起業アイデア Vol.05 不便をビジネスに。沖縄でジュニア用ゴルフ

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
今回はドリームゲートグランプリ沖縄大会で荒川 淳さんが提案した事業プランを紹介します。キッズ・ジュニア用ゴルフクラブを、沖縄ブランドで全国へ販売する事業プランです。

事業プランの概要

 沖縄県においてキッズ・ジュニア用ゴルフクラブを開発・製造し、全国へと販売する事業。ここ数年の沖縄県出身の若手プロプレーヤーの活躍・人気はめざましく、沖縄県がジュニアゴルフの本場であるという認識は広がってきている。そうした追い風を背景にしつつ、提案者の荒川さんは、2タイプ・6種類の商品群に、基礎レッスンDVDを付属させた高付加価値商品として売り出しを図っている。

商品ラインナップの詳細は次のようになる。タイプは2種類。エントリーユーザー向けの手ごろな価格帯商品と、ジュニアゴルフトーナメント参加者向けの機能性重視・高価格帯商品。さらにそれらごとに、3~5歳用サイズ、6~9歳用サイズ、10~12歳用サイズの3サイズを用意。

成長年齢別と技術レベル別に商品を展開することは、再三の買い替えを見込むことができ、理想的に推移すれば、ひとりの顧客から最大4回の販売機会を得ることが可能である。

この買い替え回数の最大化を実現するためには、言うまでもなく早期(3~5歳の段階)にユーザーとなってもらうことが肝要。そのため荒川さんはさまざまなメディアを使ってレッスン情報・ゴルフ場情報・教育情報を発信してエントリーユーザー層の拡大を図りつつ、3~5歳用商品に低価格戦略を導入して販売機会を高める計画を立てている。

また注目すべき点は、基礎レッスンDVDを付属させている点だ。ゴルフプレー経験のない、あるいは少ない父母や祖父母も、これがあることで購入をためらう心理が軽減されることが予測される。

一方、ゴルフに馴染みの薄い購入権者を対象にするとなると、ゴルフショップなど、常識的な販売チャネルが使いにくくなってしまう。だが荒川さんはその点を逆手にとり、「子ども(孫)へのプレゼント」という商品の側面を強調することによって、むしろ幅広い販売チャネルの活用を構想している。

 

ここがナイス・アイデア!

 実は私(増田)は、荒川さんのお嬢さんがキッズ用クラブを使って素振り行うシーンに立ち会ったことがある。その当時5歳だったお嬢さんの姿は無条件に愛らしかった。一方、脇でその姿を見守る荒川さんを拝見して、「ずいぶんと指導熱心な親御さんだ」と思ったものだ。ところが聞いて驚いた。荒川さん自身はゴルフの経験がないのだという。

詳しい経緯はわからないが、キッズゴルフの本場、沖縄県に暮らすご家族だけあって、地域的な影響でお嬢さんはゴルフを始めることになったのかもしれない。

以前であれば、親自身が熱心なゴルフプレーヤーであり、その延長で子どもにもゴルフを習わせるという展開が一般的だったはずだ。ところがそうではない状況が現出してきたということであり、まさに荒川さん自身が、「わが子に教えることのできないもどかしさ」を痛感したひとりであったわけだ。そこから基礎レッスンDVDを付属させるというアイデアが生まれてきた。

このケースのように自らの体験を事業アイデアのタネにするケースは少なくないが、とくに「さあ、困った」「あれ?どうすればいいんだ?」「うーん、これは予想もしなかった」などの表現で示すことのできる「困惑体験」は、それをキッチリ解決する方法論を確立すれば、かなりの高い確率でニュービジネスとして成立するものである。いわば困惑体験活用法である。

都市部で生活する読者なら、地下鉄のホームに、その路線の全駅の出口位置を示した案内図が掲示されていることをご存じだろう。あのサービスを発案したのは、当時、小さなお子さんを抱えて地下鉄に乗り、目的駅に着いたものの、さあ、その先は右に行けばいいのか左に行けばいいのか皆目見当がつかず、すっかり疲れ果ててしまったひとりの主婦だった。

よくこういう表現が使われる。「人間には3種類いる。困ったことに遭遇すると、それを受け入れてあきらめてしまう人。何とかしようと努力する人。そしてもうひとつは、それをビジネスのタネにする人だ」と。

モータリゼーションの波が到来したばかりのアメリカ。ある人は喜んでクルマを飛ばしたものの、ガス欠を起こしてたちゆかなくなってしまった。その人より賢いある人は、予備のガソリンを積んで出かけ、難を逃れた。だがもうひとりの人はどちらでもなかった。ガソリンスタンドというアイデアを思いついた。こういうエピソードもある。

自らの困惑は、みんなの困惑である……とは限らない。そういう体験をする人が自分以外にもたくさんいる。あるいは今後間違いなく増える。そういう前提が必要である。荒川さんはキッズゴルフの本場に暮らしているからこそ、この困惑をチャンスと認識することができたのである。

バブル崩壊以降、長年に渡って沈滞していたゴルフ産業だが、この数年はプレー料金の低減や健康志向の高まりを受け、再び利用人口が増加傾向に転じている。人気プレーヤーの功績もあり、一定期間の後には、沖縄で始まったキッズゴルフ人気全国に広まる可能性も高い。

 

増田からアドバイス

  荒川さんの提案は「沖縄から全国へ」であるが、「全国から沖縄へ」という逆転の発想も可能だ。沖縄で盛んなキッズゴルフが全国に広がるとしても、それが十分な規模に達するまでの時間は決して短くはないだろう。また、市場が大きくなれば既存有名メーカーの本格的進出も十二分に考えられる。だから「今、沖縄で盛ん」なら、「今、沖縄へ来てもらう」というビジネスチャンスの創出方法もある。

父母や祖父母と出かける沖縄観光旅行のなかで、子どもたちにゴルフを体験させる仕掛けをつくれないか。その機会に荒川さんが手がけるブランドのクラブを購入すれば、これは「思い出のブランド」になり、買い替えの際も同ブランドを求めるストーリーはできあがる。

つまり1回目の購入は、沖縄で。以降はどこの地域であっても通信販売方式で提供すれば問題ない。数年先まで沖縄を訪れる観光客の増加は予測できている。オフシーズンの沖縄来島者誘致活動にも乗せやすい事業だ。「キッズゴルフを楽しむ沖縄の旅」といったところか。

子どもたちに、初めてのゴルフ経験を沖縄でさせる。そのために必要となる各種の提携を推進してみることも悪くないだろう。

(このアイデアは、2007年1月に行われたドリームゲートグランプリ沖縄大会の応募アイデアです)

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