企業の組織内違法コピーについて意識調査が行われたところ、「内部告発によって解決を図る」という回答が約4割に達しました。今回はこのニュースを取り上げ、企業内の違法コピーについて法的に解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。
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ニュースの概要
非営利団体ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA)が企業に勤務する首都圏在住の10代から60代の男女を対象として行った企業の組織内違法コピーに関する意識調査(1000人の有効回答)では、「もし勤務先の企業でソフトウェアの違法コピーが行われていたら改善したいと思うか」との設問に対し、8割以上が「思う」と回答しました。さらに、「思う」とした人に対して、改善のためにどのような行為をするか尋ねたところ、次のような結果となりました。(http://www.bsa.or.jp/press/report/2010/index.html)
社内の情報提供窓口に告知する・・・・・・26.6%
社外に情報提供し社外を巻き込んだ解決を図る・・・・・・・10.9%
何もしない・・・・・・・7.3%
その他・・・・・・・1.2%
上記の結果から、「社内で解決を図る」とする回答が全体の半数を超えてもっとも多い一方で、いわゆる「内部告発」によって解決を図るとする回答が全体の約4割に達していることがわかります。違法あるいは不正な行為に関して、自ら情報発信を行うことで不正を正そうとする傾向があることが伺えます。
法律上の問題
(1)コンピュータ・プログラムの著作権法による保護
コンピュータ・プログラムは、「プログラムの著作物」として著作権法(10条9号)で保護されており、著作権者の許諾がない限り、これをコピーすることはできません。
ワードやエクセルなどの市販のビジネス用ソフトウェアもコンピュータ・プログラムであり、原則として、ひとつのソフトウェアは1台のパソコンにしか使用が許されていません。従って、ひとつのソフトウェアを購入し、これを複数のパソコンにインストールして使用することは著作権の侵害行為に当たります。
なお、家庭内などの限られた範囲において個人的に使用することを目的とする場合は、「私的使用のための複製」としてコピーすることが許されています(30条1項)。ただし、この場合であっても、大量にコピーしたり、友達に提供するためにコピーしたりする場合は、私的使用の範囲を超えることになり、認められません。
(2)ソフトウェアの違法なコピーの態様
ソフトウェアのコピーにかかわる次の行為は、いずれも著作権法に違反します。
◆私的使用またはバックアップ目的以外で、他人が著作権を有するソフトウェアを無断でコピーする行為
◆私的使用またはバックアップ目的でコピーしたものであっても、他人が著作権を有するソフトウェアのコピーを不特定または多数の人に販売、貸与その他提供する行為
◆インターネットを通じて、他人が著作権を有するソフトウェアを無断でファイル交換する行為
◆上記のいずれかに該当する違法なファイルやコピーであることを知りながら受け取った人が、これを業務上電子計算機において使用する行為
(3)刑事上の罰則
著作権を侵害した者は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処せられ、またはこれらについて併科されます(著作権法119条)。また、法人の代表者または法人の従業員等が法人の業務に関して著作権侵害行為を行った時は、行為者を罰するほか、法人に対しても3億円以下の罰金刑が科されます(著作権法124条)。
なお、著作権侵害は「親告罪」であることから、被害者などからの告発、請求等がなければ検察官が起訴することはできません(著作権法123条)。
(4)違法コピーの場合の損害賠償額~東京リーガルマインド(LEC)事件~
大手司法試験予備校のLECは、平成11年5月当時、高田馬場西校内のパソコンにマイクロソフト社の表計算ソフトやアップル社の画像処理ソフト、アドビの編集用ソフトなど3社のビジネス用ソフトウェアを違法にコピーし、教材作成などの業務に利用していたとして、ソフトウェアメーカー3社から約1億1400万円の損害賠償を求める訴訟が東京地方裁判所に提起されました。
裁判所は、原告側の主張をほぼ認め、正規品の小売価格と同額の損害賠償をすべきであるとして、LECに約8500万円の支払いを命じました(東京地裁平成13年5月16日判決)。
なお、本件においてLEC側は、コピー発覚後に正規ソフトを購入しており、使用契約では一度代金を支払えば無期限で利用できることになっており、原告に損害を与えていないと主張しました。これに対し、裁判所は、著作権侵害行為は違法にコピーした時点で成立しているとして、LEC側の主張を退けました。
ベンチャー企業の経営者として留意すべきこと
市場経済の低迷が長引く中のことです。しかしながら、違法コピーは、コストの節約・削減の域を超えた犯罪行為であり、場合によっては経営者や責任者が懲役に処せられることもあり得ます。
また、刑事上の責任のみならず、違法なコピーによって権利を侵害された者から民事上の損害賠償を請求されることにもなります。上記のLEC事件においても、LECは、コピー発覚後正規品を購入しましたが、それとほぼ同額の損害賠償金を支払うこととなったため、結果として、当初から正規品を購入していた場合の2倍の金額を支払うことになりました。
今回のBSAの調査結果からも、多くの場合、社員は勤務先の違法行為については改善したいと考えていることがわかります。社員は常に経営者の行動や人となりを見ています。今回の調査において、「もし、あなたの勤務先のソフトウェアが違法コピーされたもので、仮にその利用が社内で黙認されていると知った場合、『あなたの会社に対する信頼感』はどのように変わりますか」という質問に対し、「大きく低下する(49.6%)」「やや低下する(35.7%)」というように、全体の85.3%が「低下する」と回答しています。経営者は、「社員は会社の重要なステークホルダー(利害関係者)である」という意識を持つことが必要です。
そして、内部告発によって問題を解決しようと考える者が決して少なくないという調査結果について、経営者は留意しておくべきであると思います。特に、CGM(Consumer Generated Media:消費者主導型メディア)が拡大している現在においては、誰でも簡単に情報発信することができることから、社内において違法あるいは不正な行為が行われている場合、それを不満に思う社員が内部告発に当たる情報をtwitterでつぶやいたりblogに掲載したりすることも十分考えられます。インターネット上にネガティブ情報が掲載されてしまえば、その情報が一気に広まって会社の評判を傷つけ、取引先や消費者からの信用が毀損されてしまう危険(レピュテーション・リスク)があることは否定できません。
このように、1本のソフトウェアの違法コピーが会社に及ぼし得るマイナスの影響(リスク)は計り知れません。ベンチャー企業の経営者の方には、ぜひこの点について肝に銘じておいていただければと思います。