知的財産:Vol.50 「ちょっと拝借」が3億の損失に!?

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
著名な飲食店の店名や看板を真似て商標権の侵害で告訴されたり、著名な劇場の名前に類似する名前の喫茶店が訴えられたりと、店名に関わる侵害事件が頻発しています。中には、書類送検されるケースもあるのです。「有名店の名前にあやかった」「安易な気持ちで店名を決めた」結果として、予想もしなかった事件に巻き込まれてしまう……。では、どんなケースが事件になるのでしょうか?

いろいろなものにあやかって。

 店の知名度を上げたいがために、既存の有名な名称にあやかって店名を決めたい気持ちはよくわかります。具体的には、有名店の名称、歴史上の著名人や団体、著名な施設名、テレビドラマの名称、芸能人やスポーツ選手、オリンピックなどのイベント……。ただ、少なくとも日本国内で著名なこれらの名称にあやかる場合、特定の第三者の知的財産権を侵害したり、場合によっては公序を乱すことが多いので注意が必要です。

 

ケース1「店舗名にあやかって」。

 有名チェーン居酒屋の「笑笑」と同じ看板を飲食店に使って書類送検されたり、吉本興業の劇場「京橋花月」に店舗名が類似するとして出会い系喫茶店が訴えられたりと、事件は頻発しています。
 著名なイタリア料理店にあやかった店舗名の使用が差し止められ、賠償金を支払った事件もあります。店舗名の使用が差し止められるということは、即時に店舗名を換える必要があり、看板を付け替え、ホームページのドメインを取り直し、宣伝広告を換えるなどの作業が発生します。そうなると、新規開店時よりもはるかに面倒で費用もかかります。訴訟費用+改修費用となるわけですから、普通の資金力では店をたたむしかなくなってしまうというのが実情でしょう。
 さらに、完全に真似たのではなく、テレビCMで有名なエステティックサロンの名前をもじって使用し、結果として訴えられ店舗名を換えさせられたトラブルも。この程度なら問題ないだろうと、自身で勝手に判断したのが仇になってしまったケースです。
 最近多いのが、若者に人気のテレビ番組の名前をそのまま店名に用いるケースです。放送局側が自ら番組に由来するアンテナショップをオープンすることがあるため、当然、衝突することになるわけです。

 

ケース2「内装や雰囲気にあやかって」。

 店舗名がダメなら、お店の雰囲気だけでもあやかりたいと思う人がいるかもしれません。しかし、この場合にも注意が必要です。不正競争防止法の商品等表示に該当する可能性があり、お客さんが、店の雰囲気から、ほかの著名なお店の系列店と勘違いしてしまうようでは、やはり問題があります。
 お店の入口のつくりや色合いを似せたり、看板の装飾を似せたりが、その具体的な例です。「笑笑」の訴訟では、単にこの文字を使うだけではなく、ビニールシート製の軒の色を、真っ赤にしていたので、混同を狙ったと認定されても仕方ありません。実際に私が過去に相談を受けたのですが、「某社のキャラクターと似た人形をつくって、店の前に置いている。大丈夫だろうか?」というものでした。もちろんこれも言語道断ですね。

 店舗は建築物であるという意味から考えると、著作権侵害になる可能性があるのです。キャラクターに関しても当然、著作権侵害になります。

 

ケース3「パッケージにあやかって」。

 また、「パッケージなら商品自体ではないので大丈夫だろう」という考えも要注意です。商品のパッケージを侵害するのは、不正競争防止法で禁じられています。実際、有名ハンバーガーの容器、包装、広告などを似せてしまったことで、そのハンバーガーが販売の差し止めを受けたトラブルがあります。
 私が相談を受けたケースでは、相手方の商品は明らかに品質が劣るのですが、パッケージのつくりが同一で、商品パンフレットも、写真の位置や文字などデザインが酷似。意図せず真似をしてしまったその会社は、良い商品をつくっているにもかかわらず、予想外の大きな損失をこうむってしまいました。
 

「このぐらい大丈夫だろう」が命取り

 「あくまでもあやかったのであって、真似たつもりはない!」と主張しても、商標権の侵害などの分野においては、そんな言い訳は通用しません。「あやかっただけ」と主張し、警告を受けていながら使用し続けると、侵害が故意であると認められ刑事罰を受けかねません。安易な気持ちで店舗名を決めたばかりに、店舗名の変更を強いられムダな出費が生じたあげく、犯罪者になってしまうことだって珍しくはないのです。ちなみに商標権の侵害の場合、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金で、罰金と懲役の両方が科される場合もあります。法人の責任が問われると、3億円以下の罰金です。

 「刑事罰を伴う法律で縛られると、思うように店舗名すら決められない」と悲観するのではなく、他人の著名な名称の心意気や商運を参考にしつつ、自分らしさをいかに表現するかで勝負していただきたいと思います。このセーフラインについては判断が難しいので、迷いが生じた時には弁理士など専門家に相談することをお勧めします。そして、ぜひとも、「他人にあやかられるような」有名店をつくりあげてください。

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