調理人のAさんは念願の独立を果たし、奥さんと二人で飲食店を始めました。小さなお店ですが、自分と奥さんだけでは切り 盛りしていくことはできません。そこでアルバイトで、料理の好きな女性Bさんを雇うことにしました。独立前に勤めていた店でも、店長がアルバイトの確保に は苦労していたことを知っているAさんは、ぜひこの人に定着して欲しいと考えました。そこで、Bさんの料理好きという点に注目して、仕事を始めてもらう際 に次のような話をしました。
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せっかく雇った従業員が辞めたいと言い出した
「開 店前の時間帯には料理の下ごしらえの手伝いを。接客は自分たち夫婦がやるので、洗い物と調理場の補助をして欲しい」。始めは彼女が得意そうな仕事をしても らい、慣れてきたら接客などに仕事の領域を拡げようと考えたのです。
その後、お店は順調にお客さんが増え、奥さん1人だけでは接客の手が 足りなくなってきました。そこで、洗い場の仕事をテキパキとこなし店に慣れてきたBさんに、客席の食器の下げをしてもらったり、時には料理を客席に運んだ りしてもらうようしました。
しばらく経ったある日、Bさんが店を辞めたいと言い出した。Aさんが理由を尋ねると「自分は 初対面の人と話をするのが苦手で、接客が苦痛だ」というのです。Aさんからみれば接客といっても注文を取る訳ではなく、そんなに難しいことを頼んだつもり はありません。本当にビックリ。しかし、急に辞められたら困るのでBさんを客席に出すことは諦めました。
ところが、今度は奥さんから不満 がこぼれます。「小さな店なのだから忙しい時はワガママを言わずに、食器の下げくらいは手伝ってくれてもよさそうなものなのに」という訳です。確かに奥さ んの言い分も解ります。しかし…、思わぬ展開大困惑のAさん。
ありのままを、 しっかりと説明して理解してもらう
どこにでもありそうな「人」に関するちょっとした問題。仕事を始める前にAさんは仕事の内容は「調理 の補助と洗い場」と説明し、接客が苦手なBさんも「それなら自分にもできる」と考えて応募しました。ところが、実際に仕事を始めてから、内容が変化してき たのです。
問題は、Bさんにやって欲しい仕事のすべてを、しっかりと説明していなかったことにありますね。社員経験のある方の多くは、与え られた仕事は何でもやる、というのが仕事に対する基本姿勢だとお考えでしょう。しかし、アルバイト採用では、ある特定の仕事だけを募集する場合がほとんど です。当然、応募者もそう考えています。
ですから、アルバイトを採用する場合には、応募の段階で「まず担当して欲しい仕事」だけでなく 「将来担当してもらう可能性がある仕事」についても、理解を得ておかないと、このような問題が起きる可能性があります。その際に、あまりくわしく説明する と、逃げられてしまうのではないか、などとは考えないこと。仕事の中身については「ありのまま」を伝えます。
相手が興味を持ちそうなこと や、良いことばかりでなく、苦労しそうなことや、苦手なことにも挑戦してもらう可能性のあることをしっかりと伝えるのです。仕事の中身を理解したら逃げる 可能性のある人を、充分な説明をせずに採用しても、結局は辞められたり、仕事のレベルが低いままだったりして、かえって事業の足を引っ張ります。
ところで、別の見方をすると、事業の成長に伴って仕事の内容が変化するのはあたりまえです。ということは、新たな仕事をやりたくないと言うBさんがワガマ マだという奥さんの主張にも、一理あるような気もしてきます。これについては、次回に考えてみましょう。