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はじめに
「創業資金を十分に確保しよう!」「起業するためには資金が必要だ!」「起業に使える資金調達方法はこれだ!」「創業融資の審査通過のポイント!」・・・
これから事業を始めるにあたっていろいろと情報収集していると、このような文言をよく見かけませんか?今日セミナーや書籍、Webサイトなど、情報源は種々ありますが、そのすべて(すべてといって過言はないと思います)に事業資金についての情報があります。結果、とりあえず自己資金のみで創業しようと考えていた人が、情報を収集していくにつれて「とにかく資金を確保しなきゃ!」といった考えに変化していくといった場面をよく見かけます。特に勉強熱心な人ほど、情報に触れる機会が多いため考えが変化する人が多いように感じます。
このような変化は決して「悪い」わけではありません。後でも述べますが、事業活動には「資金」は必要です。ただ、「とにかくたくさん」というのは良くありません。資金確保にはいくつかの方法があり、それぞれにメリットもたくさんありますが、デメリットも存在します。
やみくもに資金を確保した結果、後々そのデメリットに苦しんでいる方々を私はたくさん見てきました。潤沢な資金が用意できることは、精神的に、そして会社の運営面でも安心を得ることができます。ただ、中小企業診断士の視点で見ると毎月の返済額がかさむことによる資金繰りの悪化で事業運営に支障をきたしてしまうことが少なくありません。
これから創業する皆さんには、資金を確保する前に改めて考えていただきたいです。これから始める事業に「資金」は本当に必要ですか?
「資金」は必要
いきなり結論を言うと、事業に「資金」は必要です。「資金」は事業運営の正に「エネルギー」です。事業に必要な経営資源のことをよく「ヒト・モノ・カネ・情報」なんてよく言いますよね。設備投資や雇用、事務所運営や仕入れなど日々の経営活動を行う上で必要なものを調達するのに資金は必要になってきます。
創業時には思ったよりも多くの経費が発生する
創業1年目は、店舗や事務所を借りたり、機械や厨房機器、パソコンなどを調達したりと、大きな設備投資をされる方もいます。飲食業や理美容業、製造業などをされる方は特にそうですね。日々の経費(いわゆる運転資金)も売上高が安定するまでの余力が必要です。
事業を運営していると、日々材料費や加工賃などの原価や、事務所の賃料や水道光熱費、社員の給料などの管理費が発生します。チラシや看板の作成やWebサイト制作なども必要になるので広告宣伝費もかかりますね。
事業開始当初から売り上げで経費を賄うことは難しい
事業活動においては、基本的にこれらの経費は「売上高」をあげることで賄っていきます。ただ、多くの事業が、事業開始当初から経費を賄いきれるほどの売上高を上げる事はできません。売上高が経費を賄えるまでの間は手元の「資金」でカバーしていくことになります。
このように、事業活動において「資金」はなくてはならないものです。では「資金」はあればあるほど良いのかというと、それは一概にそうとは言えません。
見落としがちになる「デメリット」
さきほど述べたように、事業にはどうしても「資金」が必要になってきます。さらに言うと、資金があればあるほど経営は安定します。投資や経費の支払いなどが容易になり、何か緊急の事態が起こったとしても対応がしやすくなります。
一方で、見落としがちになりますが、資金の確保には「デメリット」も存在します。「資金」の確保方法には大きく①融資を受ける ②補助金・助成金を受ける ③出資を受ける ④自己資金を投入する の4パターンがあります。メリットと合わせてそれぞれのデメリットを紹介していきます。
① 融資を受ける
銀行などの金融機関から資金を借り入れる方法です。メリットは、資金の確保ができることに加え、事業内容を他人に見てもらえることです。融資実行には通常「審査」が必要で、その審査に通過するために事業者は「事業計画」を立てて、金融機関に説明を行います。
事業がうまくいくかどうかを他の人に見てもらうことで事業のブラッシュアップが図れます。一方で、デメリットは、利息を付けた返済の必要があることです。利息はもちろん借りた金額や借りる期間に応じて増加します。必要以上に多く長く借りると利息の支払いだけでも大変になります。
② 補助金・助成金を受ける
国や自治体などから「資金」の補助・助成を受ける方法です。創業時に利用できる創業補助金などが有名です。メリットは、資金を基本的には「返済なし」で確保できることです。また、受けるためには「申請」が必要でそのために「事業計画」を立てます。
ですから①の融資と同様に、事業がうまくいくかどうかを他の人に見てもらうことで事業のブラッシュアップが図れるというメリットもあります。一方デメリットは、制限が色々とあることです。例えば、募集期間が決まっていることが多く、確保したいタイミングではなかなか確保できません。また、「申請」したら必ず受けることができるわけでもありません。結果、事業が補助金の募集期間や採否如何に左右されてしまって、事業活動が制限されてしまう事がよくあります。申請できる時期が限られているので、その時期申請作業にかかりっきりになってしまい、事業活動がおろそかになってしまうといった本末転倒な事態もよく見かけます。
③ 出資を受ける
他の個人や法人などに株式を譲渡し、代わりに「資金」を出資してもらう方法です。メリットは、出資なので資金を「返済なし」で確保できることです。また、出資者に事業の相談や協力依頼もできることが多いです。一方で、その「出資者」がデメリットになる場合もあります。出資比率や方法によっては、事あるごとに出資者に「お伺い」を立てなければなりません。
④ 自己資金を投入する
経営者自身の資金を事業に充てる方法です。こちらはわかりやすいですね。メリットは、資金の確保ができることに加え、利息支払いや返済、制限などがなく自由に資金を活用しながら事業が行えることです。一方で、他人の目が入らないことで、事業の成否が経営者の「ウデ」に大きく依存することになります。さらに、個人資産を十分に持っている方は問題ありませんが、生活資金が減少することで生活に制限がかかる事もあるでしょう。
「資金」を使って何をするのか
資金確保の目的を明確にする
資金の確保は、それ自体が目的ではありません。「資金」は言わば事業活動の「エネルギー」です。その「エネルギー」を使って何をしていくのかが重要です。「エネルギー」を使ってお客様の喜び・感謝、自身の達成感や満足感を得る。もちろん社員や関係者の満足も重要です。そこに「利益」も加えて得ることで、これからの活動の「エネルギー」も確保する。これを繰り返していくことが事業活動ではないでしょうか。
借入のし過ぎで返済に苦しむことも
「エネルギー」がたくさんあれば、もちろん出来る事は増えます。ただ、使いきれずに余ってしまうと「空回り」してしまい、結果、それが「足かせ」になってしまう場合もあります。また、よくあるのが、融資や補助金などでたくさんの「資金」を確保したことで安心してしまうパターンです。その結果、事業活動に身が入らず、「利益」を得ることができないまま数年後に返済に苦しむことになります。
終わりに
私は決して資金の確保に反対しているわけではありません。むしろ、事業活動には必須のものだと思っています。実際、私自身も多くの事業者の資金調達を支援してきました。資金を確保できたことで事業がうまくいった事業者もたくさんいます。
その一方で、過剰に資金を確保したことで失敗した事業者もみてきました。過剰な借入に伴う利息の支払いや返済に苦しんでいたり、補助金の時期に事業活動を合わせた事で、事業を軌道に乗せる機を逸してしまっていたり、多額の資金があることにかまけて事業に身が入らず、お金と時間を垂れ流してしまっていたり・・・
これから事業を開始するにあたって、まだまだたくさんの情報を収集していくと思います。そんな中、資金の情報にもたくさん触れる事でしょう。何事にもメリットとデメリットがあります。両者を把握した上で、適切な判断を下していく姿を期待しています。
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 高見 康一(中小企業診断士)
高見康一中小企業活性化ラボ 代表
独立系ソフトウェアハウスでシステム開発の上流から下流までを経験し、中小企業診断士を取得後に独立。「ITのわかる経営コンサルタント」として幅広く活動。
創業支援や経営改善支援の他、商工会議所や商工会で創業者や経営者向けに開催しているセミナーで好評を集める。「日本を豊かにする」を理念として活動中。
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