会社経営に必要な法律 Vol.62 イオンファンタジー取締役なりすましtwitterが炎上

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

イオングループで東証1部上場のイオンファンタジーの取締役を名乗る人物によるtwitterのツイートが批判を浴び、同社のサイトが炎上するという騒動が起きました。今回は、このニュースを取り上げ、インターネット上のなりすましについての法的問題について解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。

ニュースの概要

チョコボールイメージことの発端は、2011年4月6日にイオンファンタジーの取締役を名乗る人物が、ソフトバンクの孫正義社長による100億円の寄付について「さて、ここらで物申しておきますか。孫氏の100億円寄付と報酬全額寄付についてですが、同じ経営者としてちょっと失望。災害は大変悲しいできこと(原文のママ)ですが、それとビジネスは別物。どういうリターンがあると考えておられるのやら。経営者としては1流でも投資家としては無いかなあと。」とツイートし、これに対し、孫氏が「投資家失格でも構わない。」とRT(リツイート)で応じたことにあります。
孫氏には100万人超のフォロワーがいることに加え、この人物のプロフィールに「株式会社イオンファンタジーの取締役を務めています」とあったことや、この人物のツイートには同社の取締役という立場にある者としては不適切と思われるものが多数あったことから、この人物および同社に対する批判が相次ぎ、同社のサイトが炎上するという事態に至りました。
その後、この人物のアカウントは削除されましたが、イオンファンタジーは、4月7日にtwitterアカウント「aeonfantasy」を開設し、「投稿されている写真、投稿文とも弊社取締役とは無関係であります。」「このような弊社取締役を偽装した行為は、大変遺憾であり、3月になりすまし報告を行っていますが、さらに法的措置も含め、対抗策を考えてまいります。」などとツイートし、問題となったツイートは「なりすまし」であることや、法的措置も含めて対応する旨を明らかにしました。
また、同社は自社ホームページ上で、「お客さまへのお詫びとおしらせ」と題して、「イオンファンタジーの取締役を名乗る人物によるTwitter上でのなりすまし事案」が発生したことについてのお詫びと今後の方針について掲載しています。
http://www.fantasy.co.jp/news/pdf/20110408owabi.pdf

法律上の問題

他人の氏名やメールアドレスなどの個人情報を利用してネット売買を行ったり、誹謗中傷を内容とする電子メールを送ったりするなどのインターネット上のなりすまし行為について、直接禁止する法律は現時点ではありません。しかしながら、その行為態様によっては、他の法律が適用される場合があります。
たとえば、他人のメールアドレスをオークションサイトにおける営業行為に使用するようなケースでは、不正競争防止法違反として、差止め請求や損害賠償請求を行うことが可能な場合があるものと思われます。
また、他人になりすましてインターネット上の掲示板等に書込みをして金銭を騙し取ろうとするようなケースについては、詐欺罪が成立する場合もあります。
さらに、他人になりすまして誹謗中傷を内容とする電子メールを送信したり、サイト上に書込みをしたりするケースでは、なりすまされた人が、それによって厳しい抗議を受けたり社会的に非難されるなどして耐え難い精神的苦痛を被った場合には、民法上の不法行為に基づく慰謝料請求をすることが可能と思われ、場合によっては、人格権に基づく差止め請求が認められる場合もあるものと思われます。

インターネット上のなりすまし行為に関する裁判例は、現在までのところ、あまりありませんが、ブログやtwitter、facebookなどのソーシャルメディアの利用者が急増する中で、インターネット上のなりすましにかかわる問題は、今後も増加する可能性があるものと思われます。特に、twitterやfacebookではなりすまし行為が容易に行なわれるものですが、twitterやfacebookのサイト運営者は海外法人であることから、なりすまし行為が発生した場合、日本国内のサイト運営者に対して適用されるプロバイダ責任制限法が適用されず、どのような法律に基づいてなりすまし行為を行っている人物に関する情報提供をサイト運営者に求めるのかなどの問題が生じます。

このような状況の中で、今回のtwitter上でのなりすまし事件に関して、なりすました人物に対してどのような法的措置がとられることになるのかが注目されます。
 

ベンチャー企業の経営者として

保護イメージソーシャルメディアの利用者が急増する中で、ソーシャルメディアを活用して、自社の知名度をアップさせているベンチャー企業も少なくありません。ソーシャルメディアを利用して個人がインターネット上で発する情報は、いわゆる口コミ情報でありながら、瞬時に、かつ広範囲に拡散される可能性を有しています。このようなインターネット上の情報が有する特性を上手に活用することができれば、テレビや新聞などのマスメディアでの広告宣伝活動を行うことほどの資金力のない企業であっても、自社の商品やサービスに関する情報を日本国内のみならず世界的規模で広めることが可能となります。また、ソーシャルメディアを通して得られる情報を分析することにより、ユーザのニッチな需要を深堀りすることもできるなど、ソーシャルメディアの活用は、ベンチャー企業にとって有力なマーケティングのツールになり得るものと思われます。

その一方で、自社の従業員がソーシャルメディアを利用することを不安に思っているベンチャー企業の経営者の方も少なくないものと思われます。従業員が自社の機密情報を漏えいしたり、内部事情を暴露するような書込みを行っていないか、取引先の営業秘密にかかわる内容の書込みを行っていないか、他人の名誉を毀損したり、刑事事件に発展しかねない内容の書込みを行っていないかなど、不安材料は山ほどあるかと思われます。

さらに、今回のように、企業の取締役になりすました人物がtwitterで挑発的なツイートをしたことにより、その企業に対するクレームが殺到してサイトが炎上するという騒動が発生したことによって、不安材料がまたひとつ増えたのではないでしょうか。

インターネット上の自社に対する風評や噂は、自社にとってプラスに働く場合もあれば、マイナスに働く場合もあります。どんなことにも賛否両論あることは当たり前ですので、自社にとってあまり好ましくない風評や噂が少々あるとしても、それが許容できる範囲内のものであれば、さほど気にする必要はないものと思われます。

しかしながら、自社に対するマイナスの風評や噂に増加傾向が表れ、ビジネスに影響が生じうるときには、注意を要します。マイナスの風評や噂の出所はどこにあるのか、根拠となる事実があるのか否かなどについて調査したうえで、自社としてマイナスの風評や噂を打ち消す内容の情報を公表することができるか否か、風評や噂の出所に対して何らかのアクションを起こすべきか否かについて検討し、自社としての対応方針を素早く決定して行動することが必要となります。

いざというときに素早く行動できるようにするためには、日頃から自社に対するインターネット上の風評や噂について注視していることが必要となります。最近では、企業に関する風評や噂がブログやtwitterなどに書き込まれているかどうかを監視して企業の風評リスク管理をサポートするサービスを提供する会社もありますが、こうしたサービスの利用にはコストがかかりますので、立ち上げ間もないベンチャー企業がこうしたサービスを利用することは難しいかと思われます。ただ、そうであっても、インターネットの検索機能などを活用して、自社や経営者自身に関するインターネット上の風評や噂、自社の役員や従業員が発信している情報などについて、定期的・継続的にチェックするなどの体制を整えることは可能であるものと思われます。

ベンチャー企業の経営者の方には、ソーシャルメディアが有するプラスの面とマイナスの面の両方を理解していただいたうえで、上手に自社のビジネスに活用していただければと思います。
 

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