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同じ訓示は聞き飽きた。一人ひとりにタイムリーな声かけを!
毎週決まった曜日に朝のミーティングを全社員で行うというKさんの会社。社長の訓示は社員のモチベーションを引き上げることも目的の一つひとつです。Kさんは、自分の思いを伝えよう、会社のビジョンを明確に伝えよう、とほとんど毎回同じ内容の話をし続けました。
「言葉に乗せて思いを伝えるのは難しいですね」―。あるとき、社員の表情に「聞き飽きました」というようなメッセージを読み取ります。ショックでした。
このことをきっかけに、Kさんは、コーチングのテーマに「思いを伝える」ことを選び、言葉というツールを使って社長の思いを伝える方法を模索し始めます。
「聞き飽きてしまうような訓示って、どういうものなんですか?」と私。
これまでよいと思ってやってきたことが、社員に受け入れられないことにショックを受けたKさんにとっては、少しキツイ質問だったかもしれません。
「同じことを同じように、全員に伝わるように話していたんです」とKさん。
「もしKさんが社員で、社長のメッセージを聞くとき、どんな場面でどういうことを言われたら心に響きますか?」
「どうすればいいのでしょう」
これは、時々でてくる Kさんの思考のクセです。コーチの質問に、質問で返してしまいます。この間、Kさんの頭のなかはぐるぐると回転しています。そのクセをわかっている私は、待ちます。
「よくわからないけど(これもクセ)、大勢に向けた訓示よりも、自分ひとりのために、必要なときに声をかけてくれたほうが、心に響くかもしれません」
「自分一人のために、必要なときに声をかけてもらったほうが、心に響くんですね」と確認します。
「私は勘違いしていました。組織である以上、同じように伝えないといけないと、思い込んでいたんです」
Kさんはそのことに気づいて、一人ひとり個別に、タイムリーに声をかけて、メッセージを伝えることを決めました。
組織化するからこそ必要になる社長との直接コミュニケーション
Kさんの会社は、当時ようやく組織化を考え始めた時期でした。事業部制がいいのか、社長直結のフラットな組織がいいのかなどと、日々模索していました。組織化を進めていく上で、弊害もでてきました。「よそのチームの人に言われても、社長に言われていないので、できません」と、古くからいる社員は抵抗します。社長の戦略では組織化して管理職に責任を与え、任せていけばうまくいくはずだったのですが、そう簡単にはいかないようです。
そんななかで始めた「一人ひとりへの声かけ」
時には声をかける人が偏ってしまったり、時には時間を取られすぎてギブアップ寸前になりながらも「せめて1日ひとことでも」という思いで続けました。早くも組織間の軋轢が垣間見えそうになる社内で、朝のあいさつから終業時のねぎらいの言葉まで、「まずは自分から始めよう」と直接コミュニケーションを心がけたのです。
モテる社長の背中
風通しのよい組織を作っていく過程で「任せること」や「組織間の軋轢」は必ずといっていいほど通る道です。そのとき社長はどう対応するのか?これまで築いてきた信頼関係を希薄なものにしないために、社長自ら社員とのコミュニケーションを多くとるということが必要なのですね。
「子どもは親の背中を見て育つ」とはよくいいますが、社員も社長の背中を見て育つのです。「まずは自分から始める」というKさんの決意は、今、少しずつ社内風土・社内文化として定着してきています。