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1.ニュースの概要
2008年3月の報道によれば、日本人の樺島さんが、台湾で、看板にひらがなとローマ字で「さぬきうどん」と表示し、さぬきうどん店を開業したところ、台湾の食品会社南僑化学工業から、「『さぬき』は自社が商標登録をしているため、『さぬき』の看板を変えなければ刑事告訴する」との抗議を受けました。南僑化学工業は、9年前に台湾で「さぬき」の名称を商標登録し、冷凍うどんの製造・販売を行っているということです。
樺島さんは、「さぬき」は本来商標登録の認められない普通名称であるとして、商標登録自体が無効であるとして無効審判の申し立てを検討したとのことですが、結局はコストがかかることなどを理由に看板変さらに応じました。
また、香川県も、今回の事件を受け、「さぬき」の商標について、台湾における自由利用ができるように南僑化学工業に対して申し入れているようですが、進展は見られないということです。
2.法律上の問題
商品やサービスのネーミングを「商標」といい、日本では商標法によって保護されます。商標の保護については、国ごとの法政策に委ねられていますが、一般的に、各国は、商標保護についての基準を定める国際条約等へ加盟した上で、これに基づき自国の商標に関する法律を制定するため、国による違いはそれほど大きくはありません。
そこで、基本的に日本の商標法に基づき説明をします。今回の事件には、法律上、(1)商標登録が無効になるのはどのような場合か、そして(2)産地などの表示について商標登録ができるのはだれか、という2つの大きな問題があります。
(1)商標登録の無効
(ⅰ)日本において、商標は特許庁に登録されることにより、商標権が与えられます。ただし、どのような商標でも登録することができるとすると不公平になることがありますので、商標法は、商標登録が認められないものを類型化して定めています。今回問題となりうるのは、この類型のうち、産地・販売地と認識される地名の問題です。
日本の商標法のような規定に基づき、台湾の商標法の下で商標登録が無効であると認められれば、台湾内でも「さぬき」の商標を自由に使用することができることになります。
(ⅱ)周知の地名や著名な地名を商標登録できるか?
商標法は、産地などの表示については、商標登録をすることができないとしています(商標法3条1項3号)。ただし、実在の地名であっても、地名として一般的に認識されているといえない場合には、商標登録ができます。
報道によれば、台湾の商標法でも同様の規定があるようですが、一般的に認識されているかどうかは、あくまでも台湾における社会通念に従って判断されると考えられるため、日本で知られている地名であっても、台湾ではこれにあたらず、商標登録が有効と判断されてしまう可能性があります。
・特許庁HP 「商標権とは?」
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/seido/s_shouhyou/shotoha.htm
・特許庁HP 「商標の登録制度の概要」
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/seido/s_shouhyou/chizai07.htm
(2)産地など表示の商標登録 ――「地域団体商標制度」
これまで説明したとおり、産地などの表示は、原則として商標登録が認められません。ただし、2006年に施行された、「地域団体商標制度」によれば、協同組合などであれば、例外的に、産地などの表示の商標登録をすることができることとされました。
したがって、さぬきうどんの協同組合などは、日本において、「さぬき」の商標登録出願をし、地域団体商標としてこれを自己の商標として登録できる可能性があります。
・特許庁HP 「地域団体商標制度の概要」
http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/pdf/t_dantai_syouhyou/t_dantai_gaiyo.pdf
そこで、台湾での「さぬき」の商標については、台湾の商標法に基づき、さぬきうどんの共同組合などが無効の申立などの手続きをすることがよいように思われるところです。ただ、費用などの点で難しい問題はあるかもしれません。
3.ベンチャー企業として
ネーミングなどにつき、日本での使用に問題がなかったとしても、商標はそれぞれの国ごとで手続きが行われるため、それを外国で使用する場合にはまた別の検討が必要となります。ベンチャー企業が外国で行う事業において、ネーミングなどの商標を外国で使用する場合に、必要となる対応は次のとおりです。
(1)使用を予定している国で事前に商標登録されていないか調べる
(2)登録されていない場合には、自社の商標として商標登録をする
普通名称のように、そもそも商標登録自体認められていないものがあります。ただし、この場合でも、その商標を使用するこ とは自由です。また、今回の「さぬき」のように、登録できる者が限られている商標は、自社では登録できないことになるでしょう。
また、すぐに商標を外国で使用するわけではないものの、将来、その外国に進出する計画があり、その外国で使用することが想定される場合も、事前に同様の対応をしておくことがよいでしょう。
インターネットなどの普及に伴い、ベンチャー企業といえども、外国で事業を行う機会は多いと思います。ネーミングなどの商標が使用できるかどうかは、事業の成否を分ける重要なものですので、事前の検討が必須です。