会社経営に必要な法律 Vol.34 よく聞く『内定』の言葉の意味をきちんと知っておこう。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
2008年11月、日本綜合地所が、学生53人の内定を取り消したことが問題視されています。そこで今回は、このニュースを題材に、ベンチャー企業の人材採用でも問題となる内定取消について説明していきましょう。

1.ニュースの概要

2008年11月、不動産会社の日本綜合地所が、2009年春に入社を予定していた学生53人の内定を取り消したことが報道されました。同社の発表では、経済情勢の悪化に伴い、同社の業績が悪化していることが内定取消しの理由とされており、学生一人あたり100万円の補償金を支払うということです。

 日本綜合地所以外でも、内定取消を受けた大学生や高校生は、 2008年12月の時点で厚生労働省が把握しているだけでも、全国で800人近くいるとされ、安易な内定取消に対しては社会的な批判が高まっています。

  ・日本綜合地所「採用内定取消しの経緯と弊社対応について」 

 

 

2.法律上の問題

(1)「内定」の意味

 人材採用の場面で耳にする「内定」とは、そもそもどのような意味なのでしょうか。『新卒採用』と『中途採用』の場合にわけて説明していきましょう。

 まず、新卒採用では、大学と産業界の間の旧就職協定や産業界の倫理憲章によって、採用内定開始日が10月1日と定められています。このため、多くの企業では10月1日にいわゆる内定式を行い、正式な内定通知を交付します。これが、新卒採用における『内定』となります。

 中途採用においては、その採用の方法がさまざまであるため一概には言えませんが、採用の確定的な意思表示がなされた時点で『内定』と考えられます。例えば、採用通知を交付したときや、口頭で確定的に採用の意思を伝えたとき、また研修など採用のための具体的な行為のあったときなどに、内定があったものと評価されることが多いでしょう。

 

(2)「内定」の法律上の位置付け

 『内定』とは最高裁判所の判例上、「始期付解約権留保労働契約」と解釈されています。これは、次の3つの意味を持ちます。

 

  〔1〕始期付:入社日に労働契約が発効する

  〔2〕解約権留保付:内定通知等で定める一定の取消事由に該当する場合には、会社側が一方的に内定を取り消す権利を持つ

  〔3〕労働契約:内定は正式な労働契約の成立である

 

 すなわち、『内定』はあくまでも正式な労働契約として扱われているのです。

 

(3)内定取消は違法か

 内定取消が違法かどうかを考えるにあたって重要なのは、内定は正式な労働契約であるということです。このため、内定の取消は、入社後の解雇に準じるものと考えられます。実際に、最高裁判所の判例では、取消事由が「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされており、入社後の解雇と同様、余程の事情がなければ内定取消しは認められないといえます。

 内定取消が認められる事情としては、新卒採用において学生が卒業できなかった場合、健康上の理由で就業できない場合、犯罪行為などがあった場合、新規採用ができないような予測不能な経営上の問題が発生した場合など、極めて限定的な場合であると考えられます。

 なお、内定取消しが認められるかの判断基準は、新卒採用と中途採用とでは基本的に異なるものではありません。ただし、中途採用の場合には職歴や職務経験が重視されることから、これらについての詐称などが内定取消事由として認められる可能性があります。

 

(4)内定を取消す場合のポイント

 企業にとっては、さまざまな事情により、やむを得ず内定を取り消さざるを得ない場合があります。その場合には次のような点を考慮して、慎重に進めていく必要があります。

 〔1〕採用予定者との合意:(3)で説明したように、法律上内定取消が認められない可能性が高い場合には、一方的な取消は困難です。また、取消しが認めらるような例外的な事情があったとしても、後々の紛争を回避しておく必要があります。そこで、どのような場合でも内定を取消すときには、採用予定者に納得してもらった上で、労働契約終了の合意書を交わすことが望ましいといえます。

 〔2〕補償金:採用予定者と協議の上、内定取消について合意した場合でも、一定額の補償金等を支払うことが必要になることが多いと考えられます。

 〔3〕新卒者内定取消の事前通知:新卒採用の場合には、〔1〕〔2〕に加え、法律上、事前に所轄の公共職  業安定所長または関係の施設(学校)長への通知義務があります。

 

3.ベンチャー企業として

 ベンチャー企業における人材確保の場面では、中途採用によるケースも多いと思います。今、社会的に問題となっている内定取消は、新卒採用についてのものが大多数ですが、実際には中途採用における内定取消でも同様の問題が発生します。

『内定』という言葉のニュアンスから、正式な労働契約の成立ではなく、内定取消は解雇より容易であると誤解すると、後で取り返しのつかないことになりかねませんので注意が必要です。

 後で大きな問題となるのは、採用予定者が元の会社をすでに退職しているような場合で、企業側が一方的に取消しをしたようなときです。そこで、ベンチャー企業としては、やむを得ず内定を取消さざるを得ない場合でも、取消しが法律上難しいことを念頭に、あくまでも相手方との協議の上、労働契約の終了を行うということが必要になります。この場合、後日の紛争を避けるためにも、合意書や和解契約書などの文書を作成し、お互いが署名捺印をすることが大切です。

 いずれにしても、正式な内定成立後に会社都合で労働契約を取消すことは、安易に行われるべきではありません。そのためには、正式な内定を出す前に、本当に採用が可能かどうかを社内で慎重に検討するべきでしょう。また、実際裁判で争われた場合に認められるかは別としても、内定通知書に取消事由をきちんと記載しておくことも一つの対応手段です。

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