団塊世代の起業・独立 Vol.16 50代で起業した女性デザイナー。波乱万丈の人生。

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
起業するのは、何 も若い人たちばかりの特権ではありません。豊かな経験と、それを基に培われた技術を活かせば、高齢になってからの方が有利なことも─。いわゆる『団塊の世 代』が大量に定年を迎える2007年。行き先を探しているシニアたちに勇気を与えてくれる、バイタリティあふれる赤野安さんをご紹介します。

有限会社安アカノ オートクチュールデザイナー

赤野 安 さん

1932 年 兵庫県生まれ。舞台衣装やファッションのデザイナーを経た後、離婚を機に日本古来の着物地を活かしたオリジナルファッションの教室を開く。現在では、教室 や作品展を全国各地で開催。近年では海外にも進出し、その評価も高まっている。

 

明日から、誰にでもできる古布(こふ)の衣服

 安さんは、私がプロデュースしている「有名塾」の 4期生。当時から、塾に通う必要がないと思うくらい存在感があったが、そのパワーは今も健在のようだ。現在全国に拡がるという着物地の再生教室を主宰する かたわらで、自らの新しい作品を生み出し続けている。

 「古い着物の生地、私は古布と書いて“ぬの”と呼んでいますが、これをほどいて新し く再生させる、オリジナルファッションの教室です。着物は、ほどけば反物といわれるように幅が均一だし、元来ある柄・模様を切り刻まないのが私のやり方だ から、いたって単純。私が50歳からできたんだから、皆さんにもできるわよって、生徒さんにもいつも言っているんです。しかも、皆さんが持ち寄る着物は一 人ひとり違うでしょ。同じ型紙を使っても、ぜんぶ違ったものができるから楽しいですね」

 

マイナスからのスタートでも、がむしゃらに

Vol.16着物_1

 今は、新聞社や百貨店などが主催する、全国に約 40カ所あるカルチャースクールで教室を開いている安さん。しかし、決してここまで順風満帆に来たわけではない。幼い頃から多くの苦労をしてきたが、いつ も毅然としていられたのは、女手一つで育ててくれた母親の影響があったからだそうだ。

 「私が小学校の頃、周りはみんなお金持ちでとっても うらやましかった。学校を1カ月も休んでスキーに行く子が何人もいた。でも母は“隣の人が死ね言うたらあんた死ぬのん。あんたはあんたでしょ”と。そうい う人だったから、人としての誇りを持つということを教えてもらいました」

 そんな母親から「手に技術をもちなさい」と言われ、美大卒業後洋 裁学校へ進んだのが、現在の下地になったという。舞台衣装のデザインや百貨店のオーダー服担当、ブティックの経営まで経験。平行して2度の結婚と離婚。2 回目の離婚時には、借金まで背負ってしまった。

 「50歳の時でしたか……。まさに、マイナスからのスタートですね。でも、とにかく食べて いかなければならなかったから、不思議と不安はなかった。私はいつも、独立独歩で行く方向に進んでしまうんですね。がむしゃらに働いて、離婚した夫の借金 を全部払い終えたら、残ったのは数枚の着物だけ。これが、古布を使ったデザインを始めたきっかけでした」

 始めは、近所の幼稚園の役員さん といっしょに、古布を使ってバザーに出品する服や小物を作ったのが始まりだったとか。風呂敷の真ん中をくりぬいて、三角に折っただけの服を作ったことも あったという。

 「何でも、簡単に作るのが最良だと思っているの。舞台衣裳を経験した影響でしょうか。舞台の衣裳って、とにかく早く、安 く、簡単に作らなければならないでしょ。でも、これが意外と好評だったので、古い着物を再生させる教室みたいなものを作ったんです。最初は生徒7人、それ もさくらばかりでしたけどね(笑)」

 

昨日まで素人でも、お金を稼ぐことができる

  作品が徐々に集まり、一度発表してみようと作品展を開いたところ、問い合わせが殺到。教室も拡がりをみせてきたので、生徒の作品の販売を始めた。「昨日ま で素人でも、お金を稼ぐことができる」という、安さんの持論を実践したのである。

Vol.16着物_2 「私はずっと働いてきたから、何でも見返りがないとだめ だと思っています。生徒さんにも、売る立場に身を置いて一度“いらっしゃいませ”と言ってごらんなさいと言っています。自分で稼ぎなさいと。それが、次へ のステップになるんです。安易なボランティアは一過性だけど、事業としてやればずっと続けられるでしょ。今、全国の教室で55?60歳の生徒さんたちが、 生き生きと自作の制作に取り組んでいます。1000人弱いる生徒さんのうち4人は、これで生計を立てているんです。一着作るごとに生徒さんの顔が明るく なっていくのを見るのは、本当にうれしいことですね」

 この仕事を始めて25年。その間、ずっと着物を 追求してきた安さんだが、ここまでやってきて良かったことを聞いてみると、「多くのことをやってきたから、人との出会いの時に自信を持って、手持ちの経験 の中からアドバイスできる。これは、この仕事を続けてきたからこそのことでしょうか。人は、周りの人に引き立てられ、今度は引き立たせる番になる。このく り返しですものね」

 波乱万丈の人生ながら、少しもそう思わせない毅然とした雰囲気。そして、お年からは考えられないくらいのパワーを振り まく安さん。これに多くの人が引き寄せられ、さらに安さん自身も高まっていく。安さんの魅力は、この辺りにあるのかもしれない。

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