こんにちは。株式会社リンクス代表の鈴木吾朗です。三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所(名航)企画経理部で純国産ジェット「MRJ」事業目論見の策定などを担当したのち、ベンチャーの世界に飛びこみました。さまざまなベンチャーのCFO職を歴任し、例えば最近何かと話題となっているgumiの元CFOも担当しておりました。
現在は、独立し、いろいろなベンチャーを外部CFOとして支援しています。
さて、スタートアップ企業のCFOは、いったいどのような仕事をするのか、実際に私の経験を交えて解説させていただきます。もちろん、当コラムを読んで財務のアドバイスや資金調達についてのご相談、あるいは外部CFOのオファーも大歓迎です。
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スタートアップCFOの仕事
2010年3月から2011年夏までgumiのCFOをしていました。その前にも別のベンチャーのCFOをしていたのですが、そこはうまくいかずに社長も逃げ出してしまったので(苦笑)、私は清算業務を粛々と行い、債権者と喧々諤々の交渉などをしていました。この時、「逃げることなく、誠実に対応していた」と、私の仕事ぶりを証券会社や投資家の方に評価してもらったことで、その後の仕事につながっています。
さて、gumiに参画した当時、1年間で社員を100名採用するという急拡大のタイミングでした。ソーシャルゲームがブレイク始めた頃で、DeNAとGREEがガチガチにぶつかっていた時期でもあります。この当時の様子は、ドリームゲートの記事「マイベストライフ」、国光社長のインタビュー回にくわしく紹介されていますので参照してください。
http://case.dreamgate.gr.jp/mbl_t/id=1215
社員がどんどん増えると、当然ですが経費が跳ね上がります。しかし、実はまだgumiはヒットゲームを出していない時期で、毎月数千万円の大赤字が続く経営状態でした。そこで私がやっていた主な仕事は、資金繰りとコスト削減です。
gumiに参加した当時は、部下0人の管理部長という肩書きでした。当時の月商が数百万円だったにもかかわらず、どんどん人材採用するということで、運転資金として西武信用金庫から2000万円の融資を確保したのが最初の仕事でした。
その後、1年ほどで10名ほどの社員が120名ほどまで増え、今度は、エクイティファイナンスを含むトータルで数億円を調達。また、創業者の国光社長の持分比率が低下しすぎないよう、事前に財産保全会社を設立。低い株価で購入するスキームを提案し、投資先と喧々諤々の交渉を行いました。
こうして事業拡大の資金は確保できたものの、売り上げは計画どおりに増えず、調達した数億円の現預金は、毎月数千万円のペースで減少し続けます。GREEの支払いサイトは60日で、ゲームの売り上げが入る前に手元資金がショートするといった状況でした。それを何とかするべく、救済のエクイティファイナンスに奔走する傍ら、売掛金の前倒し交渉、ファクタリングによるつなぎ資金の確保など、あらゆる選択肢を模索していました。
このように、華々しく報じられるベンチャーの裏側で、とにかく資金が不足しないようにギリギリの資金管理を行っているのがスタートアップCFOの仕事です。
そうしている間に、gumiから待望のヒットゲームが出始めました。最初にヒットしたのが「さんごくっ!」というゲームで、2011年2月末には「任侠道」、3月末には「デュエルサマナー」というゲームが立て続けにヒット。2011年4月の資金ショート寸前に、数億円の追加出資をクローズすることができました。
月商は数千万円から半年で数億円を超えるようになり、ようやくキャッシュフローがプラスになりました。こうなると資金繰りの心配がなくなり、次のステージとしてIPOへの計画などが立てられるようになりました。
実際、この後にgumiは総額100億円を超える大規模な資金調達を成功させて、2014年12月に上場を果たします。その後の近況については、皆様もご存じのとおりです。
私は2012年夏にgumiを退職して、Eコマースのベンチャーに参画。同社では7000万円の増資をクローズさせ、その後に参画したクラウドファンディングのベンチャーでも数千万円の資金調達を成功させました。
資金調達の現場、ベンチャーキャピタルとの交渉
それでは、資金調達、特にエクイティと呼ばれるベンチャーキャピタルなどからの投資を受けるためには、具体的に何をすべきでしょうか。
私の経験からいえば、もっとも重要なのは「ビジネスモデル」を説明する資料です。特にその時々で流行のビジネスモデルに近い絵を描けるか、イグジットを想定できるかどうかで、ベンチャーキャピタルの反応が大きく違ってきます。ソーシャルゲームが成長市場だったからこそ、gumiが数億円、数十億円の資金調達を短期間で契約できたことは事実です。
ベンチャーキャピタル側も投資委員会などで付議にかける際、出資を決定するために納得できる材料、資料が必要になります。うまくいくかどうかわからない、まったく新しいビジネスなどには、やはりなかなか資金は投じられません。しかし、すでにシリコンバレーなど海外で成功事例が出ている成長市場であれば、ある程度リスクを見込んで投資回収までの絵図が書けますので、投資決定のハードルは下がります。
ベンチャーの世界では、流行となるビジネスモデルや市場、キーワードが次々と生まれますが、あっという間にその旬は過ぎていきます。SNSしかり。Web2.0しかり。ソーシャルゲームしかり。キュレーション系ニュースしかり。
SNSでいえば、ネット・コミュケーションツールの”面”を誰が抑えるかという勝負で、シェアをとったベンチャーには莫大な収益機会、例えば広告収益などが期待できます。国内でのこの分野はmixiにはじまり、ツイッターとFacebookの後、LINEというようにメジャープレイヤーが次々に入れ替わる今でもホットな領域といえるでしょう。
Web2.0はCGMといったユーザーがコンテンツをつくり出す時代を見据えてバズりましたが、こちらでは最近はあまり聞かないですね。特にブログサービスでいえば、アメブロなどの大手が大きなシェアを維持し続けていますので、これから新規参入するにはちょっと厳しそうです。
ソーシャルゲームでいえば、DeNAとGREEがプラットフォームを押さえて巨大な利益を上げていました。しかし、ガラケーからスマートフォンに移行するなかで、プラットフォームを通さないパズドラなどのゲームが大ヒットしたこと契機に、コロプラやSUPERCELLといったゲームパブリッシャーが全盛を迎えています。
キュレーション系ニュースは、スマートニュースとグノシーの大ヒットで火がついて、NewsPicksなどの専門誌的なアプリも登場して急成長しています。従来の新聞や雑誌などの市場をひっくり返してやろうというわけです。実際、紙メディアの週刊アスキーが完全に電子媒体に移行することを発表しています。
ゲームでいえば、コンシューマーゲーム機の市場規模、キュレーションニュースでいえば、新聞や雑誌の市場規模が、投資をする際の参考になります。
新聞の広告市場でいえば、2005年に1兆円だったものが、2014年には6000億円まで減少しています。雑誌広告も、2005年の4800億円が、2014年には2500億円となっています。
それに対して、インターネット広告は2005年の4000億円が、2014年には1兆円を超える規模に急成長。またスマートフォンの広告市場も新たに立ち上がり、2014年には3000億円超にまで成長しています。
新聞や雑誌の代わりに、毎日見るようになったニュースアプリなどは、まさに新聞や雑誌に取って代わるビジネスとして期待されています。
参考資料)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2015/0224-003977.html
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2014/pdf/2014014-0220.pdf
https://www.cyberagent.co.jp/ir/finance/market/
このように、いかに成長市場と自社の事業をひもづけて投資家向けに説得できるかが、資金調達をする際の最大のポイントになります。トレンドを知るということが重要です。
日々の資金繰りなどは大変ではありますが、確実な数字が出ていれば予測が立てられます。近い将来の売り上げが確実に見込めるのであれば、それを担保に当座の運転資金を借り入れるといったことも可能です。
逆に成長市場でもなく当面の売り上げも見込めなければ、まず大規模な資金調達は困難でしょう。そうした場合は、とにかく出て行くお金を減らして耐えるしかありません。
もう1つCFOの仕事として重要なのは、証券会社と監査法人のキーマンとのつながりを持つことです。証券会社の法人営業担当者が、上場する際のベンチャーの主幹事を取ると社内で高い評価をされます。監査法人でも同様で、監査法人としての契約を取れるかどうかは重要です。そのため両者とも、IPOの可能性のあるベンチャーのCFOと懇意にしたいと考えています。それを利用して、逆に資金調達先のベンチャーキャピタルをキュレーションしてもらうことが期待できます。いきなりVCを回る前に、証券会社の法人営業担当者にアプローチして、いろいろと知恵をもらったり、味方になってもらうことも重要な仕事です。
主幹事を勤める証券会社は野村、大和、SMBC日興、SBIなどがメジャーどころです。つながるためには、信頼を置ける第三者に紹介してもらうのが手っ取り早いでしょう。顧問税理士の先生から紹介してもらう、すでに成功しているベンチャー起業家の先輩とコネがあればそこからつないでもらう、あるいはドリームゲートのアドバイザーの方でもそうした人脈を持っている方がおられますので、相談サービスの活用も使ってみてはいかがでしょう。
資本政策の重要性。CFOが投資契約書で必ずチェックしなければならない項目
ベンチャーキャピタルから投資を受ける際には必ず投資契約書を取り交わします。契約書の細かな文言のチェックなどは弁護士などに任せるのが一般的です。
CFOが、必ず確認しておくべき点は以下の4つです
1. 取締役/オブザーバー派遣の取り決め
2. 重要な経営事項についての事前承認の取り決め
3. 株式買取請求の内容
4. 希薄化防止の取り決め。「最恵待遇」の有無
いずれも会社の経営権を大きく左右する項目です。
出資の条件として、出資側から取締役を必ず入れなければいけないとなると、その人数にもよりますが、経営会議で常に投資家サイドの目が光ることになります。経営陣と一体となって事業の成長に取り組んでくれる、汗をかいてくれるような投資家なら経営陣にとして迎えるのは心強いですが、お金だけ出して後はとにかく回収のことしか考えないような場合は足枷になってしまうでしょう。
また、通常は取締役会や株主総会で経営の意思決定を行いますが、それとは違うところで経営事項に対して事前承認が必要というような取り決めがあると、経営側にとっては厳しい条件となります。
個人保証付きの株式買取請求などは論外。出資した株式を後で強制的に買い取ることを約束するものです。これは投資側のリスクをかなり減らすスキームであり、投資というより融資に近いものになりますので避けるべきでしょう。
そして希薄化防止、あるいは最恵待遇とは、将来の増資の際に別の条件を求めるものです。要は自分が出資した際の比率を下げたくないための項目ですが、これもスタートアップ、アーリーステージの小額出資の際に気をつけなければならない項目です。
このような条項が入っていないかをチェックして、もし入っていれば創業者やCEOに指摘して、当然それを取り下げる、変更する交渉をすることがCFOの重要な仕事になります。
当然、上記のような対応を取る前提として「資本政策」を決めておく必要があります。資本政策とは、簡単にいうと将来にわたって、会社の権利の持分をどのように配分するかを決めておくことです。資金調達をするために株式の何割までを外部の投資家に持ってもらうか、あるいは創業チーム内の株式比率なども重要で、例えば創業メンバーが途中で離脱するといった場合の買取条件についても事前に定めておきます。なぜなら、株を保有した取締役が、仮に株を持ったまま会社を離れたり、競合となるような会社に移ると一大事だからです。
以上、基本的な項目でしたが、スタートアップCFOの仕事内容、資金調達の現場感が伝わりましたでしょうか。
スタートアップCFOの仕事は、とにかくタフなことばかりです。人間の嫌な面をたくさん見なければいけません。創業者やCEOは、数字を支えるCFOがしっかりしていれば、ある意味、夢を追いかけているだけでも許されるでしょう。事業で重要なのは売り上げを上げること、そのために売れる商品やサービスをつくることに、CEOはまい進すべき。
しかし、そうした仕事に集中できないまま、創業者やCEOが常に金策に走り回るケースが多いのも現実です。だからこそ、私はレンタルCFOとして、スタートアップの資金面を支える仕事をしているのです。ドリームゲートのオンライン相談は無料ですので、ご興味あられる方はお気軽にご相談ください。