- 目次 -
1.ニュースの概要
報道によれば、三洋電機で以前から問題となっていた不正会計処理による違法配当について、2008年12月8日、同社の株主は、三洋電機に対し、当時の役員へ約278億円の損害賠償を求める訴訟を起こすよう請求したとのことです。
三洋電機の不正会計問題では、同社が損失を過小評価するなどの不正会計処理によって、本来株主への配当ができない状態であったにも関わらず、違法に配当を行ったのではないかということが指摘されていました。
2.法律上の問題
(1)株主代表訴訟とは
会社が取締役、監査役などの責任を追及する訴えを提起する場合、監査役が置かれている会社では、監査役、そして、監査役設置会社以外の会社では、代表取締役または株主総会・取締役会が定める者が、それぞれ会社を代表して行います。
ただ実際には、会社自身が自社の取締役や監査役を提訴することは、身内意識などから躊躇されることが多く、必ずしも実効性があるとはいえません。このため、会社に代わって、株主が直接、取締役、監査役等に対し訴えを提起することが会社法上認められています。これがいわゆる『株主代表訴訟』です。
株主代表訴訟では、株主が勝訴した場合、取締役、監査役などは会社に対し、賠償金等を支払うことになります。株主自身に金銭等が直接支払われるわけではありません(ただし、勝訴した場合は必要費用と弁護士報酬の相当額を会社に請求できます。)ので、この点が考慮され、 提訴時に株主が裁判所に支払う手数料は、一律13000円と低額に押さえられています。
(2)株主代表訴訟の手続
株主代表訴訟が提起されるまでの手続は以下のとおりです。
1: 株主が会社に対して、会社が取締役、監査役などに責任追及などの訴えを提起するよう請求する。
2: 会社が請求後60日以内に訴えを提起しない場合、株主が会社に代わり直接、取締役、監査役等に対し訴えを提起することができる(株主代表訴訟)。
会社に回復することのできない損害が生ずるおそれのある場合を除いて、株主がいきなり2の株主代表訴訟を提起すること はできず、まず1の請求を経ることが必要とされています。
今回の株主による三洋電機への提訴請求は1の請求の段階ですが、三洋電機が今後提訴しなかった場合には、その株主は2の株主代表訴訟に踏み切るものと思われます。
(3)株主代表訴訟の事例
株主代表訴訟で実際に損害賠償請求が認められた最近の事例としては、次のようなものがあります。
・ダスキン(2008年2月1日最高裁判所判決)
被告:元役員13名(うち2名につき分離審理)
内容:無認可添加物入りの肉まん販売への関与
賠償額:約59億円(被告13名の合計額)
・蛇の目ミシン工業(2008年10月2日最高裁判所判決)
被告:元役員5名
内容:仕手集団への利益供与
賠償額:約583億円
このように、株主代表訴訟では、損害賠償額は多額にのぼることが多いものです。そこで、一定限度で、取締役、監査役などの責任限定をする手続が会社法上認められています。
3.ベンチャー企業として
報道される株主代表訴訟は上場している有名企業のものが多いですが、実際には企業の大小を問わず株主代表訴訟を起こされる可能性があります。そして、ベンチャー企業においてもベンチャーキャピタルなどの創業者など、株主以外の株主から株主代表訴訟を起こされる可能性があります。
取締役などの役員は、経営に携わる以上、その業務執行について大きな責任を課せられています。そこで、業務執行においては、法令違反行為などが無いように、常に注意を払うことが必要になります。このため、役員であれば、少なくとも会社法上何が違法とされているかについては把握しておかなければなりません。
また、役員である以上、このような損害賠償のリスクには常にさらされていますが、このようなリスクを軽減するために、あらかじめ責任制限の手続により、責任の範囲の限定をしておくことも有効です。また、株主代表訴訟の役員に対する責任追及に備えた保険(会社役員賠償責任保険、D&O保険)に入っておくというのも一つの対応策です。