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「人見知り。でも目立ちたがり屋」
生まれは関西の芦屋という中谷昌弘さん、まずは子供の頃の話を聞いてみた。
「小学生の頃は人見知りの子供でしたね。実は、今でも人見知り ですよ。人と仲良くなるのに時間がかかりますね。だからアルコールがないとだめなんです」と語る中谷昌弘さんは、ネットショップ業界でも有名なお酒好き (宴会好き?)である。
そんな中谷昌弘さんの学生アルバイト時代のエピソードを一つ。
「19歳の頃から大学卒業まで、コーヒー専 門店のカウンターでマスターをしていました。人見知りの僕でも、目の前にカウンターがあれば接客が出来るだろうと思いましてね。でも、単純にコーヒーを作 るだけではおもしろくないので、サイフォンを5本並べて、フラスコがポンポンと飛び上がる『ロケットロート』という芸をお客様に見せていました。それを見 に来るお客様が増えましてね。実は目立ちたかったんですね」
商売の原点でもあるお客様に喜んでもらいたいという気質と、目立ちたがり屋の性 格は、今も続いているのだろう。
「感動のソー セージとの出逢い」
1999年1月。友人宅でお酒を飲んでいる時であった。その後の中谷昌弘さんの運命を変える衝撃 的な出逢いがあった。友人が出してくれたトンデンファームのドライソーセージを食べた瞬間「何コレ。超感動!」と、あまりのおいしさに驚いた。
そ の時に食べた「ステックク ラコウ」は、現在でも「店主:トントンが、まずは強くお奨めさせていただくトンデン商品のうちの一つでございます」と紹介されてい る。
「おいしい物を食べたから『ありがとう』と言いたかった」
も ともと食べ物好きな中谷昌弘さんは、感動のあまり「おいしかったよ、ありがとう」。それだけを言うために北海道へ行った。
「実は北海道へ行 く前に、僕の心の中にあったトンデンファームのイメージは、おじいちゃんとおばあちゃんが小さいログハウスに住んでいて、その裏庭で細々とソーセージを 作っているというイメージだったんですね。そんな老夫婦に『おいしかったよ、ありがとう』と、言いたかった」。そんな思いで、気軽に北海道を訪ねた。
「実 際にトンデンファームを訪れると、思い描いていたイメージとあまりに違ったので、少しトーンが落ちたのですが(笑)。でも、気を取り直して受付に行きまし た。『おいしかった』と言いたいから社長に取り次いでほしいとお願いしました。最初は、当然取り次いでくれませんよね。しばらくすると営業課長さんが出て きましてね。その課長さんに、とにかくソーセージがおいしかったと、それだけを言うために北海道に来ましたと説明しましてね。課長さんも僕のことを怪しい 奴ではないと認めてくれたのか、社長さんに取り次いでくれました。そして、社長さんに会って直接『おいしかった、ありがとう』と伝えたんです」
中 谷昌弘さんは、社長さんを目の前にして、さらに宣言をした。
「トンデンファームの素晴らしさを、インターネットで全国に伝える普及活動がした い」。
当初は仕事にしようとは思っていなかった。また、この時点での中谷昌弘さんは、インターネットに関しての知識はほとんどなかった。ただ、全 国の人に伝えるための道具としてインターネットを思いついただけであった。いったい、どうすれば全国の人においしさを伝えられるのか。大きな宿題を持って 東京に帰ったのであった。
「インターネットショップを 提案」
約束した宿題をどうするか。3カ月間考えた中谷昌弘さんは、答えとしてインターネットショップの開設を決意す る。当時は学びに行くようなスクールもない時代であった。パソコンのスキルもない中、独学でホームページビルダーと格闘し、一所懸命ページ作りをした。
あ る程度ホームページが出来た3カ月後に、再度北海道を訪問する。トンデンファームの役員会でプレゼンをすることになったのだ。
「役員会の席 上でインターネットショップを提案しました。僕の作ったホームページを見せるため、17インチのモニターを東京からわざわざ持参しましてね」
しかし、ここで思わぬアクシデントが発生する。電話線にパソコンを繋ぐが、なんとインターネットに接続できなかったのだ。
「個人宅ではな く、会社の回線だったのが原因でインターネットに接続ができませんでした。接続させるスキルもないし(笑)。仕方がないので、その場で紙にホームページの イメージを描いて17インチのモニターに貼り付けて説明しました」。
必死で紙にホームページの絵を描き、インターネットショップの意義を 熱弁した。そして、いかに商品を愛しているかを語り、トンデンファームの公式ホームページとして商品の販売をさせてほしいとプレゼンした。しかし、中谷昌 弘さんの熱弁とは裏腹に、社長をはじめ全役員がインターネットのことをまったく理解できなかった。それでも確実に伝わったことがある。中谷昌弘さんの情熱 と愛情であった。
「まあ、インターネットのことは分からないが、この若者がこれほどトンデンファームを愛してくれるのなら、信用して任せて みようじゃないか」
「今思い返しても、プレゼンのポイントはネットに繋がらなかったこと。繋がらなかったからこそ、必死でその場で絵を描い た。その姿から熱意が社長さんに伝わったのかもしれない」と、当時を振り返る中谷昌弘さん。
技術でも知識でもない。中谷昌弘さんの情熱、 商品に対する愛情、単身で大企業に挑んだ行動力。人間として、商売人としての力がそこにはあった。