連続した形状にしていることを特徴とする消しゴム。」
となっています。
つまり、この内容をすべて満たす構成の消しゴムは、この特許権の技術的範囲に含まれることになります。
一方、複数の直方体又は立方体が、辺同士だけでなく面同士でも接しているような消しゴムの場合には、「すべて」の内容を満たすわけではないので、権利範囲外となります。
「カドケシ」の場合は、形状がユニークなので特許としてもわかりやすいと思います。しかし、特許の中にはわかりづらいものがあります。特に「方法」に関する特許には注意が必要です。
○特許権の権利侵害とは? 特許発明は「もの」と「方法」がある。
特許権の権利侵害とは、権原(※1)のない第三者が業として特許発明を実施することです。
※1)「権原」と書いたのは誤字ではありません。ある法律行為又は事実行為をすることを正当とする法律上の原因を権原といいます。
その際、特許発明が「もの」についてのものなのか、「方法」についてのものなのか、によって実施の内容が異なります。
「もの」の発明の場合、実施とは、
「その物の生産、使用、譲渡等(譲渡および貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為」
を指します。
例えば、先ほどの消しゴムの特許発明の場合には、その特許発明を使った消しゴムを生産したり、販売したり、輸出・輸入することが特許発明の実施行為になります。
一方、「方法」の発明の場合の実施とは、
「その方法の使用をする行為」
を指します。
例えば、「○○の方法」のような特許発明の場合は、その特許発明を使った方法で○○をすることが実施行為になります。
ただし、「△☆の製造方法」のような特許発明の場合は、その方法を使用して△☆を製造する行為だけでなく、その方法により生産した△☆の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
も含みます。
このような行為は特許権を直接侵害する行為と呼ばれます。特許発明そのものを模倣してしまうような場合です。
○いつのまにか他人の特許権を侵害してしまう間接侵害
一方、「もの」に関する特許発明に対して、その「もの」にしか用いられず、その「もの」に使用する以外に経済的,商業的又は実用的な他の用途がないような部品を勝手に製造する行為は、どうでしょうか。
先ほどの話からすると、この部品そのものは特許発明を構成するものではないので、特許権侵害にはならないように思えます。
でも、このような部品を提供することによって、特許発明を直接侵害するものができあがってしまいます。
そこで、特許発明が物の発明の場合、「その物の生産にのみ用いる物」、特許発明が方法の発明の場合、「その方法の使用にのみ用いる物」を生産したり譲渡等したりすることを、間接侵害として、直接的な侵害と同じように扱うことになっています。
例えば、ある裁判では、海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置というものに関する特許第3966527号の特許発明に対して、これに用いられる回転板、プレート板という部品が、この装置に使用する以外、経済的,商業的又は実用的な他の用途がない「その物の生産にのみ用いる物」とされました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130412163157.pdf
また、ある裁判では、パン生地,饅頭生地等の外皮材によって,餡,調理した肉・野菜等の内材を包み込み成形するための方法に関する第4210779号の特許発明に対して、被告の装置が、「その方法の使用にのみ用いる物」とされました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110701142844.pdf
○自社製品の使用先にまで気を配ることが侵害リスク低減につながる。
取引先に言われて作ったものが、特許発明を侵害するものにしか使えない専用部品だった場合には、特許権の間接侵害と言われてしまう可能性があります。
特に取引先から受注して部品を作る場合には注意が必要です。
リスク低減のためには、依頼があったときに、自社で作ったものがどのようなものに使用されるのか、できるだけ事前に把握しておくことが望ましいです。
取引先の信用調査は何も特許権侵害の場合だけではないでしょうが、間接侵害という自社を超えたところでの特許権侵害というリスク軽減のために、事前に調査・分析を行っていただければと思います。