出題・解説:羽根 拓也(アクティブラーニングスクール代表)
こ れだけ多くの店やサービスが乱立するともう出すものがないんじゃないだろうか?と心配する人がいるだろう。いやいや、まだまだいくらでもビジネスのネタは 転がっている。どこに?実は、そのビジネスのネタを効率よく見つける方法がある。 流行っているものの反対の需要を顕在化させるだけでビジネスを成功に導くことができるのだ。今回は、隠された需要を掘り起こす「リバースニーズ・テクニッ ク」についてお話してみよう。
私のオフィスは東京都千代田区神田にある。神田というのは面白い町で、時代の流れの中でいろんな側面が取り込まれてきた。
古本屋、出版社、予備校という教育に関する顔、そして大手町、丸の内という近代的なオフィス街に面した顔、そして神田明神といったいわゆる昔ながらの下町の顔が渾然一体と同居している。そんな中でビジネスを始めるようとすると、誰を顧客対象にするかがポイントになる。
神田でビジネスをする場合、ターゲットにされやすいのは、「おじさん」である。
実は上記の三つの顔以外に、より今の神田を表しているのが「中小企業の町」としての神田なのだ。駅前には居酒屋やパチンコ、金券ショップ等が立ち並ぶ。
一言で言うと「おじさん」を顧客ターゲットにすえたビジネスが多いということだ。そんなおじさんの町に、ここ数年間で似つかわしくない形態のビジネスが流行ってきた。「カフェ」である。
神田は今、カフェの激戦区である。カフェの流行は日本全体に見られる現象であるが、神田のカフェの出店ラッシュは群を抜いている。あるカフェ関連の会社に務める人に聞いたが、神田の出店ラッシュは他地域の比ではないそうだ。
確かに、この 3年間で増えたカフェの店数は驚くほどだ。ほぼワンブロックごとにカフェが乱立しており、すごいところでは歩いて 1分以内のところに 4軒もの店が乱立している。ヨーロッパ並みである。
なぜ「おじさんの町」でこれほどおしゃれなカフェが流行したのか?理由を考えてみた。
おじさんがカフェ好きであったからか?いや、そうではない。カフェの客層を見てみるとそのことがわかる。OLや若者の方が多いのだ。つまり、神田のカフェブームを支えているのはおじさんではなく、OLや若者なのだということがわかる。
これまで神田にはおしゃれなお店がほとんど無かった。しかし、神田にはOLや若者も数多くいる。これまでそんな彼らの需要を取り込む場所が無かったのだ。おしゃれとはいえないオフィスで働かされているOLにとってカフェは格好の息抜きになるはずだ。
神 田でカフェブームを作ってきたのは、OLなどの「隠された需要」だったのだ。うちの何人かの女性スタッフに聞いてみたが、みんな口をそろえて言うのが 「やっと休憩中に足を運べるお店ができた」ということだ。それまでは終業してから、わざわざ他の町に足を伸ばしていたのだと言う。
ある需要が満たされるために、抑圧されてしまっているニーズが存在する。今回の場合は、おじさんのニーズを満たすために、満たされていなかったOLのニーズがそれにあたる。
こういったあるニーズを満たすために、抑圧されてしまっているニーズのことを「リバースニーズ」と呼ぶことにしよう。
このリバースニーズがビジネスの対象になるのだということを理解すれば、一見、硬直化してしまっている環境においても新しいビジネスが始められることが分かる。
リバースニーズを導く簡単なトレーニング法を紹介しよう。
(1)まずある町の中心顧客を考える。渋谷なら女子高生、六本木なら外国人といった具合だ。そして、
(2)それらの中心顧客の需要を満たしているお店や場所を考える。渋谷ならおしゃれなアクセサリーの店、女子高生向けのファッション(洋服)の店、あるいは甘い物が食べられるレストランなど。そして、
(3)これら中心顧客の需要が満たされるために、反対にニーズが抑圧されてしまっている人がいないかを考えてみる。
しかし、渋谷の場合、「おばあちゃんは?」と考えてはならない。確かに女子高生向けの店が増えすぎるとおばあちゃんのニーズは抑圧されるかもしれない。しかし、もともと渋谷に数多くのおばあちゃんがいるわけではない。
リ バースニーズの対象者は、トレンドのために自分のニーズが満たされていない「その地にいる人」というのが前提である。渋谷ならそこで働いている男性ビジネ スマンなどが上げられる。昼間、渋谷で働いているのだが、お店に行っても自分の欲しいものが見つかりにくいと考えているかもしれない。そこで
(4)これらのリバースニーズを満たすための新ビジネスを考える。
渋谷に2000年、マークシティという商業施設が出来た。上記のバックニーズを満たす大人のためのレストラン、カフェなどを取り込んだ施設であった。マークシティは、今や渋谷の別の顔と言われるほどの人気施設になった。
リバースニーズをビジネスの対象にする技術を身につければ、どんな土地に行っても効率よく金脈を見つけることができるようになるだろう。
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【羽根 拓也 プロフィール】 日 本で塾・予備校の講師を勤めた後、1991年渡米。ペンシルバ大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカでも高い評価を受 け、94年、ハーバード大学より優秀指導賞(Certificate of Distinction in Teaching)受賞。「知識を与える教育」から、「自己成長力を向上させる教育」こそが、世界に求められていると考え、97年に東京に「アクティブ ラーニングスクール」を開校。これまで日本にはなかった「自己成長力」を育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。独自の教育理論えおその指導 方法に、有名企業、政府関係機関、教育機関などより指導依頼が絶えない。 |