「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA)が平成22年12月8日に、公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。今回は、このニュースを取り上げ、独占禁止法が禁止する不公正な取引方法について解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。
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ニュースの概要
携帯電話向けゲームを中心とするSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手のDeNAは、平成22年の夏頃から、携帯ゲームを開発するソフト開発会社に対して、携帯ゲーム業界のライバル社であるグリーと契約を結ばないように圧力をかけたり、自社と独占契約するよう強要したりした疑いが持たれています。DeNAのこれらの行為は、独占禁止法が禁じている「拘束条件付取引」に当たる可能性があり、公正取引委員会は、同社や同社の取引先であるソフト開発会社に対して立ち入り検査を行い、関係者から事情を聞くなど事実関係の調査を進めています。
DeNAは、平成21年に「モバゲータウン」の開発仕様を外部企業に公開して、SNS会員間で遊べるソーシャルゲーム(交流型ゲーム)の開発を外部のソフト開発会社に委託し、ゲーム内での課金システムによって得られた収入をソフト開発会社とDeNAとの間で分け合うビジネスの仕組みを構築しました。一方、同業者であるグリーもSNS「GREE」の開発仕様を公開してソーシャルゲームのビジネスを行っています。ソーシャルゲームの運営会社が収益を上げるためには、人気のあるゲームを多く提供することでユーザの囲い込みを行うことが重要となりますが、この大手2社の競争の激化が今回のDeNAによる問題行為を誘引したものと思われます。
友人同士などで楽しむソーシャルゲームの市場は、ここ数年急激な伸びを見せており、民間の調査会社の調査によると、平成22年の市場はおよそ747億円で、平成23年には1000億円を突破する見通しであるとのことであり、今後も業界内の競争が続いていくものと思われます。
DeNAは、平成22年12月8日のプレスリリースで「当社は、本日、独占禁止法違反(不公正な取引方法等)の疑いがあるとして、公正取引委員会による立入り検査を受けました。公正取引委員会の調査に全面的に協力してまいる所存です。」と発表しています。
本件については、今後の公正取引委員会による調査結果の公表が注目されるところです。
法律上の問題
(1) 独占禁止法による規制
独占禁止法(私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律)では、私的独占、カルテルや入札談合等の不当な取引制限、不公正な取引方法などの行為を禁止しています。
不公正な取引方法は、独占禁止法第19条に規定されており、具体的には、独占禁止法第2条9項各号のいずれかに該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいいます。
公正取引委員会による指定には、すべての業種に適用される「一般指定」と、特定の事業者・業界を対象とする「特定指定」とがあります。一般指定では、取引拒絶、差別対価、不当廉売、ぎまん的顧客誘引、排他条項付取引、再販売価格の拘束、拘束条件付取引、優越的地位の濫用など、16の行為類型が不公正な取引方法として指定されています。また、特定指定については、現在、大規模小売業者が行う不公正な取引方法、特定荷主が行う不公正な取引方法、および新聞業の3つが指定されています。
今回、問題となっている「拘束条件付取引」とは、相手方の事業活動を不当に制限する条件をつけて取引することで、取引先業者の販売先を制限することなどが問題となります。
(2) 不公正な取引方法の禁止の具体的内容
不公正な取引方法の禁止の規定に違反する行為については、公正取引委員会は事業者に対し、その行為の差止め、契約条項の削除など、その行為を排除するために必要な措置を命じることができます(第20条)。この排除措置命令が出された場合に、事業者が異議を唱え、審判請求(独占禁止法違反の有無を審理することを求める手続)を行ったときは、審判手続が取られます。排除措置命令又は審判手続における審決が確定した後に事業者がこれに従わない場合には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます(第90条)。また、法人の場合には、その従業員等が行った行為について法人としても責任を問われ、3億円以下の罰金刑が科せられます(第95条)。
ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項
インターネットがweb2.0時代に入った以降、ユーザが双方向で情報をやり取りすることができるSNSの利用は急速に拡大しており、こうした中で「モバゲータウン」や「GREE」などのサイトも一気に利用者数を増加させています。ソーシャルゲームの運営会社が収益を上げるためには、ユーザの囲い込みが重要となることはすでに述べたところですが、より多くのユーザを囲い込むためには、ユーザの嗜好にあったゲームの提供が必須となります。「モバゲータウン」や「GREE」で提供されているゲームは、そのほとんどが外部のソフト開発会社により開発されています。そのような状況にあることに鑑みれば、ソーシャルゲームの運営会社としては、ゲーム開発の委託先であるソフト開発会社との間で良好な関係を築き、これを保つことが重要であることは自明の理といえます。
そうであるにもかかわらず、DeNAは、自社と取引関係にあるソフト開発会社のうち、グリーにもゲームソフトを提供する会社に対して、自社との契約を打ち切ると口頭で伝えたとされており、実際に契約を打ち切られた会社もあるといわれています。また、グリーにゲームソフトを提供したソフト開発会社のゲームは、モバゲー内で検索しても表示されないようにし、人気ランキングから消すなどしたともいわれています。今回の公正取引委員会による検査がどのような経緯によって行われることとなったかについては定かではありませんが、DeNAによる違法性が疑われる行為についてDeNAの取引先や元取引先などが公正取引委員会に対して通報した可能性があることも否定できません。このことは、委託元会社の違法な行為が下請会社等からの通報により発覚する可能性があることと同様です。
企業として、同業他社との競争に躍起になって自社の利益を優先するあまり、本来WIN・WINの関係を築くべき委託先や業務提携先などの取引先に対して、その自由な営業活動を妨害又は制限したり、あるいは著しく不利益な契約条件を強要したりすることは、決して自社のためにはなりません。反対に、これらの取引先との取引関係を良好に保ち、自社と取引先とが共により高い収益を上げられる関係を築いていくことこそが、競業他者との間での自社の競争力を高め、ひいては自社の収益力を高めることに繋がるということを、ベンチャー企業の経営者の方には忘れないでいていただきたいと思います。