出題・解説:羽根 拓也(アクティブラーニングスクール代表)
初めてのことにチャレンジするとき、だれしもが[不安]を持つ。
起業時も同様だ。「失敗したらどうするのか?」「路頭に迷ったら家族はどうなるのか?」
これらの[不安]が起業に踏み出すことをためらわせる。
では[不安]をなくせば起業することができるのか?
いや、それは不可能。
未体験のことに関して、人間は必ず[不安]を持つ。
今回は[不安]を逆に利用する方法について考えてみよう。実は[不安]こそが、我々の行動の質を高めてくれるのだ。
あなたが、ペーパードライバーだったとしよう。ある日、仲間で旅行に行く計画がもちあがり、運転を頼まれたとする。あなたはどのような対応をとるだろうか?「事故をおこしたらどうしよう」「のろのろ運転でみんなに迷惑をかけたらどうしよう」…。いろいろと考えたあげく、「ごめん、自信がないからやめとくよ」と断ったとする。
この判断は間違っているだろうか?運転にまったく自信がないペーパードライバーなわけだから、運転手として適していないことは間違いない。他人の命の危険もあるわけだから、断ったことは正しい判断であったと言える。しかし、この状態では、永遠にペーパードライバーから卒業することはない。
我々は行動を起こす時、自動的に行動の結果を予測しようとする。そして、我々の脳は結果が思わしくなさそうだと予測したら、ただちに[不安エネルギー]を発生させる。それによって、行動へのモチベーションを失い、行動を抑止しようとする。「慣れない運転をすれば、命を落としかねない」という予測が「ごめん、自信がないからやめとくよ」という行動抑止に繋がっていくのである。
反対に、何度も経験をしたことがあり思ったとおりの結果が予測できることに対しては、[不安エネルギー]が発生することはない。例えば、自動販売機で缶ジュースを買う時、[不安]を感じることがあるだろうか?自販機にコインを入れ、飲みたいジュースのボタンを押せば、望みとおりのジュースを飲むことができる。何の疑いも持っていない。だから、この行動をとるとき、[不安エネルギー]が発生することはない。
結局[不安]とは、結果を予測し、そこに不確定要素があるときに、自動的に発生する行動抑止力である。
しかし、見方を変えれば、[不安]とは、自分がその行為を行うべきか否かのレーダー的役割をはたしている。
もし、不確定要素を伴う行動に対して、[不安エネルギー]を発生させるように脳がプログラミングされていなかったら、無条件に大きなリスクを背負ってそこに突き進んでいくことになる。こんな危険なことはない。[不安エネルギー]の発生は、行動を合理化し、安全に生きていくために、実によくできたメカニズムだということができる。
起業を目指すあなたも、起業に対して[不安]を感じているはずだ。そのことを否定する必要はない。要は、その[不安エネルギー]のうまい利用法を覚えることが重要だ。つまり、我々が理解しておかなければならないことは、[不安]は必ずしも「行動をやめろ」というサインではない、ということだ。[不安]を感じるときとは、脳が自分自身に対して、「その件に関しては情報が不十分です。結果を予測できる状態にするために必要な情報をもっと調べてください」と言っているのだ、と考えるようにしてみよう。
例えば、あなたが起業資金に関して[不安]を感じたとする。この時点でとるべき行動は、「資金のことが不安だから起業をあきらめよう」と考えることではない。資金に関する情報収集を徹底して行うことだ。インターネットで調べるのでもいいし、本を読んでもいい。あるいは資金調達先の窓口に足を運んでみていいだろう。「都市銀行では創業時の融資は難しい」とか「国民生活金融公庫が一番利用しやすそうだ」など、情報収集によって、今までの[不安]は消え去ってしまう。それどころか、「国民生活金融公庫から融資を受けるためには事業計画が必要だ。作り方を研究しよう」といった具合に、次への行動を示唆し、それを促すモチベーションを発生させてくれる。
繰り返すが、新しいことにチャレンジするとき、[不安]は必ず発生する。その時、「不安を恐れず挑戦あるのみ」と考える必要はない。むしろ、「不安を正面から受け止めよ!その不安にこそ、次の行動のヒントが隠されている」と考えるべきなのだ。必要なのは、気合や根性ではない。[不安のマネジメント]なのである。
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【羽根 拓也 プロフィール】 日本で塾・予備校の講師を勤めた後、1991年渡米。ペンシルバ大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカでも高い評価を受け、94年、ハーバード大学より優秀指導賞(Certificate of Distinction in Teaching)受賞。「知識を与える教育」から、「自己成長力を向上させる教育」こそが、世界に求められていると考え、97年に東京に「アクティブラーニングスクール」を開校。これまで日本にはなかった「自己成長力」を育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。独自の教育理論とその指導方法に、有名企業、政府関係機関、教育機関などより指導依頼が絶えない。 |