一般的にクラウドソーシングというのは、「衆知を集めて自社のビジネスに取り込み、活用すること」というような意味で使われています。ネットなどで、顧客などから商品やサービスなどについて意見をもらって、新しい商品を開発したり、サービスを改善したりします。こうした方法によってマーケットの真実を自社のビジネスに取り入れることができますが、特有の短所もあります。
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クラウドソーシングの欠点を補うマークスタイラーの戦略
例えば、非常に変わった、突然変異的な商品が出てくることがあります。クラウドソーシングで集まってもらった人たちの中で、声の大きい人の意見に全体が流されてしまうことなどが原因です。また、毎回違う人達に集まってもらうことで、毎回新しいアイディアが生まれる可能性がある代わりに、何が原因で何が売れたのかという経験値の蓄積がなされないし、前回の失敗を活用して改善するという取り組みが疎かになるということです。マークスタイラーは、こうしたクラウドソーシングの欠点を補う「おしゃP」という制度を取り入れています。日経ビジネスアソシエの2010年12月7日号に「おしゃP」の記事が掲載されています。
引用開始——-
「おしゃP」とは「日本の『カワイイ』を世の中に発信する女性集団」のことで、服飾のデザイナーやプロデューサーなどとして活躍する20~30代女性を指す。
その魅力は、外見とオシャレ力、仕事力の3つを兼ね備えているところ。ファッション誌の読者モデル出身者が多く、若いうちから外見とオシャレ力を磨いてきた彼女たちが、服の世界で実績を上げ始めたわけだ。
(中略)
「おしゃP」はこんな人!
マークスタイラー(東京都渋谷区)内のブランド「EMODA」のプロデューサー、松本恵奈さん(24歳)。高校卒業後、ガソリンスタンドで のアルバイト中、雑誌の読者モデルにスカウトされたことをきっかけでアパレル店の販売員に。そこから頭角を現し、昨年10月、EMODAを立ち上げ、初年 度30億円の売り上げを達成。関東・関西を中心に合計8店舗を展開。「恵奈さんのようにかわいくて、仕事のできる人になりたい」という多くのファンを持つ。好きなファッション業界で生き生きと働く姿が、若い女性の共感を呼ぶ
——引用終了
「おしゃP」のひとつの特徴として、服飾の専門教育をうけていないことが上げられます。読者モデルという、顧客セグメントを代表する人材のなかから、コンペティションでセンスの優れた人材を選び、クリエイティブを徹底的に任せきることで、マーケットの真実を掘り起こし続けることができます。
現在マークスタイラーは9ブランドを傘下に持っていますが、個人のセンスやテイストといった比較的難しいセグメンテーションを可能にしているのが、この「おしゃP」という制度です。現在は廃止されたブランドはありませんが、フレッシュな「おしゃP」を生み出し続ければ、マーケットの真実から離れてしまったブランドを、新たな「おしゃP」のブランドで代替していくことが可能です。
プロの消費者を発見し、自社の商品企画に取り込め
こうして、企業にとって非常に貴重な存在であった「クリエイティブ力のある人材」も交換可能な一個のパーツにしてしまったことがマークスタイラーの凄さです。取締役営業本部長の◯◯氏もNHKの「東京カワイイTV」の取材の中で「最初のコレクションは、自分が好きだった洋服の20年の蓄積があるからいい。でも、2回目からは学び、成長し続けられるかどうかがブランドの成功を決める」と仰っています。
ターゲットとなる顧客セグメントを代表する人のなかから、発信力があり、クリエイティブな力がある(経験は必要ない)、いわばプロの消費者を発見し、自社の商品企画に取り込んでいく仕組みづくりがこれからの商品企画の重要な要素になってきます。
POS情報から脅威の回転率を叩きだす
もうひとつの絶対成功するための商品企画の要素であるQRを代表する企業はタビオという靴下の製造小売です。靴下屋やTabioという小売ブランドを所有しており、既存店の前年比売上は、震災のあった3月から7月までの累計で110.9%という強烈な数字です。「売れるものだけ、売れるだけつくり、すぐに店舗に納品する」という言葉で言うのはたやすいが、実行するとなると大変な仕組みを創り上げた、靴下のトヨタと言ってもいい企業です。
タビオの成功の秘密は、店舗から売上のPOS情報を吸い上げ、それを靴下製造工場だけでなく、糸工場や染色工場でも共有され、不足している材料があれば、協力工場が独自に判断し、製造して納品されるという仕組みにあります。こうして作られた靴下は、店舗向けに1日3便の配送にのせられ、納品されます。80万足の靴下が、月に3回転し、年間では36回転にもなります。衣料品を扱う企業でこの数字は驚異的で、あのユニクロでさえ、10回転前後の数値です。
多品種少量の店頭在庫で、大量の死筋をもつリスクを回避しつつ、売上情報をサプライチェーン全体で共有し、売筋を決して切らさないという努力の究極の完成モデルといえるでしょう。QRがあることで、店頭在庫を多品種少量にでき、不良在庫を抱えるリスクを下げつつたくさんの試行錯誤ができます。そして売れたものだけを追加で補充していけばいいのですから、マーケットリサーチなどにコストをかけることもなく、確度の高い「商品企画」が可能です。
こうした柔軟で早いサプライチェーンを作り、QRを可能にするためには、材料の規格を共有することが必要です。糸で言えば強度や色味などをサプライチェーン全体で共有しないと、その都度品質チェックなどが発生し、QRが難しくなります。アパレルであれば、すべての材料やパターンをレゴのブロックのように規格化し、できるだけパーツの組み合わせによって商品が完成することが望まれます。また、POS情報などの、顧客との接点からの売上情報がダイレクトにサプライチェーンの各プレーヤーに伝わるようになっており、そのデータに基づいて、ある程度自主的に生産できる権限が与えられていなければなりません。
何が売れるかわからなければ、お客さんに聞けばいい
マークスタイラーとタビオの例を見てきましたが、共通しているのは「何が売れるかわからなければ、お客さんに聞けばいい」という徹底したマーケットインの思想です。マークスタイラーは顧客の代表として「おしゃP」を見出す仕組みを創りだして、顧客の意見を商品企画に取り入れています。タビオは多品種少量の品揃えのなかから、売れ行きがいいものだけを追加生産することで、顧客の意見を品揃えに直結させます。アンケートなどでは、「自分では、お金は払いたくないけど、商品としてはあってもいい」というような、ある意味無責任な意見に惑わされることがありますが、タビオが追加生産するのはお客さんが実際にお金を払った、「自腹商品」だけです。そのリアリティには圧倒的な差が存在します。
次回はベンチャー企業がクラウザソーシング的な商品企画を実行するためのポイントを解説します。