会社経営に必要な法律 Vol.15 CFS・アインファーマシーズ・イオン。委任状争奪戦の行方

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
2008年1月22日、CFSコーポレーションが開いた臨時株主総会で、CFSとアインファーマシーズの経営統合議案が否決されました。この株主総会では、CFSの筆頭株主であるイオンが経営統合に反対して繰り広げた委任状争奪戦(プロクシーファイト)に注目が集まりました。そこで、今回はこのニュースを題材に、ベンチャー企業も知っておかなければならない、委任状争奪戦について説明していきましょう。

1.ニュースの概要

 2007年11月、ドラッグストア大手のCFSコーポレーションは、調剤薬局大手のアインファーマシーズとの間で、株式移転により両社の共同持株会社を設立し、経営統合することにつき基本合意したと発表をしました。そして、2008年1月に開催するCFSの臨時株主総会において、この統合につき株主の承認を得ることにより正式に決定されることとなりました。

・CFSの発表 http://www.cfs-corp.jp/corp/ir/pdf/enterprise_report/jigyo_061.pdf 

 ところが、この統合に対し、CFS筆頭株主であるイオンが、反対の立場を表明し、臨時株主総会における統合議案の否決を目指し、委任状勧誘を始めました。

・イオンの発表 http://www.aeon.info/ICSFiles/afieldfile/2007/12/17/071217R.pdf 

 この結果、臨時株主総会において、経営統合に賛成したのは議決権の56%にとどまり、承認に必要な議決権の3分の2以上の賛成を得ることができなかったため、経営統合議案は否決されました。アインファーマシーズの株主総会では統合議案は承認されましたが、CFSで否決されたことにより、両社の経営統合は白紙に戻されました。

・CFSの発表 http://www.cfs-corp.jp/corp/topics/pdf/press080122.pdf 

 

2.法律上の問題

(1)経営統合の方法 ―-株式移転

 今回の統合は、「共同株式移転」の手法が用いられました。「株式移転」とは、既存のある株式会社が新設されたほかの株式会社の100%子会社となる取り引きをいいます。そして、「共同株式移転」とは、100%子会社となる既存の会社が2社以上ある株式移転をいいます。

 株式移転のためには、株主総会の特別決議による承認が必要とされています(会社法804条)。「特別決議」とは、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を要するものです。逆に言えば、今回のイオンのように議案を否決するためには、反対票を3分の1より多く集めればよいということになります。

 

(2)委任状勧誘

 株式会社におけるすべての株主が、株主総会に出席できるとは限りません。このため、会社法は、議決権の代理行使を第三者に委任し、自己に代わって行使させる制度を定めています。これを、「議決権の代理行使」といいます(会社法 310条)。

 株主総会で、株主が特定の議案の賛成または否決を目指す場合において、自己の持分比率のみによっては議決数に足りないとき、この議決権の代理行使の制度を利用して、ほかの株主から議決権代理行使の委任を受けることにより目標を達成しようとすることがあります。このように、自己に議決権代理行使をさせてもらうよう、すなわち議決権の代理行使における代理権の存在を証明するための文書である委任状を獲得しようと株主に対して働きかけることを「委任状勧誘」といいます。ある議案に対して対立する陣営はそれぞれ、自己の主張を通すために、ほかの株主からの委任状の獲得を競います。これを、「委任状争奪戦」(プロキシーファイト)と呼びます。

 今回のように、ある株主が、会社側の議案の否決を目指す場合、委任状勧誘にあたっては、会社側と対立する株主(今回のイオン)は、株主の権利である株主名簿閲覧権(会社法125条2項)を利用して、ほかの株主の住所などを調べ、参考書類や委任状を送付します。そして、会社側と対立する株主に賛同する株主は、委任状に署名・捺印の上、これを対立する株主に送り返します。なお、委任状勧誘の手続きについては、「上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令」に定められています。

 従来、委任状勧誘は、日本の会社ではあまり用いられていなかった手法ですが、最近になって、委任状争奪戦の結果、株主総会において重要な議案が否決される事例が目立ってきていることから注目を集めています。

 

3.ベンチャー企業として

 委任状勧誘は、原則として、上場会社のように株式に譲渡制限がかかっていない会社について問題となることがほとんどです。このように書くと、株式に譲渡制限をかけていることが通常であるベンチャー企業にとっては縁の薄い話にも思われるかもしれません。

 しかし、ベンチャー企業にとっては、株式公開するということは、さまざまな株主が自社の経営に影響をおよぼす可能性をもたらすということを再度認識しておくことが重要です。特に最近は、今回説明したような委任状勧誘など、これまでの日本の会社ではあまり考えられなかった手法によって、現実に経営を左右されるということが目立ってきています。

 そこで、ベンチャー企業としては、委任状勧誘のように、会社に関して話題となっているニュースがあれば、それをきっかけに、話題となっているものが法律上どのような制度として位置付けられているのかを把握しておくといいでしょう。

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