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"地"にこだわる。その答えが純米酒というこだわり
皆さんはご存じだろうか。全体の90%以上のお酒に、醸造アルコールが利用されていることを。醸造アルコールは決して悪いものではないが、お米から抽出したものではないアルコールだ。主原料はサトウキビなど。醸造アルコールを利用することで、お酒としてスッキリした口当たりになるというメリットがある。
一方で、お米から抽出したものだけのお酒を純米酒という。純米酒は、コストが高くなるが、独特のコクがでる。この純米酒にこだわり、"地"にこだわっているのが、守屋さんである。彼は、"地"のお米、水、風土、気候、人情にこだわる酒づくりというテーマを掲げている。そして、地元である千葉県産のコシヒカリを仕入れ、そのコシヒカリを利用して純米酒を醸造している。コシヒカリで作ったお酒というと、一見驚く方もいるかもしれないが、近年の技術の進歩でコシヒカリのお酒は、他のお米を原料にしたお酒と比較しても負けないお酒になっているという。
酒蔵は地域の情報発信基地だった。その役目を果たしたい
彼の取り組みは、お酒造りだけではない。面白い取り組みとしては、今年で16年目になるという酒蔵コンサートだ。酒蔵コンサートは、1941年に建築されたという昔ながらの酒蔵を活用し、 300人ものお客様を招いて、フラメンコやジャズ、琴まで、幅広い音楽を届けている。酒蔵は昔、地域の情報発信基地としての役目を担っていたという。その名残もあり、1990年代には、多くの酒蔵が酒蔵コンサートを開催していたという。しかし、コストがかかり、販売に直接的にリンクしないこのような活動は、現在では少なくなっている。
しかし彼は、今後もこの酒蔵コンサートを続けていきたいという。そこには、彼の酒造りに欠かせない"地"の文化の継承を果たしたいと考えているからだ。そのため彼のコンサートは2部構成で行なわれており、前半はさまざまな音楽を取り入れ、後半では日本ならではの音楽を取り入れている。
"自分のお酒"は、酒蔵と日本文化への愛着が生み出す
彼の酒蔵見学に訪れる見学者は、年間で約3万人。1日に平均すると100人前後という人数だ。見学者の多くは1月~3月に集中している。1月~3月といえば、仕込みで忙しい時期である。彼は、なぜこの時期に見学を薦めるのだろうか。
「自分の好きなお酒は、成果物としてのお酒への愛着だけでなく、蔵の愛着であり、日本文化の愛着が生み出すと考えています。だからこそ、お酒造りを見て欲しい」という。彼のこの思いが、地元に愛される地元のお酒造りを成功させているのだ。
現在、酒蔵見学に訪れる多くは、50~60歳が中心という。今後は、見学だけでなく参加できる何かを提供できればと考えている。見学者が見学するだけでなく、参加することで、酒造りの現場にも接することができ、より一層酒蔵や日本文化への愛着を生み出せると考えている。
酒蔵の新規参入には、一次産業より高い壁。研修なども少ないのが現状
最後に、酒蔵への新規参入について聞いた。酒蔵は一番多いときで、全国に3000軒程度あったというが、現在その数は半分以下の 1300軒程度だという。この背景には、一次産業と同じように、後継者不足や仕事の辛さなどがある。しかしそんななか、酒蔵の開業を夢見る若者も多くなっている。これは、地酒のブームによるものだと考えられるが、酒蔵の開業は、一次産業と同等か、それ以上の高き壁がある。
最初であり最大の壁といえるのが、酒造会社としての登録だ。登録のためには、年間60キロリットル(60000リットル)以上の生産計画が必要であり、その生産計画を実現させるためには、生産原価として最低600万、施設投資や2000坪以上の土地が必要と考えられており、それらの初期投資を合算すると1億円以上にもなりえるという。
酒造りは、酵母という生き物を育てるもの。だからこそ、酒造りには強い魅力がある。多くの若者が酒造りに惹かれていくが、農業などと異なり、研修などの制度も整っていない。研修という制度は、代々培われてきたその蔵独自ノウハウを流失しかねないからなのだろう。その蔵がある土地の水や風土、文化、歴史が反映する、それが酒造り。だからこそ、若い発想力と行動力が必要ではないだろうか。
守屋 雅博(43歳) 守屋酒造株式会社5代目蔵主。 千葉県山武市生まれ。
東京の大学を卒業後、金融会社を経て、30歳の時、父の後を継ぐ。5代蔵主として13年目。
1941年(昭和16年)の古い酒蔵を活用した酒蔵コンサートや酒蔵見学会など、情報発信やお客様との交流を大切にしている。
地元のお客様を中心に全体の60%が、インターネットや店頭での個人販売。