出題・解説:羽根 拓也(アクティブラーニングスクール代表)
起 業家として自分の会社を立ち上げれば、遅かれ早かれ、その「指導力」が問われるようになる。社員の仕事に対し、「これは正しい」「これは間違っている」と いう指示を与え、社員が持つ可能性を引き出していくことは、会社の長となる人物にとって欠かせない資質である。そこで、今回は、部下を効果的に成長させる ことができる、とっておきの指導テクニック「教えない指導術」をご紹介しよう。
最 近、「指導力」という言葉がメディアでも頻繁に見られるようになってきた。私が主催するアクティブラーニング社でも指導力の指導依頼がここ数年で急増して いる。興味深いのは、本来、指導のプロであるはずの管理者や教育者が、自らの指導術に疑問を持ち始めているという点である。変革の急激な流れの中で、これ までの人材育成の手法では効率が悪いことに誰しもが気づき始めたのだ。
あなた自身、自分の会社を立ち上げ、部下を持つようになると、さまざま な指導を行う必要が出てくる。「あのね、そんなやり方でどうするんだよ。これはこういうやり方でやってくれないと、、、。」「これ、間違ってるよ。正しい やり方はこうだから。きちんと覚えておいてよ!」会社の長として社員をひっぱっていく責任から、あなたは次々に「正解」を与え続けるであろう。しかし、こ のやり方を続ける限り、社員は成長しない。必要なことは「正解」を与えることではない。「気づき」を与えることなのだ。
私はこれまで、様 々な教育現場で「指導」に携わってきた。塾、専門学校、大学、企業、講演、テレビ、E-learningとさまざまな環境で指導してきた。指導対象者も、幼児 からご老人まで世界30カ国以上の人々に教えてきた。こうやって指導環境や指導対象を変えてきたのは、教育についてより深い理解を手に入れたかったから だ。専門領域にとらわれず、教える内容や対象を変えることで、教育の本質を理解することができるのではないかと考えたからだ。
長い教育体 験を通して最終的にたどりついた結論は、教育の本質は「教えない」ことにあるということだ。私自身、指導技術が乏しい頃、生徒が知らないことを提示するこ とが「教えること」であると考えていた。しかし、いくら正解を提示しても生徒がそれを習得してくれるとは限らない。何度説明してもそのとおりにやってくれな い生徒をみて「こいつは頭が悪いに違いない!」と勝手に決めつけてしまうことさえあった。
そんな折、あることに気が付いた。生徒が自分自身で正解を見つけたとき、そのことを良く覚えているということだ。
こ んな経験がないだろうか?だれかにある場所に連れて行ってもらった。次にそこへ行くとすっかり道に迷ってしまった。それに対し、迷いながらも自分の力でた どり着いた道では、次にそこへ行っても迷うことがない。同じことが教育でも起こりうる。正解を与えられただけの場合は、次にそこへ連れて行っても迷ってし まう。それに対して、自分の力で正解を導かせた場合には、何度でも正解を導くことができるようになる。
うまい指導者は正解を与えない。正解を発見させるきっかけを与えるのだ。
今日から早速できる、「正解を発見させる指導法」をお教えしよう。あなたが指導する立場にあるとき、これまでのように最初から正解を与えるのをやめてほしい。すべきことは、部下が出してきた答えに対し、自己評価をさせてみるのだ。
部 下が何らかのパフォーマンスを行った。そのパフォーマンスに対し、あなたは不満を持ったとしよう。しかし、直接そのことを伝えてはならない。次のように質 問してみる。「今回のパフォーマンスについて、自分なりに自己評価をしてみてほしい。どんなものにも良い点と悪い点があるよね。今回のパフォーマンスの良 い点と、悪い点は何だろう?」
この時大切なことは、必ず両方を答えさせることだ。良い点だけを答えても、悪い点だけを答えてもだめだ。両方の視点から見ることで、自分自身のパフォーマンスに対し、客観的視点で自己評価ができるようになってくる。
そ してその評価を聞いたら、今度は次のように質問する。「なるほど。では、その良い点と悪い点を考慮しながら、そのパフォーマンスをもっと良くするとした ら、ネクストステップは、具体的にどういうことを行えばいいだろうか?」この時、あまりうまくない方法を提示してくるかもしれない。その場合は、これこれ こういう理由で、その方法には問題があるということを伝えてかまわない。しかし、最終的にあなたが知るもっとも良いと思われる方法は、必ず本人に発見させなけ ればならない。
ただ正解を与えられただけの場合は、そのデータは右耳から入って左耳へと抜けていく。それに対してこの方法で自分で解答を 導いたものは、はっきりと覚えていてくれる。かつ、その方法を行うモチベーションも驚くほど高い。優れた経営者になるために、解答を自分で導かせるこの技 法をマスターしよう。
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【羽根 拓也 プロフィール】 日 本で塾・予備校の講師を勤めた後、1991年渡米。ペンシルバ大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカでも高い評価を受 け、94年、ハーバード大学より優秀指導賞(Certificate of Distinction in Teaching)受賞。「知識を与える教育」から、「自己成長力を向上させる教育」こそが、世界に求められていると考え、97年に東京に「アクティブ ラーニングスクール」を開校。これまで日本にはなかった「自己成長力」を育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。独自の教育理論えおその指導 方法に、有名企業、政府関係機関、教育機関などより指導依頼が絶えない。 |