平成23年8月23日の夜、人気タレントの島田紳助さんが暴力団関係者との親密な関係を理由に、同日付で芸能界から引退する旨を発表しました。今回は、このニュースを取り上げて、暴力団等のいわゆる反社会的勢力と関係を持つことに対する法的な規制について解説し、また、ベンチャー企業の経営者として留意すべき事項について解説します。
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ニュースの概要
テレビ番組の司会者などとして活躍していた島田さんは、平成23年8月23日の夜に行われた記者会見で、暴力団関係者との親密な関係を理由に、同日付で芸能活動を引退すると発表しました。所属事務所による説明などによると、島田さんは、旧友が暴力団員となった後も、メールのやり取りをして親密な関係を取り続けていたとのことであり、また、十数年前に個人的なトラブルに関して、この旧友を通して暴力団関係者にトラブルを解決してもらい、その後もこの暴力団関係者にメールを送ったり、自らが経営する飲食店に来店した際に挨拶をしたりするなどして関係を続けていたとのことです。
所属事務所では、今年の8月中旬に外部からの情報提供で事態を把握し、本人に確認したところ事実関係を認めたため、「社会的影響力の高いテレビなどに登場しているタレントとして、厳格な態度で臨んだ」とのことです。
芸能人と暴力団関係者との交友関係が表面化して問題となったケースは過去にも多々ありますが、島田さんはレギュラー番組をいくつもかかえる人気タレントであったことから、突然の引退表明を受けて、テレビ各局では出演番組の差し替えなどの対応に追われ、また、島田さんをイメージキャラクターに起用していた企業もCMの放送中止を決めるなど、各方面に影響がおよびました。
法律上の問題
暴力団をはじめとする反社会的勢力の行動を規制したり、反社会的勢力と関係を持つことを規制する法令等について解説します。
(1)暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)
暴力団対策法では、公安委員会が指定した「指定暴力団」に所属する構成員(指定暴力団員)に対して、一定の行為を行うことを禁止しています。また、同法は、既存の法令では取り締まることが困難であった暴力団員による違法すれすれの、いわゆるグレーゾーンの行為を規制し、市民生活に対する危険防止のため公安委員会が講じる措置や、暴力追放運動推進センター制度などについて定めています。これまで、警察による暴力団対策は、犯罪の取締り、暴力団対策法の運用、および暴力団排除活動の推進を3本柱として行われてきました。
(2)暴力団排除条例
暴力団対策法の運用等による暴力団排除活動にもかかわらず、全国の暴力団構成員や準構成員の数は、平成9年以降、8万人台を維持し、暴力団は、現在もなお活発に活動を続けています。
かかる状況を踏まえ、全国の47都道府県で新たに暴力団の排除に関する条例が相次いで制定され、今年10月1日に東京都と沖縄県の暴力団排除条例が施行されることにより、全国で暴力団排除活動を強化する体制が整いました。各都道府県の暴力団排除条例には、共通する基本事項に関する規定だけでなく、それぞれの地域での暴力団の活動実態や地域の特性を踏まえた規定が設けられています。
10月1日から施行される「東京都暴力団排除条例」では、「暴力団を恐れない」、「暴力団に金を出さない」、「暴力団を利用しない」、そして「暴力団と交際しない」の4つを基本理念として、①都、都民および事業者の果たす役割、②暴力団排除に関する基本的施策、③暴力団員等に対する利益供与の禁止などについて定められています。
[東京都暴力団排除条例の概要:http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/image/gaiyou.pdf]
(3)企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
暴力団の活動は、企業活動を装ったり、政治活動や社会運動を標ぼうしたりするなどして不透明化が進んでおり、また、証券取引や不動産取引等の経済活動を通じた資金獲得活動も巧妙化しています。暴力団の活動の不透明化や巧妙化が進む中で、暴力団関係企業とは知らずに取引関係をもってしまう企業も少なくありません。そこで、平成19年6月には、企業が反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対策について取りまとめた政府指針として「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が公表されました。
[企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針:http://www.jraia.or.jp/member/oshirase/METIboutsui_2.pdf]
ベンチャー企業の経営者として
近時のコンプライアンス重視の流れの中で、企業には暴力団をはじめとする反社会的勢力との一切の関係を排除することが求められます。また、反社会的勢力による不当要求や株式の取得などによる乗っ取りなどの被害を防止するための対策を講じることは、企業防衛の観点からも重要です。
東京都が配布している東京都暴力団排除条例のパンフレットをみてもわかるように、暴力団排除条例では、「暴力団と交際しない」ことが特に強調されています(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/haijo_seitei.htm)。暴力団排除条例には、暴力団関係者に対して利益を供与してはならないとする規定があり、この「暴力団関係者」とは、「暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」をいいます。つまり、正規構成員はもちろんのこと、準構成員や元構成員の一部、あるいは非構成員であっても、暴力団と密接な関係にあると認定される会社や個人は、暴力団関係者とみなされ、利益を供与してはならない対象として扱われるということです。
また、暴力団関係者との会食、ゴルフ、旅行など交際を繰り返すなどして暴力団関係者との密接な関係が確認された場合、警察や自治体から「密接交際者」と認定され、氏名や企業名など公表されたり、暴力団と関係する企業や個人との取引を禁じている業界団体に加盟している金融機関からの融資が受けられなくなったり、あるいは取引先から契約書に規定される「暴力団排除条項」に基づき契約を解除されたりする可能性があります。
「暴力団排除条項」とは、暴力団と関わることを拒絶する旨を相手に明示し、また、取引が開始された後に相手方が反社会的勢力であることが判明した場合には、契約を一方的に解除できる旨などを規定する条項のことをいいます。企業としては、暴力団と関係を持たないことは、コンプライアンスを徹底するうえで必要不可欠であり、暴力団とは取引関係をもたないよう細心の注意を払わなければなりません。また、万一、気が付かないうちに取引関係をもってしまった場合には、相手が反社会的勢力であると判明した時点や反社会的勢力であるとの疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消するようにしなければなりません。そのような事態に備えるためにも、契約書には暴力団排除条項を設けておくことが必要となります。
[暴力団排除条項のサンプル]
第○条 相手方が次の各号に該当する場合には、相手方に対して催告することなく、本契約を解除することができる。
(1)暴力団、暴力団員、暴力団関係者、暴力団関係団体その他反社会的勢力(以下「暴力団等」という)である場合
(2)自ら若しくは第三者を利用して他方当事者の業務を妨害した場合、又は妨害するおそれのある行為をした場合
(3)自ら又は第三者を利用して、他方当事者に対して、暴力的行為、詐術、脅迫的言辞を用いるなどした場合
(4)自ら若しくは第三者を利用して他方当事者の名誉、信用等を毀損し、又は毀損するおそれのある行為をした場合
(5)自ら又は第三者を利用して、自身やその関係者が暴力団等である旨を認知させる言動をした場合
上場をめざしているベンチャー企業の経営者の方には、「絶対に反社会的勢力とは関係を持たない」という強い意志をもっていただきたいと思います。証券取引所における上場審査では、会社の役員らの経歴等について確認がなされ、その際に、反社会的勢力と関係があることが判明した場合、それがたとえ過去の事実であったとしても、上場の極めて大きな障害になるものと言わざるを得ません。ベンチャー企業の経営者の方には、暴力団排除条例や企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針の内容について一度しっかりと確認をしていただき、平素からの対応に留意していただければと思います。