平成から令和へと移り変わっても、一向に景気がよくなる兆しが見えません。
バブル崩壊後の平成で、私たち日本人の間には、値引き・割引・無料サービスなどのデフレマインドが深く根付いてしまったようです。
そして、急激な少子高齢化と人口減少、経済のグローバル化といったことから、企業を取り巻く環境は相変わらず厳しいものがあります。
そのため、かつてのように入社から退職まで企業が社員・従業員の雇用を守るという終身雇用も、だいぶ前に実質崩壊していました。
こうしたなかで、雇用される側の社員の考え方、価値観も大きく変わってきています。
入社したら定年までひとつの企業に在籍し、コツコツ働くことにとらわれなくなっています。
一部上場のような大手企業に入っても、数年で退職してほかの企業に再就職したり、起業するといった若い人も増えています。
こうしたサラリーマンが起業・創業することは、以前から脱サラといって決して珍しいものではありませんでした。
この脱サラした人たちの転職の代表的なものが飲食業で、現在でも多くの脱サラした人たちが、さまざまな業態の飲食店を開業しています。
そこで今回は、サラリーマンが早期退職して飲食店を開業する際に、押さえておきたいポイントについて解説していきます。
- 目次 -
飲食店開業に際して押さえておくべきこと
飲食店を開業する際に押さえておくべきポイントは、その時々によって多少違ってきますが、不変的なものもあります。
それは「立地」、「資金」、「従業員」です。
そしてこれら3つの前提には「経営理念」という最大のポイントがあります。
それぞれのポイントを具体的に紐解いていきましょう。
飲食店開業で押さえておくべきポイント①−「経営理念」
会社を設立する時、創業者などが自身の経営に対する基本的な考えを表したものを、経営理念、または経営コンセプトといいます。
その会社の根本となる規則で、言ってみれば会社の憲法といったものです。
飲食店を開業する場合でも、同様に経営理念や経営コンセプトは極めて重要です。
ただし、経営学のテキストに出てくるような、一番上に経営理念があって次に経営ビジョンがあって…というような抽象的なピラミッド構造の経営理念体系を作る必要はありません。
たとえば、郷土料理店を開業したいと考えたときに、「当店を通じて○○県の食文化や伝統、風土ということを広めていく」、ということを経営理念にしてもいいのです。
私の出身は群馬県の山岳地帯で、農作物はあまり作れないところですが、岩茸という断崖絶壁に生える珍しいキノコの一種があります。
これを酢の物や天ぷらなどにして提供したりその他の珍味をアレンジした郷土料理店をオープンしたとします。
来店していただいたお客様が、それをネットなどで紹介してくれると、その山岳エリアに興味を感じたお客様が、後日宿泊やハイキングに訪れるといった、思わぬ地域おこしの効果も期待できるのです。
こうした明確な店舗づくり、店舗運営上の考えがあれば、商品づくりや店舗の内外装づくりなども、1本筋の通ったものができます。
また、店舗経営に迷ったり行き詰まった時にも、戻るべき原点である経営理念が設定されていると、振れずに経営できるのです。
経営者自身も従業員も一目でわかる明確な経営理念を設定し、朝礼など皆が集まっている場で、確認しておくとよいでしょう。
飲食店開業で押さえておくべきポイント②−「出店立地」
飲食店開業の成否は、その店をどこに出店するかといった立地で決まってしまいます。
どんなに立派な経営理念に基く店舗デザインや設計・施工、商品づくりをしても、立地が悪ければ、飲食店に限らず店舗経営は極めて難しくなってしまいます。
最近は、「フェイスブック」、「ツイッター」、「ライン」あるいは「インスタグラム」など、 SNSを使ったマーケティングで、不利な立地でもそれなりに繁盛店となることができるようになりました。
しかし、これらのツールが普及する以前は、差別化された店や商品が提供できるところであれば常連客がついて、口コミで広めてもらえるということもありましたが、ほとんどの店では数年も経たずに閉店してしまうといった状況にありました。
このようなことは今でもあまり変わらないように思います。
飲食店を開業するには、やはり一等立地を、焦らず時間をかけて探すことです。
店舗専門の不動産業者に依頼するにはもちろんですが、自分自身でも時間を見つけて探しに出ます。
一般的に一等立地、二等立地は、大きな駅や繁華街、商店街または幹線道路沿いというものがひとつの判断基準にはなりますが、それがすべてではありません。
路地裏の一見わからないような場所でも、そのエリア全体がひとつの一等立地もあります。
東京を例にあげれば、四ツ谷近くの荒木町や飯田橋の先にある神楽坂などは路地裏に繁盛店が多くあります。
一方で、四ツ谷駅前の大とおりでも二等立地はあります。
このように立地というのはそう単純なものではありません。
周辺施設や夜間・昼間の人口、周辺住民の年齢層など、その業種・業態に合った立地というものもあります。
そして、立地条件というものは固定的なものではなく、時とともに変化するものといった認識を持っておくことも注意すべきポイントです。
飲食店開業で押さえておくべきポイント③−「開業資金」
スポンサーでもいない限り、自身が出資する開業資金がなければ飲食店開業はあり得ません。
飲食店をゼロからスタートさせようとするなら、最低でも500〜1000万円は必要になります。
飲食店を脱サラで開業するのであれば、自己資金300〜500万円、「日本政策金融公庫」から500〜1000万円の範囲で融資を受けるといったパターンがいいと思います。
最初の店舗はできるだけ資金を抑えたほうがいいでしょう。
小さく生んで大きく育てるという考え方で、はじめから大きな投資は避けるべきです。
そして開業資金には、開業後少なくとも半年ほどの自身の生活費も含まれていることを忘れてはいけません。
なぜなら、開業と同時に利益が出るわけではないからです。
また、自己資金は何年もかけて経営者がコツコツ貯めたお金でなくてはいけません。
なぜなら融資先である日本政策金融公庫では、そのあたりもしっかりと調べるのです。
飲食店開業で押さえておくべきポイント④−「従業員の確保」
飲食店を営むには、経営者ひとりで行うことは難しいものです。
最低でも数名の社員・アルバイトが必要になります。
よく経営資源には「ヒト」、「カネ」、「モノ」、「情報」が欠かせないと言われます。
なかでも「ヒト」に対しては、特に慎重さが求められます。
「ヒト」にはそれぞれ違った感情があるからです。
また、昨今の人手不足は飲食業界でも深刻になっています。
せっかく採用した従業員ですから辞めてしまうことのないよう十分な配慮か必要です。
それは給与・時給といった目に見えるものばかりでなく、働きやすい環境づくり、人間関係、明確な人事評価システムの構築などが大切になります。
そして、最近ではいろいろな国の人たちが従業員として入ってきます。
言葉の違いだけでなく、宗教、文化、価値観の違いなどの面への配慮も重要です。
飲食店開業で押さえておくべきポイント⑤−「開業方法」
このほか、飲食店開業に際して考えておくべきポイントとして、開業方法の選択があります。
ひとつは、上記にあげた「立地」、「資金」、「従業員」をゼロからスタートしてひとつひとつクリアしていく方法。
そしてもうひとつは、近年飲食業界でも盛んになってきた M&Aを利用し、少ない資金で立地条件をクリアして有能な従業員を引き継ぎ、すでに成功実績のある店舗を承継するスタンスを取る選択です。
双方それぞれにメリット・デメリットがありますから、十分検討して自身の開業理念に合った形で、無理なく開業することが成功するカギとなるでしょう。
>>【飲食店開業M&A 第2弾】M&Aを利用して飲食店を始めよう
執筆者プロフィール:
ドリームゲートアドバイザー 萩原洋(有限会社銀河企画 特定行政書士)
外食FC立ち上げへの参画や自らも複数店舗の経営を行った後に独立。
フードビジネスコンサルタントとして20年のキャリアをもつ萩原アドバイザー。
飲食店等を長年経営し引退を考える経営者が、事業を他者に譲り渡す「事業承継M&A」に複数携わるなど、ゼロからの出店ではなく立地や顧客を引き継ぎながら経営を始めるという分野のご経験を豊富にお持ちのアドバイザーです。
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