私は渋谷に2004年12月に帽子の小売店を開き、現在は4店舗を経営しています。アパレル事業の経験が全くなかった私が、渋谷の若者たちが求める商品を企画し続けることは至難の業と思われましたが、従業員やたくさんのお客さまからのご意見をききながら何とかここまで事業を続けることができました。たくさんの失敗を繰り返しながら、得た経験や知識を今回の短期連載でご紹介したいと思います。
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売れない商品=不良在庫はなぜでてしまうのか?
突然ですが、売れない商品=不良在庫はなぜでてしまうと思いますか?
答えは簡単で、お客様に求められているものを、適正な価格で、求められる時期に、求められる量だけ作らないからです。これからの商品企画は、ウェブを活用し、想定顧客を企画段階から取り込むこと、もしくは、最小製造ロットを極限まで小さくするか、もしくは絵だけでお客様に試験販売をして、実際にお客様のニーズを確認してから販売するノウハウが求められます。そうした、スモールコミュニティに対する販売ができる機動的なサプライチェーンを持ったうえで試行錯誤の量を増やし、ヒットを出し続ける仕組みが必要です。
需要を読む。ユニクロ・しまむらの戦略
3月11日以降、震災の心理的な影響が企業の業績にも悪影響を与えています。例えば、アパレル企業の中でも、ユニクロのような実用衣料が多い業態では2011年3月から7月までで既存店売上の昨年対比が103.7%、しまむらが98.7%、一方でローリーズファームのようなファッション性を売物にしているブランドでも既存店売上の昨年対比が96.6%、デニム中心の品揃えのジーンズメイトで82.6%となっています。同業態のライトオンも3月からの7月までのトータル実績は発表していませんが、月次の発表では80%台の後半から90%台の前半となっていますので、それほどぶれていないと思われます。規模が大きく、震災で被害を受けた地域の店舗の比率が小さく、実用衣料に近い商品ラインの企業ほど落ち込みが小さいことがわかると思います。
顧客がどのように行動するかを事前に予測するのは大変難しく、店舗数が少なく、多国籍に展開していない企業は、外部環境によって大きな影響をうけます。アパレルの世界では、ちょっとした需要の読み違いで大量の在庫を抱えて倒産していく企業もあとを絶ちません。そこでユニクロは需要の変動の少ないベーシックに特化し、「コーディネイトのパーツ」としてのプロダクトをアイデンティティにしていますし、しまむらも「格安の普段着」を各店舗で少量多品種販売していくことで、実用衣料を商品の柱に据えています。
ベーシックな実用衣料を商品の柱に据えるのは、商品を企画・生産して、店舗に納品するまでのリードタイムが長いことが原因です。ユニクロでは原材料の調達から店舗への納品までに、通常1年程度かかると言われています。未来を予測するのが不可能だとすれば、需要が確実な実用衣料の品質と価格で勝負するというのが、ユニクロがこうした震災後の状況の中でも堅調な理由のひとつでしょう。それでは、実用衣料を規模の経済を活用して低価格かつ高品質で生産・販売している意外では好調な企業はないのでしょうか。
「成功する商品企画」の欠かせない2つの要素
実はクイックレスポンス(以下QRとする)、クラウドソーシングというキーワードで、ユニクロやしまむらのような実用衣料以外で大成功している企業があります。QRとクラウドソーシングは、「成功する商品企画」の欠かせない2つの要素です。そうした特徴を持っている企業として、マークスタイラーとタビオという会社があります。
ところで、QRというのは、「顧客が今求めているものを、素早く生産して、すぐに店頭に並べれば必ず売れるよね」という考え方のことで、一方のクラウドソーシングというのは、「自分の店の顧客の代表にほしい物を企画してもらえば必ず売れるはずだよね」という考え方です。
簡単にマークスタイラーの業績を紹介すると、2005年の設立で、34億3500万円(2008年2月実績)、67億500万円(2009年3月実績)、94億9600万円(2010年3月実績)、170億円(2011年3月実績)という急成長を遂げてきたSPAで、現在は9ブランドを擁する、衣料の世界では珍しく元気のある企業です。この会社の商品企画のやり方は、クラウドソーシングの進化系ともいえるものになります。
もうひとつのQRを代表する企業はタビオという靴下の製造小売です。靴下屋やTabioという小売ブランドを所有しており、既存店の前年比売上は、震災により需要が冷え込んだ3月から7月までの間でも、110.9%という強烈な数字をあげています。
次回は、この2社のケースをもとに、クラウドソーシング的な商品企画について、よりくわしく解説していきます。