「他者視点」のススメ

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局

出題・解説: 羽根 拓也(アクティブラーニングスクール代表)

http://www.als.co.jp/

同 じものを見ていても、人によってまったく別の感想を持ったり、まったく別の意見を持ったりすることがある。個々の「視点」の違いが、異なる感想や意見を導 き出しているのだ。起業、独立を目指す者にとって重要なのは、一つの視点にこだわらずさまざまな視点から柔軟にアイデアを導き出せる資質だ。今回は、物事を多 方面からとらえる「他人視点」の必要性についてお話してみよう。

 

残暑厳しい日に知人の家に遊びに行ったとき、「どうぞ、冷たいうちに飲んでください」と缶コーヒーが出されたとしよう。その時、あなたは何を感じるであろうか?

「おっ、これは助かるな、のどが渇いて仕方ないと思っていたんだ。ありがたい!」と思うかもしれない。

しかし、あなたがテーブルマナーの先生なら「え?お客様に缶のまま出しちゃうの?ちょっと礼儀しらずだな。せめてコップに入れて出さないと…」とあきれるかもしれない。

も し、あなたが素材メーカーに勤務する技術者で缶の研究をしていたとするならば、「そうなんだよな、冷たいうちに飲まないと缶コーヒーはまずくなってしま う。もう少し長時間冷たさを維持できる容器が作れたら大ヒット商品になるはずだ」と新ビジネスの可能性を探ろうとするかもしれない。

もし、あなたが環境問題について意識の高い人なら、「缶コーヒーは確かに手軽で便利!だけど、このゴミ処理には?」と環境問題について考えをめぐらすかもしれない。

このように、それぞれが目にしたのは同じ缶コーヒーでありながら、まったく違う四つの別々の意見が生まれたことになる。なぜこのような違いが生まれてくるのか?違いは、「視点」にある。

我 々は同じ「対象物」を目にしても、瞬時に全く違う「視点」を持つ。「視点」が変われば、同じ「対象物」を見ていても出てくる「意見」も全く別物になってし まう。だから同じ缶コーヒーが「喉の渇きをいやしてくれるもの」にも、「礼儀知らずの恥ずべきもの」にも、「一攫千金のビジネスチャンス」にも、「ゴミ問 題の憂鬱の象徴」にもなりうるのだ。

一般的に、我々は「1.対象物」に対して、自分の「2.意見」が出てくると考えている。

1.対象物 ⇒ 2.意見 

しかし実際には、「1.対象物」から、自分の「2.視点」が発生し、その視点に応じて、さまざまな「3.意見」が出てくると考えた方が、理解しやすい。

1.対象物 ⇒ 2.視点A ⇒  3.意見a
       ⇒  2.視点B ⇒  3.意見b
       ⇒  2.視点C ⇒  3.意見c
       ⇒  2.視点D ⇒  3.意見d

つまり、視点がそれぞれの意見を導き出しているのだ。

こ こに問題の本質がある。我々は意見をもつ。しかし、それらの意見が、視点によっていかようにも変わりうるということを理解しなければならない。だから自分 が「絶対に売れるはず!」と思った商品が全く売れなかったり、「これで従業員がやる気をだしてくれるに違いない」と必死で考えた人事制度にだれもついてき てくれなかったり、ということがおこりうるのだ。

大切なことは、あなたが対象を決め自分の意見をもったら、即座に自分以外の人が持ちうる視点で考えてみることだ。この他人視点で考える技術は、商品開発や人事マネージメントなど、あらゆる局面で役に立つ。

簡単にゲーム感覚でできるトレーニング方法を紹介しよう。ひとつの物事を常に他人の視点でとらえるトレーニングだ。例えば、電車に乗ったら、目に入ってくる対象物に対して自分の意見を出してみて欲しい。

女 子高校生が電車に乗ってきたとする。そして一所懸命、携帯電話の操作をしていたとする。もしもあなたが出版社の人であれば、「一昔前はみんな雑誌を読んで いた。今まで雑誌にかけていた時間とお金が携帯電話に代わってしまったんだ。携帯電話で雑誌の内容を配信してみよう」と感じるかもしれない。それがあなた の意見だ。

その時点で、考えを一時停止させる。そして車内を見回してみる。すると小学生ぐらいの女の子がその女子高校生をじっと見つ めていたとする。その子供ならどんなふうに女子高生を見るだろうか?「携帯電話を持っている人って、カッコいい。自分も早く持ちたいな」 例えばこの時点 で、「携帯電話のおもちゃ」という商品アイデアをひらめく人もいるかもしれない。

そして今度は、お年寄り、広告代理店勤務風のビジネ スマンなど、車内にいるあらゆる人の視点で意見を出していってみる。そうやってある程度の意見を出した後で、最後にもう一度自分の視点に戻ってみる。する と、最初に出した自分の意見が、幾多ある考え方のほんの一つの可能性にしか過ぎないということがよくわかる。

簡単なトレーニングだ が、実に効果がある。起業、独立にあたって、自分の考えを発展させたいと思ったら、周囲の人に目を向け、その人の視点から意見を述べてみる習慣を持ってみ よう。ビジネスの可能性は、視点の数だけ無限にあるということがわかってくるだろう。そして、何気ない日常の中に数多くの「気づき」が眠っていることも実 感できるはずだ。

※なお、「視点移動の重要性」については第13回「価値を生み出す力」で述べているので、そちらを参照してほしい。

 

 

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 【羽根 拓也 プロフィール】

日 本で塾・予備校の講師を勤めた後、1991年渡米。ペンシルバ大学、ハーバード大学等で語学専任講師として活躍。独自の教授法はアメリカでも高い評価を受 け、94年、ハーバード大学より優秀指導賞(Certificate of Distinction in Teaching)受賞。「知識を与える教育」から、「自己成長力を向上させる教育」こそが、世界に求められていると考え、97年に東京に「アクティブ ラーニングスクール」を開校。これまで日本にはなかった「自己成長力」を育成する教育機関として各界より高い評価を得ている。独自の教育理論えおその指導 方法に、有名企業、政府関係機関、教育機関などより指導依頼が絶えない。

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