それにしてもiPhoneの衝撃は大きい。1月10日の発表以降、世界中のサイトやブログが大騒ぎになっている(もちろ ん世界中のサイトを見たわけではないけど)。
「まさかアップルがあそこまで本気ケータイに仕掛けて来るだなんて
想像してなかった。それにしても、あれ、欲しくなりますなあ」
と いう声が大勢か。ミーハーなことに、わたしもその一人である。
iPodとiチューンズストアによる音楽産業への大進攻を目にしてきたば かりのケータイ産業各社は相当警戒していることだろう。とくに、日本の端末メーカーは、今現在も音楽分野でアップルと激しい戦いを繰り広げていたりする企 業が多い。
モバイルコンテンツやソフト、マーケティング分野の人々の見方は少し微妙だろう。Mac OS で動くケータイ端末の登場がチャンスなのか脅威なのか、いまの時点では判断がつかない(※動画や音楽ファイルをケータイ通信経由でダウンロードすることが できない、ということが明らかになっている。iPodのようなスタイルでインターネット経由ダウンロードするらしい)。ただ、iPodの時のようなムーブ メントが巻き起こるとするなら勝ち馬に乗りたい、というのがホンネではないだろうか? 搭載予定とされているSafariのサブセットブラウザでどんなWEBサービスやアプリが提供可能なのか、すでに調査もスタートしていることと思われる。
実は昨年末より、本コラムの年初は「2007年のケータイ起業に役立つキーワード」を書き出そうと考えていたのだが、iPhoneの及ぼす影響を加味する と、いろいろと軌道修正しなくてはならないと考えた。そこで「遅すぎる」「後出しジャンケンでは?」とのお叱りを甘んじて受けつつ、今年のケータイビジネ スで注目すべき事柄をリストしておきたいと思う。
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『ケータイSEMの熱狂とブ ランディング』
2007年、ケータイSEOの会社は仕事が少しやりやすくなる。検索エンジンの順位付けロジックが安定するからだ(根拠はない。希望的観測である)。仮説 →検証の精度が上がり、掲載順位上位には商売熱心な優良なサイトが並ぶようになる。これはユーザーにも大きなメリットになるだろう。
サ イトが増えるにつれ、PCと同様、キーワード広告利用も増えてゆく。ただしケータイサイトの絶対数はまだまだ少ない。キーワードの最低落札価格9円をベー スに、コンバージョンレートを1%と仮定すれば、1件獲得広告費は900円。売り上げに対する広告費比率を10%としても、平均決済金額9,000円以上 が必要という計算になる。1ヶ月の平均利用金額は男性で19,594円、女性10,197円という調査結果(「第23 回携帯電話コンテンツ/サービス利用者調査」楽天リサーチ+MRI 2006.8月)と見比べて、イケそうだと思うだろうか? それとも難しいと見るだろうか? わたしは、かなり厳しいと思う。
ケータイならではのSEO計測ツールや順位アップのノウハウ、ケータ イSEM用のキーワードツールの提供、これらに関連するサイトや情報商材、書籍などにも利用・注目が集まる。この分野での起業なら、すぐさま仕事がどかっ と入ってくるだろう。
一方で、ケータイ用の検索エンジンは独自進化の方向を向いている。ケータイの利用シーンに合わせた検索結果表示の 技術開発が進んでいる。最初の検索結果ページからカンタンな操作で目的のサイトを絞り込んだり、関連サイトを発見できるようなシカケである。
ビッ トレイティングス社の「F★ROUTE」はその好例。米国Yahoo!のモバイル用新サービス「Yahoo! oneSearch」もその流れを汲んでいる。
いろんな策が考え尽くされているように見えるケータイSEMだが、いまのところはPC用 の手法のコピーが殆ど。ケータイ独自のサービスが支持されるようになれば、ともすれば検索エンジンでさえも、まだまだ新しいビジネスの芽があるのかもしれ ない。
サイト間リンクが発達していないため、ふらりと訪れる人が少ないケータイサイトの場合、新規獲得はもちろん、一度興味を持ってく れたユーザーのつなぎとめや、リピート利用を促す取り組みも同じように重要である。
来訪時にメールマガジンに登録をさせるシカケ、メー ルでのメッセージのシカケ、サイトやサービスを再び利用したいと思い出させるシカケ、情報や個性の押し出し、毎日のちょこちょこっとしたコンテンツ更新な ど、ユーザーへの地道な働きかけが1年後の利用者数・PV数に大きく影響する。
ケータイサイトは楽しくなければすぐに廃れてしまうとい う覚悟が必要だ。こういった活動は、言ってみれば、サイトのブランディング活動なのである。SEMがサイトをすぐに元気にするカンフル剤だとすると、ブラ ンディングは漢方薬のようなもの。短時間に表立った効果に現れないが、中長期的には非常に重要な取り組みになる。
『ケータイブラウザVSフルブラウザ』
PC用のサイトがケータイから利用できる「フル ブラウザ」が、ケータイにも搭載されていることはご存じの方も多いだろう。しかし、小さな画面での操作性がよろしくないのと通信料金の問題などもあって、 継続した利用はスマートフォンと呼ばれる少し大型の端末を持つ人たちが中心になっている。
「日本では、ケータイ端末+ケータイブラ ウザが主流で動く」
私自身、ずっとそう考えてきたが、iPhoneの登場で流れは大きく変わる可能性が出てきた。
「ケー タイブラウザVSフルブラウザ」という対立軸ではなくて、「iPhoneという新しい携帯電話と、それ以外」あ るいは、「iPhoneのブラウザと関連サービスVSその他のブラウザ」といった対立軸が生まれるのではないか。 iPod+iTSの時を思い出してみるといい。
スマートフォンとケータイの違いだとか、ケータイブラウザがどうしたとか、フルブラウザ がこうしたとかいう話は抜きにして、
「iPhoneを持つ」
「iPhoneでWEBを利用する」
ことが、トレン ドリーダー層・アーリーアダプター層などにクールなスタイルとして定着すれば、脱・ケータイブラウザ化は確実に進む。ケータイブラウザベースのサービス提 供をしている企業は、そのときどう動くのだろう? 興味津々である。
iPhoneのアジアへの市場投入は2008年以降になるとのこ と。また、携帯電話の通信規格の違いが壁となり、日本への投入時期は未定らしい。しばらくは米国でiPhoneがどんなふうに利用されるのかどんな周辺市 場が展開されるのか、目が離せない。これまでにない新しいコンテンツやサービスの市場が開かれる可能性は十分あるだろう。
もっとも、日 本でもワイヤレスLANなどを通じたインターネット通話は可能。公衆ワイヤレスLANのアクセスポイントは今後も増えてゆく。街でiPhoneを利用する 「マニア」を見かける機会もあるかもしれない(きっと、「いいなあ」とため息をつくだろう)。