- 目次 -
嫌いなことも知ることが必要
千葉県船橋市に生まれた彼女は、海に浮かぶ空き缶などのゴミなどを見て育った影響もあり、幼少の頃から環境問題に興味があった。彼女は、そんな風景が嫌いだった。高校時代から地道にゴミ拾いなどを行なうも、抜本的な解決にはならないと感じていた。嫌いなことに接するのも、その嫌いなことの起源を知ることが必要だと考え、大学では公害防止管理者を目指すことを考えた。しかし、嫌なことに取り組むことよりも好きなことを相手にしたほうが長続きするのではと考え、植物を相手にする農学部へ進んだ。
それと同時に、有機農業サークルに入った。環境問題を解体するには"自給"することが必要だと考えたからだ。彼女は食糧のみならずエネルギーなど自給させる生活を目指していた。大学卒業後、「農業」と「公務員」という二つの道を迷った末、一年のブランクを経て公務員となる。研究によって社会に貢献できるのではないかと考えてのことだった。
公務員を退職。同じ思いを共有できる人に出会える場へ
公務員という道での彼女の思いは、五年を経過しても実現への方向を示さなかった。そこで公務員七年目となったとき、大きな決断をする。
公務員を退職し、千葉県内で新規就農を目指す成人を対象とした千葉県農業大学校研修課に通い始めたのだ。ここで学ぶのは、慣行農業に関するものが中心だった。また、彼女の思いを共にできる20代~50代の意識の高い人と出会えたことが、その後の新規就農へのモチベーションとなったという。実地研修を経て、彼女の農業人生がスタートする。彼女が30歳の時だった。
農地探しが一段目の壁、農業者でも暮らせる家探しが二段目の壁
本業を農業に見据えた彼女の前に立ちはだかる最初の壁は「農地」。"よそモノ"が新規就農し農地を借りることは一筋縄ではいかない。知り合いの紹介から彼女は、20年は使われていないだろう休耕地をなんとか借りることに成功。就農当初 重機を持たない彼女は、鍬を片手に開墾に挑んだ。開墾で明け暮れた日々を耐えて、一反六畝(※1)の農地から彼女の農業は始まった。
農地探しを終えた彼女が越えなければならない壁、それは農業者でも暮らせる家探し。通常の家探しであれば、マンションやアパートなどを探せばよいが、農業者であればそうはいかない。農機具の保管場所として倉庫も必要であり、収穫したものを梱包する作業場も必要となる。つまり、駐車場と土地付きの一軒家が必要不可欠といえるのだ。
※1、畝(せ)と読む。一アールとほど同じ。30歩のことを指す。
国内自給率100%は可能か
彼女の農業は、現在二年目を迎えている。一反六畝からスタートした農地は、今年六反以上に広がりをみせたという。なぜ二年目である彼女の元に、六反もの畑が集まるのか。その答えは、彼女自身が体験から知っていたことだった。高齢化の進む農業者人口。彼女の就農した千葉県山武市も例外ではない。地元農業者は、生産性が低く、管理に手間のかかる山間部の農地から休耕させる傾向が強い。そして何よりも、一年でも休耕させてしまうと、農地を元の状態に戻すのは、すでに高齢となった人々では不可能に近いと言える。だからこそ地元農業者は、開墾までして就農した彼女に、農地の"耕作"継続を望んでいるのかもしれない。
最近では、借地の話があっても使い切れないという理由から断ることも多いが、自分でなくとも他の新規就農者が使えるように仲立ちしたいと思っているという。あるいは、とにかく休ませないで農地として"つなぐ"ため、なんとか年間一作でも作れないかと考えている。新規就農者を受入れる研修の場づくり。これが彼女の次の目標ステージだ。
新たに広がる六反の農地では、彼女は黍・粟・稗・アマランサスなどの雑穀の生産を検討しているという。そんな彼女は、最後にまだ答えの見つからない問いを私に投げかけた。「売るための面白い野菜づくりも必要だけど、重要なのは自給率。日本に存在する休耕地を活用すれば、自給率は100%になると思います。どう思いますか」と。
私の考えはこうだ。現在の休耕地の広さであれば、絶対的な可能性としては否定できない。また、耕作を継続させれば、土壌保水力の回復などのメリットも多い。この問題解決への糸口は、消費者にあるのではないか。消費者が、食の多様化と必要性を再認識しなければならない。そして、それらを促進させる食育や地産地消などの運動も加速させていけば、国内自給率100%も夢ではないのではないか。
横田純子さん(33歳)千葉県船橋市生まれ。
東京農業大学を卒業後、千葉県庁に入庁。
7年間の勤続後、退職。千葉県農業大学校で短期研修。
農業大学校での研修が終了後、千葉県山武市にて新規就農2年目。
有機栽培による数10種類の野菜づくりを行い、野菜セットの定期宅配や引き売り、直売所へ出荷している。
また、地主の許可を得て、野ふき・せり・みょうがなどの山菜も販売品目としている。
消費者と生産者の枠を越えた交流を目指して、芋ほり体験や落花生ほり体験などを企画中。