「あの人は仕事ができる」と大?みにそのヒトの仕事をするチカラを捉えているだけでは、具体的な育成の方法が見えてきませ ん。そこで、まずは仕事に必要なさまざまなチカラ、つまり「仕事力」を、いくつかの領域に分解して、それぞれの内容を整理し、そのうえで、それぞれのチカ ラを高める方法を考えていくことにします。
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「仕事力」の3つの領域
仕事力をピラミッドに例えると、3つの層から構成されています。一番下にあり他の2つの層を支えている土台の役割を果たしているのが「スタンス」 です。そのすぐ上が「トランスファラブルスキル」と呼ばれる第2層。そしてその上に「テクニカルスキル」の第3層が乗ってい ます。
テクニカルスキル
「テクニカルスキル」は、それぞれの 事業領域や業界などで必要とされる、独自の専門的な知識や技術です。
例えば食品製造業であれば、素材や調味料、容器などの製造に必要な材 料や資材についての知識や、それらの良し悪しを見分ける技術が必要です。さらに実際に食品を扱う調理技術・加工技術や、それらを売るための知識も求められ るでしょう。もちろん業界や市場に関する知識も欠かせません。
また、事業領域の違いではなく、担当する仕事の職種の違いによっても、求め られテクニカルスキルが異なります。営業職であればマーケティングに関する知識やセールスのスキルが求められるでしょう。経理部に所属する人であれば、会 計・財務などの知識や簿記のスキルが必要です。このように、その仕事に必要な特有の知識や技術を総称して「テクニカルスキル」と呼んでいます。
このテクニカルスキルは、仕事を通じて学習し身につけることもできますし、学校や研修などの実際の仕事を離れた場でも、かなりの部分を学習することができ ます。また、知識は「文字」で書き表し、文書やWebなどの形にして保存し、多くの人がくり返して学習したり、複数の人の間で同じものを共有したりするこ とができます。
スタンス
「スタンス」は仕事をするうえで、最 も基礎になるチカラ、「仕事力」の土台です。「働く」「仕事をする」といったことに対する「基本的な考え方」や「価値観」がその代表でしょう。「仕事に責 任を持って、真面目に取り組むべきだ」と考えている人のほうが、「仕事は適当に、要領よくこなせばいい」と考えている人よりも、継続して高い成果をあげる ことができます。また、「嫌だけれど、仕方なく仕事をする」と考えている人と、「仕事を通じて自分の成長を図りたい」と考えている人では、身につく「仕事 力」には大きな差が開くでしょう。
スタンスの形成には、持って生まれた「性格」、幼年期から青年期に至る「環境」、家族や身近な人の「職 業観」、それぞれの人が固有に持っている「興味・関心」「嗜好」などが大きく影響しています。一般的には20代の後半までに形成され、知らず知らずのうち に身についているものが多いようです。ですから、スタンスの形成には、初めて職業に就いた際の組織風土や、上司・先輩の影響が大きいと言われています。
仕事力の中核のトランスファラブルスキル
「トランスファラブル(transferable) スキル」とは文字とおり「移動できるスキル」のことで、「ポータブルスキル」と呼ばれることもあります。いったいどこに「移動できる」のかというと、会社や 業界、そして職種の違いを越えて移動できるのです。
どんな業界で、どのような職種で仕事をするにしても、仕事をするために必ず必要とされ る「共通のスキル」がトランスファラブルスキルで、いわば、「仕事力」の中核スキルです。そして、トランスファラブルスキルは「対自己スキル」「対人スキ ル」「対課題スキル」3つの領域に分かれています。
このトランスファラブルスキルが充分でないと、どのように高い水準のテクニカルスキル を持っていても、組織の中でそれを発揮することができません。そして、このスキルの最大の特徴は、「実際の仕事を通じて身につけ、磨いていくスキル」 だということです。
そこで、次回から、このトランスファラブルスキルについて少し掘り下げて考えてみましょう。