会社経営に必要な法律 Vol.44 クーリングオフ適用が拡大。『安心』が成功のキーワードに。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
2009年12月1日から「特定商取引に関する法律および割賦販売法の一部を改正する法律」(以下「改正法」といいます)が施行されます。改正法の施行に伴い、現行法ではクーリングオフ制度の適用がない通信販売においても、購入者は、原則として、商品到着日から起算して8日を経過するまでの間は、返品ができるようになります。今回はこのニュースを取り上げて、通信販売における返品制度について解説し、また、通信販売事業を営む上でベンチャー企業が留意すべき事項について説明します。

[ニュースの概要]

2008年6月に成立した改正法がいよいよ今年の12月1日から施行されます。改正法の目的は、トラブルが頻発している訪問販売、クレジット販売、インターネット取引などの消費者取引について、これまでの法規制の抜け穴を解消し、規制を強化することによって消費者を保護することにあります。改正のポイントは多岐にわたりますが、通信販売における新たな返品制度もその一つです。

改正法では、事業者が返品の可否・条件・送料の負担を広告に表示していない場合、消費者は、商品到着日から起算して8日を経過するまでの間、送料消費者負担で返品(契約の解除)できるようになりました。ただし、事業者が返品に関する特約(返品ができない旨の特約)を、広告において、消費者が容易に認識できる方法で表示している場合には、この限りではありません。

返品特約の表示方法については、経済産業省からガイドライン(省令)が公表されています。また、今年の11月から12月にかけて改正法の説明会が経済産業省委託事業として全国で実施されており、この説明会の資料はウェブ上でも公開されています。

 

[法律上の問題]

(1)     クーリングオフ制度について

クーリングオフ制度とは、「頭を冷やして考える猶予期間を確保する」ための制度です。訪問販売のような不意打ち的取引や、マルチ商法などのリスクの高い取引について、消費者がもう一度考え直すことができるように設けられています。

クーリングオフの期間は、取引の種類によって異なります。たとえば、訪問販売や電話販売による契約、エステや英会話教室などの継続的役務提供契約については8日間ですが、マルチ商法や内職商法として問題となりやすい連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引については20日間とされています。

クーリングオフは、事業者に対して文書で契約を解除する旨の通知をすることにより行われます。通常は、はがきに書いて簡易書留で送付しますが、配達証明付き内容証明郵便を利用するとより確実です。

クーリングオフの通知が発信されると、契約そのものがなかったものとして扱われます。事業者の同意は必要ありません。事業者は、受け取った金銭を速やかに返金しなければならず、また、引渡済みの商品については、事業者の費用負担で引き取る義務があります。

(2)     通信販売における返品

通信販売には、クーリングオフ制度の適用はありません。なぜなら、通信販売は、訪問販売などとは異なり、消費者にとって不意打ち的取引とはいえないからです。ただし、消費者取引の公正を確保するための法律である「特定商取引に関する法律」(以下「特商法」といいます)により、事業者には、返品制度の有無、返品できるときにはその期間や方法、費用負担などを広告に記載することが義務付けられています。

改正法では、ネット通販取引において返品をめぐるトラブルが頻発していることから、特商法の規定を改正し、原則として8日間は消費者が返品することができるように返品のためのルールが変更され、消費者保護がより強化されることとなりました。

(3)     クーリングオフ制度と通信販売の返品制度の相違

クーリングオフ制度も通信販売の返品制度も、共に特商法に基づく制度ですが、次のような点で異なります。

 

 

 

     
     
     

[ベンチャー企業として]

以上のように、通信販売の返品制度は、クーリングオフ制度とは異なり、事業者が広告などにおいて特約を表示することにより返品不可とすることが可能です。

では、通信販売の事業者は、返品リスクが高まることを回避するために、広告やウェブサイトの利用規約などを変更して、返品不可とするための条件を整えるべきなのでしょうか。

たとえば、同じ商品を販売するサイトが複数ある場合、A社のサイトでは、返品不可の特約が設けられており、B社のサイトでは返品不可の特約が設けられていない場合、消費者はどちらのサイトを選択するでしょうか。消費者の立場で考えれば、答えは明らかです。返品されることによるコストをなくすためにすべての商品について返品特約を設けることは、必ずしも通信販売の事業の発展や収益の確保に繋がらないものと思われます。

日本通信販売協会(通称JADMA)では、協会としてのガイドラインとして、「通信販売業における電子商取引のガイドライン」を公表していますが、このガイドラインには、「原則として返品を受けるものとする」旨が記載されています。通信販売の事業者には、消費者に対して安心して商品等を購入することができる場を提供することが求められます。そして、そのためには、消費者の側に立った視点で考えることが大切です。消費者に選ばれない販売サイトは、結局は淘汰されていくのです。

ただし、特注品や訳あり商品などの通信販売に関して、返品特約制度を利用して返品を認めず、販売業者の返品コストの削減を図ることは有効であるものと思われます。たとえば、多少色ムラのあるTシャツや、大きさや形が不揃いの果物や菓子などを、返品不可を条件として、格安の価格で販売することは、事業者のみならず消費者にとっても利のある取引であるといえます。このような商品の販売に関しては、商品が有する瑕疵(キズ)について、特商法に基づく表示をすることが必要となります。また、この表示は、返品に関する特約とは分けてなされることが必要ですので注意してください。

改正法施行後、事業者が留意しなければならないことは、自己が販売する商品の内容や販売方法について、消費者に対して説明責任を尽くすことにあると思われます。消費者にわかり易い方法で、消費者が必要とする情報を適切に提供することで、消費者が安心して買い物を楽しむことができる環境を整える、そのことに注力することこそが、今後の通信販売事業の継続、発展へのポイントになるのではないでしょうか。

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