シニア・熟年専門の起業ナビゲーター、松延健児と申します。1984年大学時代にマーケティング会社を共同起業して以来、経営者としてさまざまな仕事をさせていただきました。起業支援歴は31年、私自身もシニアと呼ばれる年齢になり、周りには「定年」「早期退職」を迎える方や「子育て」を卒業してセカンドライフをどう生きるか、という友人や先輩方が多く見られるようになりました。
私が師と仰ぐ、日野原重明先生(103歳国際聖路加病院名誉院長)は、常日頃から「国連や世界保健機関が定めた、前期・後期高齢者の年齢設定は過去のもの、超長寿国日本においては、シニアが活躍すれば国内の生産労働人口は減ることはないです!!」と仰っていて、私もそのとおりだと思っています。日本のシニア人材は、経験・スキル・人脈・資産を持つ宝の山です。私はそんなシニアが一人でも多く、「雇われない生き方」や「シニア起業」に踏み出していけば、日本を活性化する原動力になると信じています。
私は2013年から、「シニア起業家&女性起業家+社会の課題解決に貢献する起業家~めびうすのWA」という活動を主宰しており、現在、勉強会や交流会などの参加者を含めると延べ500名を超える起業家コミュニティに成長しています。本コラムでは「シニア起業のススメ~楽しみながら“セカンドライフ起業”するコツ」と題して、シニア起業の成功事例を交えながら起業のイロハを解説させていただきます。
- 目次 -
1.シニア起業が日本の未来を変える‼
増えるシニアの起業成功例
論より証拠。まずはシニア起業で成功された方の事例をご紹介します。
・米粉パン&シフォンケーキの製造販売事業で起業~定年退職を迎えた元銀行員・村上孝博さん(65歳)
村上さんは60歳で定年退職後、職業訓練プログラム「介護、農業、米粉パン」を受講。直後に東日本大震災が発生し、「社会に役立つ起業を志したい‼」と一念発起して、日本の課題の一つである米の消費拡大の解決を目指して、米粉パン&シフォンケーキの製造販売事業で起業を決意。現在は横浜で「カフェライサー」を開業し、地域コミュイティの場を運営している。
・NPO法人で起業~世界を舞台に活躍していた元商社マン・古久保俊嗣さん(61歳)
母校の同窓会で再会した旧友と「男女共同参画社会の創生」に共感し、2004年「NPO法人エガリテ大手前」を起業した古久保さん。「祖父の子育て参画を促進するソフリエ」など独自プログラムを開発し、全国自治体と協働して普及を図っている。2015年には二束の草鞋で務めていた会社を退職して「ソーシャルビジネス」を本格稼働することを決断した。
・日本眠育普及協会を設立~3人の子育てと母親の介護が一段落した橋爪あきさん(65歳)
橋爪さんは介護中に自身の睡眠障害を患い克服した体験から、「睡眠改善インストラクター」資格を取得。2013年に日本眠育普及協会を設立し「睡眠が変われば人生が変わる」という良質な睡眠(快眠)を得るためのさまざまな眠育普及活動を開始した。
・講師紹介センターで起業~広告代理店に勤めていた藤井敬三さん(74歳)
定年後10名の仲間と決起し、2004年に元気な高齢者の社会参加を支援するNPO法人シニア大樂(だいがく)を設立した藤井さん。講師紹介センターの事務局長として、現在約500名の得意領域をもつシニア講師をコーディネートしている。また、シニア社会人落語家として「笑いと娯楽の講座」も運営しており大盛況。
・犬の散歩ビジネスで起業~化粧品販売会社を定年退職した古田弘二さん(72歳)
「愛犬のお散歩屋さん(株式会社JTL)」という犬の散歩ビジネスで起業した古田さん。全国FCメンバー70名のネットワークも構築して、年商3億円のビジネスを達成した。普段は個人で活動するメンバーと、月1回勉強会でサービス改善など情報交換するコミュニティがとても楽しいそうです。
「起業といえばシニアの時代」がやってきた!!
中小企業白書データで「40歳未満の若者の起業件数」と「50歳以上のシニア起業件数」を比べると、2000年頃までは拮抗していましたが、最近は完全に逆転して、「起業といえばシニアの時代」になりつつあります。
健康長寿で85歳まで働ける
先ほど事例でご紹介したシニア起業家の皆さんが、口を揃えておっしゃるのは「85歳まで健康で働いて、最後はピンピンコロリで逝きたい!!」です。
そして「雇われない生き方」は、会社員時代と比べて自由で楽しく、生きがい・やりがいを実感できるので、毎日が充実しているとのこと。いつもお会いする度に、素晴らしい笑顔でイキイキとしたエネルギーを感じさせてくれます。
2.過去の貴重な経験、スキル、人脈を上手く生かす!!
日本の高度成長を支えたシニアの底力は凄い
シニアの方々は、日本の高度成長を支えてきた素晴らしい経験と実践的なスキルをお持ちです。しかし、ひとつの会社・ひとつの業種しか経験されていない場合も多々あり、定年を機に環境や働く業種を変えれば、まだまだ成長できる場があることに気づいておられない方が多いようです。「雇われない生き方」は経験したことのない領域かもしれませんが、起業の素養は十分に備わっていらっしゃるのです。
時代にマッチする経験やスキルを棚卸チェックする
最近、定年や早期退職を控えた方から、「起業も考えてはいるが、自分はどのような仕事に向いているのだろうか?」「改めて自分探しをしているのですが、、、」という質問を受ける機会が増えて参りました。そんな時私は、まずご自身のこれまでの経験やスキルの「棚卸チェック」をすることをおススメしています。
過去の棚卸し(振り返り)により、自分自身を客観的に見つめることから始めるのです。自分史を書くなど、時間のかかる方法もありますが、幼少期から現在までのバイオリズムイメージ(1年区切りでよい時期、悪い時期の線グラフ)を描き、それぞれの最上点と最下点の出来事とその要因分析、そして各世代で描いていた夢や目標などを書き出すことが手軽で判りやすい方法だと思います。
できれば、その棚卸表を第三者に話したり、グループセッションなどで発表して質問に答えるなどしてみてください。バイオリズムをより明確にイメージし、過不足を調整すると精度が向上していきます。個人差はありますが、徐々にご自分の強みが見えてくるでしょう。子供の頃の漠然とした夢や目標が、大人になってから大きく影響していることに驚かれる方も多いようです。
やりたいこと、できること、社会に望まれていることを書き出す
さらに、「本当にやりたいことは何なのか?」「自分にできることは何なのか?」を、イメージでよいので30項目づつ書き出してみると、強みが徐々に明確になってきます。これは従来の既成概念を取り払い、頭を柔らかくする体操的な意味合いもあるので、正確に記することよりもとにかく量を書くことに徹するとよいでしょう。ゼロからレールを敷く起業の世界に正解はありませんから、夢でも妄想でも構いません(笑)。
次に上記とはまったく別の視点で、「世の中の人が困っていること(社会の課題)」を具体的に30項目書き出してみます。ニュースや新聞記事から拾ってもかまいませんし、私が作成した「起業のヒント!社会の課題12のジャンル」(以下の図版を参照)を参考にしてくださっても結構です。この作業は起業テーマ探しなので、ひとつを掘り下げるのでなく、たくさん列挙することが大切です。
3.課題先進国ニッポン、起業のテーマは豊富にある!!
超高齢化、少子化、社会の成熟化が進む中で歪がいっぱい
日本は世界に類を見ないスピードで、少子高齢化時代に向かっています。頭では何となく理解できていても、これをどう実際の起業メンタルに取り込むかが重要になってくるのです。なぜなら、今後10~20年のスパンで起業を考えなければならい時に、一過性のトレンドだけを追い求めると起業テーマを見誤ることが多いからです。
少子高齢化による人口バランスの歪は、社会の課題としてさまざまなジャンルで表面化してきています。従来の縦割り行政では課題解決に時間が掛かったり、課題が複雑化しているため置き去りにされている問題も多く存在します。逆にこのことが、民間起業のチャンスであり、ここに「起業の種」が無数に存在しているのです。シニアの豊富な経験や実務スキルをもって、社会の課題解決に役立てる分野が必ず発見できるでしょう。
俯瞰的に社会の構造を眺めてみると起業テーマが見えてくる
業種や分野を選択する際の落とし穴は、「自分が得意とする領域だから」ということで安易に起業テーマを決めてしまうことです。しかし、そこにはすでに多くのプレイヤーがいるかもしれません。実は、誰も着手していない分野にこそ勝機があるのです。その業種・分野を探すためには、社会の課題全体を俯瞰的に見て、ひとつひとつイメージしながらチェックしましょう。今はインターネットで気になるテーマを検索すれば、業界情報やすでに起業された方のサービス内容に容易に触れることができる便利な時代なのですから。この作業は一般的にマーケティングリサーチのプロセスで、会社の仕事でも実践されていた方は多いと思います。ただそれとは違って、自分の意思で企画しながらの作業はワクワク感もあり、社会の課題と直面するリアリティのなか、新しい自分を発見できるなど喜びを伴う作業となるでしょう。
起業テーマを持つと、意外な仲間が増えてくる
そして、第2段階はヒアリングです。起業テーマがいくつか絞れてきたら、その業界の課題について具体的に聞き込み調査をするのです。昔の友人知人をたどれば、業界関係者に必ず行きつくでしょう。最近はSNSでの交友関係から簡単に探せることも多いです(SNSは情報発信だけでなく、情報収集に利用しやすいことは意外に知られていません)。
サービス提供者の情報はある程度ネットで情報把握できますので、ヒアリングは、社会課題に直面して困っている当事者の方の意見をたくさん集めることをお勧めしています。
この時、重要なことは、「自分は何者で、こんなことをやろうと考えているのでご協力をお願いします」など、実情を誠実に伝えることです。当然ながら、怪しげな人と判断されると大切な情報や本心を容易には語ってもらえません。常に誠実に対応をしていると、「そういうことならこの人に聞くといいよ」など、重要なキーマンを紹介してもらえたり、その後の意外な人脈につながるケースは非常に多いものです。
4.「カンバン・肩書」は不要!!ゼロスタートが起業の醍醐味
起業のためのシフトチェンジ(意識改革)のコツ
ここで一息。「シニア起業の落とし穴」について触れておきます。先ほど、豊富な経験、抜群のスキルなど、シニアは宝をたくさんお持ちだと書きましたが、前提として「企業というカンバンと肩書」がベースにあったからこその成果でもあるのです。ですから、定年や退職してからの行動は、常に消費者目線、市民目線に立つ必要があります。これは30年以上、転職せずに一社に所属していた方にとっては意外に難しいことかも知れません。例えば、昔の取引先を訪ねて「元〇〇会社の〇〇です」を連発したり、従来の力関係が残っていると勘違いした上から目線の言動は、絶対にNG。起業した後は、昔の余計な肩書は不要です。むしろゼロスタートで、誠実に物事に取り組む姿勢こそが評価される世界なので、ぜひご留意ください。
例え話をもうひとつ。起業は、「特急列車から各駅停車に乗り換える」ことと似ています。今までは会社持ちの特急券でスピーディに移動できましたが、起業というのは、最初は「各駅停車」なのです。自分で切符を買い、乗換駅を自分で調べ、大きな荷物を担ぎながら、何度も乗り換えて目標地点まで頑張って行かねばなりません。しかし各駅には各駅の楽しみがあり、特急では見えなかった新しいことがたくさん発見できるなどメリットも豊富なのです。楽しみながら前進してゆきましょう。
また定年を迎えられて「肩書がなくなった」と元気をなくしている方の話をよく聞きますが、起業後2~3年で、さらに立派な肩書を持たれた方はたくさんいらっしゃいます。起業してみれば、自分でゼロから肩書をつくることに快感を覚える方は少なくないはずです。
一人で起業するという環境への対応
また同様に、個人事業主や一人株式会社の場合は、コピー取り、資料作成、帳簿入力など、すべて自分自身でこなさなければなりません。もちろんバイトを雇ったり、外注する方法もありますが、今まで秘書や部下にすべての事務を任せてきた方であれば、一度は自分で体験することも必要だと思います。
経営者は孤独?!よき理解者を増やすコツ
経営者になると、いろいろと誰かに相談したくなることも増えてくるでしょう。会社員時代は、愚痴をボヤく仲間のことが鬱陶しかったかもしれませんが、話の通じる仲間がいたことは幸せだったのかもしれません。経営者は意外と孤独です、すべては自分の責任ですし、話の内容や、相談する相手を間違えると思わぬ火傷をしてしまうこともあります。
ビジネス面で、心を許せるよき理解者(業種や世代を超えた起業経験のあるメンター)を複数持つことが大切です。起業家同志の(「めびうすのWA」のような)コミュニティに参加することも良いでしょう。
そして、大切なのは家族の支えです。パートナーの賛同を得られずに起業しても、上手くいくケースはあまり多くありません。家族に支えられたシニア起業のほうが、成功確率が高いことは言うまでもないことです。
5.第二の人生だからこそ、あなたらしく生きるチャンス!!
ノンストレス、生きがい、やりがいは健康を促進する
「会社員から起業家に転身して何が一番変わったか?」と質問すると、「時間が自由になった」「ストレスが少なくなった」と回答される方が多いです。ちなみに、ストレスはなくなるわけではなく、種類が変わるのです。雇われの身の場合は、社内外のさまざまなストレスに悩むことが多い反面、起業すると同様のストレスでもすべて自分の責任。自分自身で解決できる問題も多いので納得感があります。また、お客さまとの距離も近く、お客さまの喜ぶ笑顔が直結しているので、生きがい・やりがいなど充実感を十分得られるため、ストレスをストレスと感じなくなるのではないでしょうか。
起業に定年はない!!マイペースな身の丈起業で生涯現役
起業に定年はありません。生涯現役で働くことができます。私も大学時代に起業した時「40代で隠居生活をしよう!!」などと夢見た時期はありましたが、時代が大きく変わりました。今では、いつまでも楽しく仕事をしたいと思っています。
最後に、シニア起業は「身の丈の事業規模」から始めることをおススメします。大きな投資はあまり必要ではないのです。会社の成長に併せて自己増資もできますし、時間はタップリありますから、マイペースで着実なビジネスに取り組んでいただきたいと思います。
シニア起業は日本の救世主、社会貢献性も非常に高い
総理府統計では、「2020年には、65歳以上の高齢者1人を現役世代2人が支える」という数字が発表されています。これは65歳以上が働かないという前提に立っている数値ですが、一人でも多くのシニアが起業し、税金を納める割合が増えれば、現役世代の負担率は大きく減少することになるでしょう。
私も次世代のお荷物にならないように、生涯現役でいつまでも税金を収め続ける起業家でありたいと願っています。次世代、次々世代のために、シニアが起業していくことの社会的意義はとても大きいと考えております。
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あなたの事業計画は成功する計画かどうか、ぜひチャレンジしてみてください。