【飲食店開業M&A 第7弾】M&Aによる飲食店開業のコストを解説

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: 萩原 洋

先日、試しに大手転職サイトの無料登録をしてみたところ、求人情報の一覧が送られてきました。一部上場のような大手企業でも、通年募集を行っているのはかねてから知っていましたが、あまりの多さにビックリしてしまいました。

私たちの時代、1980年代の頃は新卒一括採用が原則で、中途採用はヘッドハンティングのような特別なものがある程度見られたくらいでした。バブル崩壊後30年近く経つ間に、雇用する側もされる側も、考え方が大きく変わってきたものだと、感慨深く思いました。

「脱サラして飲食店開業」の過去と今

従来とおり、ある会社に入社したら退職するまで頑張るのもひとつの生き方です。また、数年勤めたら転職してキャリアアップを図るのも、またひとつの生き方です。そのほかにも今までの経験を生かし、起業することで経営者として新たな挑戦するのもよいでしょう。

起業というと、今の時代はやはりIT関連が多いのですが、一方で従来のような飲食店の開業という選択も多く見られます。昔は会社が倒産したり、肌が合わずに辞めてしまったような時、「飲み屋でもやるか」あるいは「スナックでもやろうか」といった思いつきから飲食店を始めるパターンが意外に多く見られました。

それでも当時はそこそこ成功できた時代でもありました。しかし、今は長引く不況の中で、脱サラして飲食店を開業する人たちの考えも、しっかりとしたものになっているように思われます。どのような業態の店舗をオープンさせるのかという明確なコンセプトを持ち、自己資金をはじめ必要な開業資金の調達方法を考え、ネットからの情報収集やセミナーなどを通していろいろな知識を身につけるといった入念な準備をする人たちが少なくありません。

また開業方法も、一からすべて自分で行う従来とおりの方法や、飲食フランチャイズに加盟しオープンする方法、そして、最近注目されてきているM&Aを利用してほかの店舗を引き継ぐ形で開業するなどさまざまで、自らの店舗コンセプトや開業資金などから検討し選ぶことができます。

特に、初めて店をオープンする場合開業資金も限られますから、廃業予定の店舗をM&Aで安く引き継ぐ方法が、初期投資を抑えた開業方法としてよいのではないかと思います。

そこで今回は、M&Aによる飲食店の開業費用を、ほかの方法による開業の場合とで比較しながら検討していきたいと思います。では、M&Aによる開業コストの前に、ほかの方法の場合の必要コストから見ていきましょう。

一から自分で始める飲食店開業のコスト

サラリーマンの方々が会社を辞め、一から飲食店を開業する場合にかかる初期費用は、ケースバイケースですが、ひとつのモデルケースとして私が以前営業していた「和風らーめん店」を参考に見ていきましょう。

場所は都内の都心寄り、広さは12坪といったものでしたので、物件としては高めの店舗でした。そのため物件については1/2と仮定して、出店までの初期費用を出してみると、おおよそ下のようになりました。

  • 店舗保証金12〜15坪…………………120万円〜150万円
  • 店舗内外装工事(スケルトン状態)……300万円〜400万円
  • 什器・備品類……………………………150万円〜200万円
  • 初期仕入れ費……………………………15万円〜20万円
  • 広告宣伝・求人募集費…………………15万円〜20万円

あくまでもおおよその数値ですが、600万円〜800万円は必要かと思います。このほかに、当面の生活費を用意しておくことも大切です。自己資金を300万円として、不足分は日本政策金融公庫(日本公庫)からの借り入れということになるでしょう。

一方、「居抜き店舗」の利用という方法も考えられます。上記の初期費用の内訳でもっとも高額となってしまう、内外装と什器関連費用がほとんどかからなくなりますから、かなりの費用削減効果があります。私の知り合いのオーナーは、廃業予定のとんかつ店を居抜きで取得し、通常の半分ほどの費用で居酒屋店をオープンしています。

フランチャイズ加盟による飲食店開業コスト

フランチャイズ加盟による開業では、自らオープンする場合に比べ、5割増しから2倍くらいのコスト増となることを想定しておいたほうがよいと思います。事実、私もフランチャイズ加盟した経験がありますが、通常の同規模の予算に比べ3倍もの加盟金、その他一式費用を請求された覚えがあります。
また、毎月加盟料という固定費も必要になります。その割に思ったほどの売上、利益が見込めるわけではありません。フランチャイズ加盟の場合、費用対効果について十分検討する必要があります。

M&Aを利用した飲食店開業コスト

現在、飲食業界におけるM&Aの主役は、大手外食企業から中堅企業です。これらの企業がM&Aを利用して規模を拡大したり、有名なお店を買収して新規にチェーン展開するといった経営戦略上の有効なツールとしてM&Aを活用しているのです。

その一方で脱サラして開業するケースでは、まだM&Aによるものは少ないようです。売る側の店舗オーナーとしては、長年手塩にかけて経営してきた店舗のその後の存続、発展を願っていますから、経営経験豊富な事業者への譲渡を望むのは無理もありません。また、売却後の生活を考えると、資金の面で余裕のある企業に売りたいと考えるでしょう。

M&Aアドバイザーによる売買の場合のコスト感

M&Aにはそれを仲介するM&Aアドバイザーなどの事業者がありますが、これら事業者が受け取る一般的な報酬は、「レーマン方式」という業界特有の算出方式により計算されます。この方式は、取引金額に対して一定割合の報酬額を出すもので、金額が少ないと割合が高く、金額が上がると割合は下がるものです。たとえば、取引金額が5億円以下は5%、100億円超は1%といった具合です。

しかし、個人レベルのM&Aではここまで売買金額が高くなることはまずありません。

そこで、M&Aアドバイザーなどの仲介会社も、自社でM&Aプラットフォームを設けて、低予算で売手側・買手側によるマッチングサービスを行うようになってきました。
このようなサービスを利用した場合、売買価格は300万円〜500万円程度で取引されるようです。M&A仲介会社が受け取る報酬額は20万円前後になりますから、プラットフォーム型M&Aサービスでは数をこなし、薄利多売で儲けるということになります。ただ、通常のM&Aのように、多くの営業スタッフを使って案件探しをする必要がないため、大幅なコスト削減効果もあり、M&A仲介会社にとってもそれほど割に合わない仕事ではありません。

今後、事業承継による個人レベルのM&Aが増えることが予測されますから、プラットフォーム型M&Aサービスを利用した数百万円程度の飲食店売買が増える可能性はあります。

この300万円〜500万円の金額であれば、先に述べた一から自分で始める開業の半額程度で開業できるかもしれません。また、飲食フランチャイズ加盟の1/4ほどの金額で、すでに成功している店舗を手に入れることも可能です。

事業引き継ぎ支援センターを使う場合

このほかにも、国や都道府県、そして商工会議所などの連携による「事業引き継ぎ支援センター」の無料のプラットフォームを利用する方法があります。プロの専属指導員のもとで、売手側オーナーと買手側との直接の話し合い・交渉でマッチングできれば、引き継ぎ後顧問になってもらう予定の税理士などに、税務や財務の簡単なデューデリジェンス(DD)を実施してもらう費用が50万円前後かかるとしても、さらにコストを抑えたM&Aによる飲食店の開業も考えられます。

その他のM&Aのケース

こうした一般的なルートのM&Aのほかにも、飲食業界ならではのルートによる開業があります。それは長年客として利用している店のオーナーが高齢で廃業・引退を考えている場合、「仕事を教えるから跡を引き継がないか」と打診されることです。
私もかつて行きつけの店のオーナーに誘われたことがあります。また開業後、取引先の業者が売却案件を持ってきてくれることもあります。酒屋などの卸問屋では、いろいろな業態の飲食店と取引がありますから、こうした情報が入るのです。

このような場合には、通常のM&Aの手続きを経ることもなく売買価格も、仲介会社を通した一般的な相場よりかなり安く譲り受けることができます。

最後に

個人が飲食店を開業する場合、いくつか方法がありますが、M&Aを利用した方法は、比較的コストを抑えて開業できるものです。

現状、個人レベルのM&Aによる飲食店開業はまだ少ないですが、今後は事業承継の一環として増えることが予想されます。そのためあまり焦らず、自己資金を貯めたり調理や経営についてのスキルや知識、ノウハウなどの修得をしながら、気長に案件を探す余裕を持つことも大切です。

 

執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)

外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。

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