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「誰に売るのか」を答えられない人が大半!
このところ立て続けに「起業セミナー」の講師を務めて実感したのですが、起業を目指す人の大半、というか、ほぼ100%に近い人が、「誰に売る?」を的 確に答えられないのです。これは大問題だと。
そもそも自分のやりたいビジネスが誰のためになるのかを考えていない。また、ざっとは考え ていても、本当にその対象でいいのかどうか検討していない。あるいは、あまりにも対象の範囲が広すぎて漠然としている。そして、何よりまずいのは、そうい う状態を重大な弱点だと感じていない、ということです。
「若い女性狙い」 と言いながら、ビジネスライクなサイト
と同時に、すでに起業している人のなかにも、ターゲットが曖昧なまま活動をして いる人を少なからず見かけます。
実際にこんな人がいました。ネットを使って外貨両替サービスを提供する青年。私は彼にそのサービスを、誰 に利用してほしいのか尋ねました。
「海外旅行に出かける若い女性」だそうです。この答えにはビックリしました。なぜなら、そのサービスサイト、 開くといきなり金融の専門用語や数字の羅列が目に飛び込んでくるのです。「む、難しそう…」。正直、どこをどう見ても、海外旅行に出かける若い女性のウキ ウキした気分にマッチする雰囲気はありません。どちらかというと、為替売買を思わせるビジネスライクなイメージです。
「誰に売るのか」 と「どう売るのか」が、これほどまでに乖離したケースはそう多くありません。とにかく、このままでは業績を伸ばすことは至難の業。私は彼に、サイトを全面 的に作り替えるべきだと進言しました。が、彼はとうとう「イエス」とは言いませんでした。みなさん、なぜだかわかりますか?
プランづくりの段階で大きな取りこぼし
私の言い方が優しくないとか、 彼が「いこじ」だとかの問題ではありません。彼は、海外旅行に行く若い女性に向けたサイトの要件を理解していないのです。わからないから避けるのです。わ からないなら勉強すればいい話ですよね。が、彼にはその気もない様子。
なぜなら、彼はクチとは裏腹に、「海外旅行に出かける若い女性」 こそが、自分の一番の顧客だとは思っていないからです。言い方を換えれば、そういう女性たちが、彼の事業を支える決定的な存在だと信じていないからです。 そもそも彼は、市場を決定することの重大さに気付いていません。事実彼は、サイトの作り直しを勧める私に対し、「そういうことよりも、もっといいターゲッ トはいないんですか?」と聞いてくる始末ですから。
彼に起業の経緯を聞いてみました。「金融業に対する規制緩和があり、以前なら大手金 融機関しか手が出せなかったビジネスを、小規模の事業者がやってもいいことになったんです。これはチャンスだと思いました」と。間違ってはいません。規制 緩和をビジネスチャンスと捉えるセンスはOKです。
しかし、「チャンスを具体的にどう生かすか」という課題形成が彼にはできていません でした。つまり、起業準備期間中に、「自由に手がけられるようになった金融サービスを、誰のために、どうやって提供すれば評価を得られるビジネスになるの か」というビジネスプランづくりに取り組まなかったということです。
「誰 に売るのか」をしつこく考え、最後は決断する!
もちろん、海外旅行を楽しもうとする人に対して、既存の金融機関よりも 有利な条件で外貨両替サービスを提供するというビジネスはあり得ます。が、彼の頭のなかの図式は、それとは少し異なります。「そういうサービスを立ち上げ れば」、例えば、「海外旅行に出かける若い女性が利用するだろう」と考えているのです。上の話とどこがどう違うかわかりますか? わかりますよね。
上の話は「Aに対して、Bを売る」という展開です。スッキリしています。ところが彼のほうは「Bを売る。相手は、例えばAかなあ」という展開です。つまり 彼は「何を売るか」を決めてはいても、「誰に売るか」を決めてはいないのです。あくまで市場や顧客に関しては「想像」もしくは「期待」でしかありません。 決定していない市場や顧客について一生懸命研究したり、そのターゲットに合わせたサイトづくりに取り組んだりする気にならないのは至極当然です。だった ら、本来、まだ起業すべきではないのです。
きっとみなさんのなかにも、彼と同じような考え方をしている人がいるはずです。先に商品や サービスありきで、誰に売るかを「例えばこんな人」程度で済まそうとしている人。そういう人は絶対にいると思います。いいですか、起業するということは、 「何を売るのかを決断する」のと同じように、「誰に売るのかも決断する」ことですよ。
もちろん、商品やサービスに対する思いが先にあっ てもかまいません。ですが、それをどういう人々に提供するのかを決めなければ(想像ではなく決める)、ビジネスを構築することはまったくできません。価格 戦略にしても、「決めた相手が買える、買いたくなる額で」ということ重要です。相手が決まらなければ、作戦の立てようなどないのです。
誰に売るのかという課題から逃げず、どのような市場があるのかを必死で探り、候補となる市場同士をよくよく比べ、自分がそのどちらに進出したら有利なのか を、根拠をもって選び、最後の最後は勇気を振り絞って進出市場を決めること。これがビジネスプランを立案していくための基本であり、ビジネスを失敗させな いための大前提です。