会社経営に必要な法律 Vol.39 医薬品のネット販売禁止はひっくり返るか?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
今回は、リーガルリスクマネジメントとしての「戦略法務」について説明します。

 

改正薬事法が6月1日から全面施行され、コンビニエンスストアなどでも風邪薬などの医薬品を販売できるようになりましたが、他方で、通信販売に対する規制が強化され、ネット通販で風邪薬などの医薬品を販売することはできなくなりました。今回は、この改正薬事法に関するニュースを取り上げ、リーガルリスクマネジメントとしての「戦略法務」について説明します。

1 ニュースの概要

改正薬事法では、一般用医薬品を「第1類」「第2類」「第3類」に分類した上で、それぞれのリスクに応じた販売方法を定めています。もっともリスクの高い「第1類」については、薬剤師が書面を用いて情報を提供した上で販売することとされた一方で、「第2類」「第3類」については、新設された「登録販売者」を配置すれば、薬局以外での販売が認められるようになりました。コンビニ最大手のセブンーイレブン・ジャパンでは、6 月1日午前3時から医薬品の24時間販売が試験的に開始されています。

他方、ネット販売を含む通信販売に関しては、厚生労働省令により、ビタミン剤などのリスクの低い「第3類」のみの販売が認められ、これまで販売が認められていた風邪薬などの医薬品を販売することができなくなりました。ただし、「薬局のない離島居住者」や「薬の継続使用者」については、2年間に限定して通販を認めるという経過的な措置が取られています。

 

2 法律上の問題

(1)規制緩和と規制強化

高齢化の進展に伴い医療費負担も年々増加する傾向にあり、国は、医療費削減の観点から、軽度な病気については病院にかからずに自分で治療・予防する習慣を根付かせようとする目的で、大衆薬に対する規制を緩和して、従来は医療用医薬品にしか認められなかった成分を使った大衆薬を増やす方針です。しかし、この規制緩和により副作用のリスクが高まることから、消費者の安全性確保という観点に基づき、販売についてはさまざまな規制が設けられ、結果として販売規制が強化されることになりました。

 

(2)行政訴訟の提起

ただ、今回のネット通販などでの医薬品の販売規制は、法律によって定められたものではありません。厚生労働省令によるものです。省令とは、各省の大臣が制定する命令のことです。省令では、法律からの委任を受けて、主に法律の手続き面を補う規定などが定められます。今回の省令による販売規制については、色々な方面における専門家等からも疑問の声があがっており、法律によらない営業活動の自由の剥奪は憲法違反に当たる可能性があるとする指摘もあります。医薬品ネット販売大手のケンコーコムとウェルネットの2社は、5月25日に医薬品のネット販売規制を定めた厚生労働省令に対して、医薬品のネット販売を行う権利の確認および省令の無効確認または取消しを求める行政訴訟を提起しました。今後、この訴訟の動向が注目されるところです。

 

3 ベンチャー企業として

企業経営のリスクマネジメントにおいて、法令の制定・改廃は、ビジネスに多大な影響を及ぼす可能性があるリーガルリスクとして、適切なマネジメントが必要とされます。企業におけるリーガルリスクマネジメントは、「治療法務(臨床法務)」「予防法務」「戦略法務」の3つに分類することができます。

 

1)「治療法務(臨床法務)」・・・訴訟などの法的紛争の処理

2)「予防法務」・・・契約書の作成などにより法的紛争の予防

3)「戦略法務」・・・企業経営上の重要な意思形成に際して行う法的見地からの

          分析・調査

 

法令の制定・改廃などに対するリーガルリスクマネジメントは、主に戦略法務の分野です。今回の薬事法改正におけるコンビニエンスストアなどの小売業界の動向をみても分かるように、規制緩和は新たなビジネスチャンスの拡大へと繋がるものです。その一方で、規制緩和が事業への参入障壁の低下を伴うような場合には、すでに事業を行っている企業にとってみれば、企業間競争の激化を意味することにもなります。

法令の制定・改廃などにより規制が強化され、企業経営にマイナスの影響を及ぼすおそれが生じたような場合でも、通常、法令の制定・改廃には、施行まで一定の準備期間が設けられることから、施行までの期間中に経営判断に基づいた対応策等を講じることができれば、マイナスの影響の低減・回避を図ることが可能となります。そして、法令の制定・改廃の情報を、その可能性が認められる初期の段階で収集することができれば、十分な分析・調査を行うことができるため、早期に適切な対応をとることが可能となります。

このように、戦略法務は、企業経営の発展・存続を図る上で、非常に重要な役割を果たすものです。ベンチャー企業の経営者としては、自社が行う事業に関連する業界にかかわる法制の動向や、訴訟事案の裁判例などの情報の収集に常日頃から心がけることが求められます。こうした情報の収集は、専門的な知識がなければ難しいように思われるかもしれませんが、実はそんなに難しいことではありません。新聞、経済誌や業界誌に掲載される記事や、業界を管掌する省庁や裁判所のホームページ、関連する業界団体のホームページなどからさほどの手間もコストもかけずに収集することができます。要は、経営者として常にアンテナを高くして、社会の動向に注視するという姿勢が大切なのです。「先んずれば人を制す」といいます。より早く、より多くの情報を収集し、収集した情報に基づいた経営判断をすることより、「リスクをチャンスに」することが可能となります。

 

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