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ネットショップの勉強会を駆け回る
「やればやるほど言いたいことがいっぱいあった。やっていると楽しかった。仕事が終わってから夜中までホームページ作りをしたが、全然苦にならな かった。楽しくのめり込んでホームページを作っていた。しかし、周りの僕を見る目は厳しかった」
職人の世界は腕の立つ順。社長より自分 の方が偉いと思っている荒くれ職人が多くいた。そんな職人たちは、パソコンの前でホームページを製作している山岸さんを見て「このボンクラは仕事もせずに 何をしているか」と怒った。3時になると決まって職場でコーヒーが出るのだが、山岸さんにだけはコーヒーが出なかった。その当時、ネットショップ運営は社 内でまったく理解されず、道楽息子の遊びと思われていたのだ。
2001年5月。オープン初月に16万円売れた。結果が少し出たが、それ 以降売り上げは思うように伸びなかった。とにかく会う人会う人に「どうしたら売れるんですか?」と聞き回った。貪欲に全国の勉強会を駆け回った。ネット ショップの講師が高知に来ると、講義の後の懇親会では講師にひっついて、根ほり葉ほり質問した。
しかし、勉強会の後の懇親会はいつも1 次会で帰った。その日に教わったことは1つでもいいから“その日の夜12時までに実践する”と、自分に義務づけて、それを必ず実践した。「あの人は2次会 に行っているけど、俺は行かない。だからあの人には負けない」と勝手に思い込み自分に言い聞かせた。とにかく売りたい一心の行動だった。
お客様の目線で考える
ある雑誌で「ダメショップを救え」という連載企画があり、雑誌に掲載された。コンサルタントの江藤政親さん、込山民子さんの指導の元、売り上げ アップの過程を雑誌で紹介する連載企画だったが、残念ながら雑誌が廃刊となり連載が中途半端に終わってしまった。
この企画が中途半端だったため、江藤さん、込山さんがネットショップを応援する形を完成させようと始めた企画が「エ トコミ塾」という名前に変えて創設された。
エトコミ塾1期生となった山岸さんは改めてここで学び始める。メルマ ガの書き方。企画の立て方や販促の方法、消費者からの目線などを教わった。いままで考えたこともなかったことを考えさせられた。「自分は竹に対する思い入 れが強いから、言いたいことを言うばかりだった。でも、お客様にどう見られているか、お客様はこの商品をどう使うのか、など、お客様の立場に立っていない ことに気づかされた」
売り上げが伸びる過程で
3時にコーヒーを出してもらえなかった山岸さんだが、さまざまな努力の結果、少しずつ売り上げが伸びてきた。
売り上げが月商100万円を超えたとき、3時にコーヒーが出てきた。
売り上げが月商200万円を超えたとき、パートさんが自腹で買ったクッキーがコーヒーについていた。
売り上げが月商300万円を超えたとき、『ネットなんかやめろ』と言っていた社長(父)が黙ってコーヒーを入れてくれた。
以前 は虎斑竹の取材が主だったが、インターネットに関する取材が増えてくると、『どうも世間で評価されているようだ』と社内で思われ出した。取材依頼の中で も、地元のマスコミは特に大切にした。地元高知の新聞に掲載されることによって、次に四国版に紹介され、またその記事が元で全国版に掲載されたりした。ま た、地元の新聞に掲載されることで優秀な人材が集まりだした。会社自体のブランド力も上がってきた。少しずつだが社内で山岸さんを見る目が変わり、会社も 変わり始めた。
ますます竹虎 もっともっと竹虎
「自分たちの仕事に自信を持つことが大事。自分たちにしかできない価値をいかにお客様に届けるか。そんな思いがようやく社員の中に芽生えてきた。 社員自身が虎斑竹に目覚めてきたので、それをもっともっと大事にしたい」
「インターネットの世界はこれからどうなるか先は見えない。だけ ど、僕たちは恵まれている。毎日毎日が楽しい。昔は仕事を辞めたくて辞めたくて仕方がなかったけど、今は仕事が楽しい。やりがいがあると思える人生ほど素 晴らしいものはない。若い人達にもそこに早く気がついて欲しい。仕事が楽しいと人生がバラ色。日曜日は仕事ができなくて残念だ」
「マス コミで紹介されはじめ、インターシップの学生が毎年会社に来るようになった。職人にとっては当たり前の仕事も、学生にとっては驚きと感動があり、職人をほ めてくれる。職人は若い人たちに喜ばれて嬉しくなり、やる気にも繋がってきている」
「商品の梱包時に、担当者の顔写真や名前を入れて発 送をしているため、『Nさんありがとう』とスタッフに名指しでお礼のメッセージが届く。お客様の喜びのメッセージを朝礼で読むと、スタッフが涙を流して喜 んでくれる。人にほめられたら嬉しい。誰かの役に立っている実感は、ほめられることで得られる。中小企業の経営者はもっと従業員をほめるべきだと思う。ほ められる経験は、給料をたくさんもらうことよりも大事なことだ」
職人と伝統を守りたい
最後に職人について語っていただいた。
「職人は本当に素晴らしい仕事をしているんです。この技術と伝統を守りたいんです」
「職人の手は、すごくいい手なんですよ」
「90歳の職人のおばあさんがお茶を入れてくれてね。このお茶がおいしいんですよ」
「職人さん達の平均年齢は70歳を超えています。僕は何とかこの素晴らしい職人の技術と伝統を守らなければいけないんです。だからこそ、この竹細工 を売って、職人達を守りたい。仕事がなくならないように守っていきたい」
そう語る山岸さんの目は真っ赤。涙があふれる。私も、もらい泣き。来て良かった。遠い須崎市安和まで足を運んで良かった。インターネットがあった からこそ、こんなに深く熱い思いを持った人に出逢えたのだ。
「毎日毎日仕事が楽しい。人生バラ色だよ」竹虎四代目山岸義浩さんの、職人と伝統を守る使命はこれからも楽しく続いていく。
会社概要
株式会社山岸竹材店
所在地:高知県須崎市安和
設立年月:1894年(明治27年)
従業員数:15名
URL:http://www.taketora.co.jp/
※1. BBC: The British Broadcasting Corporation)英国放送協会、イギリス放送協会、イギリスの公共放送局。
※2. Dreamweaver: 幅広いユーザー層に支持されているホームページ作成ソフト。