- 目次 -
「商品やサービス」の意味を理解しているか?
今 回から「何を売るのか?」について考察していきます。ビジネスプランの東の横綱が標的マーケットだとするなら、「何を売るのか」、つまり、そのマーケット に投入する商品やサービスこそ、西の横綱と言えるでしょう。
まずは、「商品やサービスって、そもそもどういうもの?ある いはどういうこと?」という根本的な疑問への答えを書いてみようと思います。「えっ?そんな疑問なんてないよ。商品は商品だし、サービスはサービスで しょ」と、思った人がいるかもしれませんね。でも、話はそれほど単純ではありません。
反対に、「もしかして難しい経済学 の話になるの?」と、身構えた方もいるかもしれませんが、その心配もありません。マルクスもケインズも出てきませんから。ただ、学者ほど専門的な解釈は必 要ないまでも、「人が手間をかけて、なおかつ、お金まで払って手に入れようとする『商品やサービス』という概念は何なのか」を知っておくことは、ビジネス プランにおける商品戦略を立てていくうえで、貴重な指針を手に入れることになります。
消費者は、とある商品やサービスを 「いらない」と思えば、買わないだけのことです。なぜ、自分はそれをいらないと思ったのかなどと、わざわざ掘り下げることはしません。しかし、その「いら ない」と思われた商品やサービスが、あなたの提供する商品やサービスだったらどうですか?「売れないだけのことだ」などと、うそぶいてはいられませんよ ね。買ってもらえなかったということは、何かそれなりの理由があるはずです。
これまで「誰に売るのか?」「いくらで売る のか?」を繰り返し学んできました。狙う相手が間違っていれば売れません。相手が適切だとしても価格が間違っていれば、やはり売れません。でも、売れない 理由はそれだけではないのです。商品やサービス自体に売れない理由があることも決して少なくないのです。あまりにも当たり前の話に聞こえるかもしれません が、では、なぜ、そんなダメ商品やダメサービスが誕生してしまうのでしょう? それは、「商品やサービスとは何か」を売り手が本当の意味で理解していない からです。
「商品やサービス」は複数要素の合体による価値
商 品やサービスとは、それを「価値」として成り立たせるための要素が複合してできあがっているものです。言い換えれば、買い手がわざわざ購入という手間をか けて、なおかつ、お金を払ってでも手に入れたいと思う、あるいは手に入れてもいいと思う、いくつかの理由の集合体ということです。
では、いったい、どんな要素によって成り立っているのか。それを説明する前に、少し堅苦しい話をさせてください。それから、ここまでは「商品やサービス」 と書きましたが、以降はこれらをまとめて、「プロダクト」と呼びます。
本論の前 に、プロダクト分類法
では、ほんのちょっと堅い話。プロダクトにはいくつかの分類方法があります。代表的 な方法を二つ紹介します。一つは、物理的特性を基準にしたものです。この分類法にもとづくとプロダクトは以下の三つに分けることができます。
1. 耐久財 … 長期にわたって何度も使用できる有形のプロダクト。
2. 非耐久財 … 短期に1回、もしくは複数回使用できる有形のプロダクト
3. サービス … 提供と同時に消費される無形のプロダクト
もう一つの分類方法は、そのプロダクトの使用目的にもとづくもので、大きく二つに分かれます。
1. 消費財 … 不特定多数のエンドユーザーを対象とした個人消費のためのプロダクト
2. 生産財 … 生産者や販売者などを対象とした組織・生産活動のためのプロダクト
これらの分類方法に登場する言葉を見比べると、形のあ るプロダクトを「財」と呼び、形のないプロダクトを「サービス」と呼ぶ傾向があることがわかります。実際、専門書などを開くと、「商品やサービス」とか 「製品やサービス」ではなく、「財やサービス」と著わしていることが多いようです。もっとも、企業への各種サービス(例えば、人材研修であるとか、経営コ ンサルティングであるとか)は、形こそないものの、やはり生産財の一種と考えていいと思います。
ビジネスプランを立案す る際、自分がつくるものや売るものが、非耐久財だとか、消費財だとか、そんなふうに考える人はあまりいなでしょうし、また、そんな意識をわざわざ持つ必要 もないと思います。ただ、プランを見る側の人のなかにはこうした用語を使う人もいるので、覚えておくに越したことはないと思います。実際、簡単に覚えられ ますしね。
プロダクトは大別して三つの要素でできている
さ て、本論。「プロダクトはどういう要素によって成り立っているのか」です。大別すると、以下の三つから成り立っています。
1. プロダクト・コア
2. パッケージング
3. ネーミング
つまり、「どんな名前の」「ど んなパッケージ(容器や包装も)に入った」「どんなものか」ということです。私は経営セミナーなどで受講生の方によく次のような質問をします。たいがいの 受講生の方が飲み物を持参しているので、それを1本借りて「みなさん、これは何ですか?」と尋ねるのです。
「ミネラル ウォーター」と答える人もいれば、「ペットボトル」と答える人もいます。そして必ず「○○社の△△」と商品名を答える人もいます。どれも間違ってはいませ んが、回答としてはどれも不十分です。正解は言うまでもないことですが、バラバラの三つ答えを足した「○○社の△△というペットボトルに入ったミネラル ウォーター」です。つまり、「どんな名前の」「どんなパッケージに入った)」「どんなものか」を答えなければ、プロダクトとしての説明にはなっていないと いうことです。
もっとも、ビジネスプランの観点でより正確な答えを求めるなら、「外出中に水分補給をしたいと思う人を対 象に、駅構内の自動販売機で販売している、消費税込み130円の、手が滑らないように成形したペットボトルに入った、○○社の△△という商品名の、フラン ス産の、味にちょっとクセのある硬水」なんて感じになるでしょうか。でも、これでもまだまだ満点ではありません。が、今回はプロダクト自体の要素に絞って 話をしていきます。
もう一度書きます。プロダクトとは、プロダクト・コア、パッケージング、ネーミング。この三つの要素 の複合体なのです。ちなみにサービス業の場合、パッケージングは必要ないともいえますが、例えばそのサービスを提供する店舗やサロンが、そのサービスを包 んでいると考えることはできますし、無店舗型のサービス業の場合なら、そのサービスを提供する人物自身がパッケージだとも考えられます。
プロダクト・コアのなかにも膨大な要素
さて、プロダクトは三つ に分けられると書きましたが、そのうちの一つとつであるプロダクト・コアは、さらに複数の要素に分解することができます。
メンズのジャケットを例にして説明しましょう。デパートのメンズウエア売り場に行って、まったく同じ価格のAとBのジャケットがあったとします。こういう 時、私たちはどんな点をチェックしてAとBの優劣を決めようとしますか?
何項目も頭に浮かびましたよね。まずはサイズ。 そしてデザイン、あるいはカラー。さらには素材(耐久性、肌触り、保温性、通気性などなど)、縫製の良し悪し、言い換えれば着心地、つまり品質ですね。ま だまだあります。ポケットの数や位置などの機能、手入れ方法や保管方法など扱い方、加えてそうした事柄をわかりやすく示した取り扱い説明書(タグやカード も含む)の有無、はたまた専用ブラシや予備ボタン・予備布などの付属品の有無、ネーム入れやサイズ直しなどアフターサービスの有無…。
プロダクト・コアのなかにもこれだけの価値を左右する要素が詰まっているのです。つまり、「何を売るのか?」の答えが「男性用のジャケット」では、あまり にも大雑把だということです。それはどんな大きさなのか、それはどんなデザインやカラーなのか、それはどんな品質なのか……。そうしたプロダクト・コアの 各要素にしっかり答えを出し、なおかつ、それはどんなパッケージングなのか、それはどんなネーミングなのかまで答えることができて初めて、「何を売るの か?」の答えになるのです。