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必要な時に金融機関から無理のない資金調達を心がける
Web コンテンツ制作、ユビキタス関連の研究開発などを行うITベンチャーのXarts(エクスアーツ)株式会社(大阪市中央区)を設立した和田昌之さん(27 歳)のケースです。
Xarts株式会社
東京本部の皆さん
写真右から2人目が代表取締役・和田昌之さん
和田さんは、在学中に飲食業界でインターンシップを経験。人材採用を担当したことから人事関連に興味を持ち、人材会社に就職して営業に従事しました。その後、ベンチャービジネスのセミナーで知り合った同世代の人が経営するバイオベンチャーに役員として参画。一つの事業部を任され単年度黒字を達成、企業経営に目覚めて、自分自身でやりたかったコンテンツビジネスを手がけるため独立を決心したと言います。
同社は多彩な事業を展開していますが、そのうちの一つがアニメ会社などコンテンツ業界に特化した求人サイト「AniCle」の構築・運営。求職者同士が作品を評価しあうことができるSNS機能も盛り込み、日本一のクリエイターバンクを構築するという目標を描いています。
では、本題の資金調達の話に入りましょう。設立から今日までの資金調達の概要は以下のとおりです。
2005年1月の創業時、和田さんは資本金1万円で「確認有限会社」としてXartsを設立。エンジニアなどを採用し、その労働でプロダクトを納品してから売上金が入るというビジネスモデルですので、2月に給料など当座必要な資金として400万円を政府系金融機関に申し込みました。審査の結果、創業まもなくにもかかわらず半額の200万円の融資が下りました。「その時点で必要なのは、400万円より少ない額でした。けれども、審査で減額されるケースが大半と聞いていましたので、400万円申し込んだのです」と和田さんは言います。
事業は順調に立ち上がり、6月の半期決算後、スタッフも10人を超えました。9月に民間金融機関から300万円、政府系金融機関から200万円借り入れ、資本金を700万円に増資します。06年1月、売上4100万円、純利益30万円と初年度で黒字決算。3月、資本金を1200万円に増資し、株式会社に変更。同月、地方銀行から1000万円を信用保証協会の保証つきで借り入れました。4月に新卒を10人採用する計画があり、一時的なコストUP状態に対応するための資金です。
それら以外の細かい調達分も含め、和田さんは創業以来1年3か月の間に総額2000万円をすべて金融機関からの融資で賄いました。いずれもスムーズに借り入れることができたと和田さんは言います。
「以前、役員を務めていた会社の社長が計数管理に厳しい人でした。3カ月で黒字化してほしいと要請され、そのために経営計画表を作成して運営に当たったのですが、思うように数字が実現できず悪戦苦闘。結局、1年間で30回ほど書き直しました。それで計画表を作成して経営状況を管理するノウハウやスキルが鍛えられたと思います」と和田さん。
売上、原価、経費などを細かい項目に分け、3年間のスパンで月ごとに読んだ数字を記入した「資金繰り表」が和田さんの最重要の経営ツール。それに加え、事業ドメインの市場性や経営戦略の優位性などを分析した定性的な文書や、顧客との契約状況の一覧表、売り掛け実績表、預金通帳を金融機関に融資を申し込む際のツールにしました。
「『資金繰り表』を作成しているおかげで、来月いくら足りなくなる、といった近視眼的な状況に陥ることがありません。金融機関に対しても、半年後にこういう状況になるから今から資金を手当てしておきたい、というスタンスで説明ができています。1000万円もの融資がすんなり決まったのは、そういった管理レベルと1期目から黒字決算ができたことで『しっかりしている』と思わせたことが大きな要因でしょう。さらに金融機関の担当者と率直なコミュニケーションを行ってきたことで、信頼関係が築くことができたと思います」と和田さんは振り返ります。
そういった経営スキルを身につけることができたのは、創業当初に入居した(財)大阪産業振興機構のインキュベーション施設でさまざまなアドバイスを受けたことも大きな要因でした。
「営業志向だったので、当初は数字や法律はニガテでした。でも経営者の今は数字と法律ばかり(笑)。数字から会社を見る面白さ、醍醐味を感じています」と言う和田さんの今後の課題は、近い将来目指している株式上場に向け、いかに計画どおりオペレーションを実行し、数値管理の精度を高めていくかにある。
会社設立に当たっては、学んだキャリアカウンセリングの知識を生かして、エンジニアやコンテンツクリエイターと、時代や顧客のニーズとのマッチングをつねに図ることで人材を活性化させ、プロダクトのクォリティを高めるというユニークな経営戦略を打ち出しているXarts。
「里山の中に自社ビルを建て、クリエイターは一人一部屋を持ってコンテンツを制作し、それを世界に発信する。社名の『Xarts』もそこからつけました。ぜひ、ご期待ください」と和田さんは夢を語ってくれました。
今回のポイントをチェックしましょう
今回の事例におけるポイントは4つ。
一つ目は、「1回目の融資(200万円)において必要資金より多めの金額で融資を申し込んだ」こと。本文にもあったように、融資審査の際、申請金額の減額がされることはよくある話です。仮に減額されても大丈夫なように、はじめから多めに申請をするというのはひとつの方法だと思います。ただし、実際に申請金額分だけの資金が必要であるという理由を、事業計画書上で説明することが必要となりますが…。
二つ目のポイントは、「経営計画表を作成」「資金繰り表を作成」「1年間で30回ほど書き直した」こと。経営計画表・資金繰り表を作成することで、資金繰り状況をあらかじめ認識できます。また、経営計画書は一回で完璧なものはできません。何回も書き直すことで完成度は上がります。完成度の高い経営計画表なら説得力も高くなりますので、資金調達力も上がります。
三つ目は、「金融機関との担当者と率直なコミュニケーションを行ってきた」こと。担当者との関係の善し悪しが、融資の結果に大きな影響を与えます。良い関係ができているのであれば、担当者は前向きに案件を取り上げてくれるでしょうし、出来ていない場合は、あまり本腰をいれて取り扱ってくれません。
金融機関はそんなことはないと否定すると思いますが、人間の取り扱うことですので波があるのは当たり前。何と言っても、私がその経験者だったのですから…。
最後のポイントは、「事業ドメインの市場性や経営戦略の優位性などを分析した定性的な文書や、顧客との契約状況の一覧表、売り掛け実績表、預金通帳を金融機関に融資を申し込む際のツールにした」こと。金融機関に融資を依頼する場合は、できるだけ多くの資料を渡したほうが判断材料も多くなるため有利に働きます。そして、「すべての情報をあなた方に公開していますよ。隠し事は一切しておりませんよ」というアピールにもなります。このアピールが信頼関係を作る上において最重要だったりするんですね。
はじめにもお伝えしましたが、これらすべてのポイントを網羅するのはなかなか難しいと思います。しかし一つずつでも出来るようになっていけば資金調達力は格段に上がります。できるだけ真似されることをお勧めします。