奥さんと2人で念願の飲食店を開いた調理人のAさん。洗い場・調理補助のアルバイトのBさんと3人で、順調にお店を経営していました。お客さん が増え、奥さん1人だけでは接客の手が足りなくなり、Bさんに、忙しい時は客席の食器の下げや、料理を客席に運んだりしてもらおうとしたところ、思わぬ答 えが返ってきました。
「初対面の人と話をするのが苦手で、接客は苦痛なので辞めたい」というのです。慌てたAさんは、とりあえずBさんに接客を手伝ってもらうことを諦め たのですが、今度は奥さんから異論が出ます。「お客さんが増えれば仕事が増えるのだから、我儘を言わずに、それまで担当していなかったことにも前向きに取 り組むのが、あたり前」確かに、一理あります。
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「できたて会社」では従業員の仕事の領域が「どんどん拡がる」
創業したばかりの「できたて会社」では、事業の成長に伴って、そこで働く人の仕事の領域がどんどん拡がります。起業家自身や共に起業に参画した従 業員にとっては、それは自分達の事業の成長の証であり、嬉しいことです。むしろ、どんどん仕事の領域を拡げていくことが会社や事業の成長に繋がると考えて います。
ところが、途中からその会社や事業に参加したメンバーの中には、自分は与えられた仕事の守備範囲だけをしっかりとこなすことが大切だと考えている 人もいます。まして、新たな仕事の中に自分にとっては苦手なことが含まれていると、思わず尻込みもしたくなるでしょう。しかし、乱暴な言い方ですが、「仕 事に対して上記のような姿勢=スタンス」を持っている人は、「役割分担が明確になった組織」で仕事をするのであれば、問題ありませんが、「できたて会社」 では、ちょっと困ったことになります。
ひょっとするとBさんも、このような「スタンス」の人なのかもしれません。そんな時に、無理やりその仕事をやらせたり、感情的に文句を言ったりし ても決して良い結果にはなりませんね。もちろん、従来の仕事だけを担当してもらうのでは、事業もBさんも成長しません。となると、ここでは、Bさんの仕事 に対する「スタンス」を、変えてもらうことが必要になってきます。
仕事に対する「スタンス」が成果をあげる「基盤」
人が仕事をする際の基盤になるのが、仕事に対する「スタンス」です。ですから、「できたて会社」では、起業家や経営者の仕事に対する「スタンス」 と、その従業員の「スタンス」が「多く重なっている」ことが望ましいのです。重なりが少ないと、その人にどんなに知識や経験があっても、大きな成果を継続 してあげることは期待できません。
この、仕事に対する「スタンス」は、性格や子供のころの環境、価値観、以前の職業経験など、さまざまな要因が作用して形成されると考えられていま す。なかでも、新たな仕事に就いた時の上司や経営者の影響には大きいものがあると、言われています。ですから、採用の段階で採用候補者の「スタンス」を しっかりと確認することが非常に重要です。従業員を採用する際には、つい、応募者が持っているスキルや知識、類似した仕事の経験などに関心が向きがちで す。しかし、それらを発揮してもらう基盤になる「スタンス」こそ、まず始めに見極めなければならないことなのです。
もちろん、現実には起業家・経営者が望むような「スタンス」の持ち主ばかりを集めることは不可能でしょう。そこで、ある程度は「重なるスタンス」 を持つ応募者を採用し、その人に対して、早い段階から、起業家・経営者の仕事に対する「スタンス」を、くり返して伝え、理解させ、「たくさん重なるスタン スを形成する」ことが不可欠です。この、仕事に対する「スタンスを形成させる」ことこそ、「できたて会社」の起業家や経営者が人材育成に取り組む際の、最 も大切な役割のひとつなのです。