酒匂社長のこの言葉はとても重い。私自身も映画業界に身をおき、多くの業界関係者との面識があるが、この成功論をマトモに語れる 人はあまりいない。
映画業界は方程式というか、定石に落とせない感性が通用する世界でもあるし、ヒット作を続けて出していくのは難しいと思われるのが普通 だ。
そんな中、クロックワークスは20名程度の規模で40億超の売り上げを稼ぎ出す。
クロックワークスが業界の異端児と言われる理由はどこにあるのか?
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「成功するのが難しい中で、どうビジネスリスクを下げたのか?」
まず独立してからすぐ、クロックワークスが目指したのは興行と呼ばれる、ファーストラン。
いわゆる配給ビジネスのこと。まず全国の劇場に流れるこ とによって、投下されるパブリシティ効果が非常に高いビジネスだ。
以前は興行ビジネスのみで、終わってしまった時代もあったが、最近では興行、レ ンタルビデオ、セルビデオ、テレビ放映、ビデオ・オン・デマンドなど、メディアごとの窓口があり、非常にロングタームでビジネスが出来るようになってい る。そこで重要なのはいかにプロモーション効果を高められるか?当時、ビデオをメインビジネスとしていた私たちは、より強いプロモーションの場の獲得とし て、興行ビジネスに進出する。
劇場公開時点(ファーストラン)に打ち込まれる大量のプロモーションによって、そのユーザーが仮に劇場に足を運ばなかったとしても、作品認知を ファーストラン時にしてくれる。そうすると、ビデオ・DVDパッケージを買ってくれたりレンタルしてくれたり・・・という現象に繋がる。ビデオ流通をセカ ンドランと設定すると、セカンドランスタートだと打てるパブリシティは結構限られている。ビデオ店からの認知活動のみだったりすると、当然の話だけど、一 般ユーザーにアプローチは難しい。
クロックワークスの場合、ファーストランとセカンドランを両方担当し、リスク分散をしていることがビジネスモデルとなっている。
「ファーストランが非常に重要だが、劇場公開時の宣伝費増加は圧迫要因にならないのか?」
現在は公開作品数が増えているため、劇場公開時における宣伝費用が上がってきているのは事実だ。
興行のみで儲けを出すのは非常に難しい状況になっ てきているとも思う。
例えば、公開本数が1本しかなかったら、競争概念はないよね。当然の如く、PRコストも発生しない。ただし例えば、100本であれば 100本の中で目立つためのPRコストの投下が前提となる。劇場もビジネスとして、売り上げの半分程度が収入となるから、客が入らなければ採算が割れる。 昨今のファーストランは、劇場というメディアの接触機会が低減している中で、コストを効果的にかけないと当たらないという状況だと思う。
「映画ビジネスでのリスクについてはどう考えるか?」
映画でビジネスすることもリスクはあるが、車を売るビジネス、ラーメンを売るビジネスなどとあまり大差はないと思う。
よい商品をよい形で売る、当 たり前の売り方をしていけば必ず収益に繋がる。
映画ビジネスをリスキーにしている原因は、収益を圧迫する原因は人が作りだしているケースも多い。
例えば オーナーの趣味嗜好が入りすぎて、ビジネスシミュレーションが出来なかった場合など、「俺はこのラーメンが好きだ!」といっても、「他人は違うラーメンが 好きだ」というような感じだと思う。
コストをかけすぎれば、ラーメンとして売れない・・・そんなイメージだ。
「クロックワークスとして儲けを生んでいくには?」
現在は映画館だけが収益源である時代ではなく、ファーストランがPR的な要素に近くなってきている。
ファーストラン以降に続くマルチユースなウィ ンドウが増えたことで、いずれのウィンドウで収益をあげられる可能性が増えてきた。
クロックワークスでは興行時におけるリスクをビデオで回収するなどして きたが、最近では製作面にも力を入れて、海外展開を睨んだ取り組みをしている。今までの日本作品は、あまり海外展開には向いていなかったが、海外市場も睨 めるアニメ作品などは、海外流通に向いている。クロックワークスでは米国最大のアニメ流通会社に資本投下を行い、さらに収益の拡大を狙っている。
「ネットにおけるVOD時代の到来はどうみるか?」
クロックワークスはDVDセルの割合が高いが、VODになったからといってその全体的な売り上げ規模が落ちるとは思っていない。
過去の事例からみ ても、テレビが出てきたときから映画業界は斜陽産業化していったが、96年以降ワーナーマイカルが新しいスタイルの劇場を投入していったタイミングを機に 再びV字回復していく。
映画館数が増えたことに他ならない。
ビデオレンタルが開始されても、映画におけるビジネスは増えてきた。要は接触面が増えること で、ビジネスチャンスが上がるというのが、この業界の歴史だ。単価についても、各ウィンドウとの調整が必要だが、VODになったからといって、一番最後の ウィンドウではなくて、劇場ウィンドウに近ければ近いほど高い価格設定に変わるはず。
現在は権利元との利害関係が明確ではないことと、VODのバイイング パワーが低い関係で、最終ウィンドウはVODという捉え方が高いが、今後プレミア上映などを含めて、高い単価設定のVODも増えてくると思う。そうなると ますますこの業界が活性化するんじゃないかな。
「クロックワークスをどういう方向に持って行きたいか?」
日本の優良コンテンツを海外に出していきたい。
日本の文化であるアニメ、邦画をどんどん伝えていくことがこの国のコンテンツビジネスを盛り上げる 結果となるはずだ。映画祭に持って行って終わりというのではなくて、アメリカでの流通実績などを通して、実際にビジネスとして成り立つ!ところまで持って 行きたいと思う。
「最後にコンテンツビジネスを映画でやりたいと思っている人にメッセージを!」
映画をやりたい!という学生とか社会人との面接が非常に多い。
昔は映画オタクな人たちが多くて、ビジネス面がとても心配な人々が多かったが、今は 逆にビジネス面は理解しているんだけど、映画を観ていない方が非常に多く、逆にコンテンツの理解度が心配だ。
例えば、どの映画をどこでみて、そのときのお 客さんの動向に気付くなど、自分なりにマーケティングアイディアを描くことがこの業界はとくに重要。
また海外との距離が非常に近づいているので、語学など のコミュニケーション能力を押さえておくのも強みになると思う。
インタビューは1時間を超えて、熱い討論に近くなった。コンテンツで儲けるというのは過去のものではない、
メー カー時代に培った「きちんと売って、きちんと儲ける」当たり前の商売としての基本を、酒匂社長は実践しているに過ぎないのかもしれない。しかしながら、当 たり前のことをを実践し続けることこそが、サステイナブルなコンテンツビジネスと言える。コンテンツは続けていくことが重要だ、改めて私はその思いを強くする。