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まずは教科書的なプロダクト・ライフサイクル論
商 品やサービスのことを総称してプロダクトと呼び、プロダクトは、プロダクト・コア とパッケージングとネーミングの3つの要素で成り立っていることを『商 品とは何か?』で説明しました。つまり、中身も大事、入れ物も大事、名前も大事ということですね。
さて、今回はみなさん も聞き覚えがあると思うのですが、「プロダクト・ライフサイクル」という考えについて話を進めていきます。それこそ、どれだけ素晴らしい中身と入れ物と名 前を兼ね備えていたとしても、プロダクトは永遠不滅というわけではないし、また、誕生即ヒット商品になるわけでもない、という話です。
プロダクトはまさに人間のように、生まれたばかりのヨチヨチ歩きの時代を経て、一人前になり、やがて老い、最後は市場から消えていく。企業はそのプロダク トが「人生のどの段階」にあるのかを見極め、その時代に応じた戦略を発動することで、各段階における可能な限りの収益を達成しようというのが、プロダク ト・ライフサイクル分析の目的です。
プロダクト・ライフサイクルには4段階ある
こ の「段階」の分け方については3段階論や5段階論もあるのですが、もっともポピュラーなのが4段階論です。
(1) 導入期
プロダクトが市場に投入されたばかりの段階です。まだプロダクトの価値が市場の認知を得ていないため、売上高は低く、研究費や開発費、 償却などの初期投資と、市場展開をはかるための広告費や販売促進費などのコストが大きいせいで利益はあまり出ません。むしろマイナスとなることも少なくあ りません。
この時期はプロモーションを徹底して展開 すること。合わせて、市場の反応や評価をチェックしてプロダクト自体の性能などの調整をはかっていくことも大切です。
(2) 成長期
プロダクトの認知が進んだ段階です。初期購入者が再購入に動き、さらにその動きに追随するよう に新規購入者も増加します。その結果、売上高も利益も拡大します。一方、そうなってくると多くのライバルが市場に参入してくるため、競争も激化します。
この時期は導入期同様、徹底したプロモーションが必要ですが、そ の内容は主に競合を意識した差別化戦略にもとづくものとなります。ブランド力を強化していく段階と言ってもいいかもしれません。また、モノが売れ始めると いうことは、それが確実に買い手に届くよう、流通戦略をしっかり立て、オペレーションを徹底することも肝要です。サービス業においては、そのサービスを確 実に提供できる人員の増強(確保と養成)も求められます。また、後発プロダクトは、先発よりもすぐれた特徴を付加したうえで市場に投入されるのが常なの で、さらにそれを抜き返す品質改良なども必要になります。
(3) 成熟期
市場の成長が鈍化し、売上高も利益も頭打ちになる段階です。こうなると新規購入者はあまり現れず、購買の主流は買い換えに移っていきます。そのため、収 益を上げるには他社のシェアを奪うことが要点となります。
反対から言えば、他社にシェアを奪われないようブランド・ロイヤルティの確立を目指したプロモーションとプロダクト開発が必要になるということです。ま た、新市場を探し出してプロダクトを投入するという戦略を取ることもできます。
(4) 衰退期
多くの企業がこの市場から撤退をはかる段階です。値引き競争が頻繁に行われ、売上高も利益も減少します。多くの企業は生産設備や販売拠点、サービス拠点 などを縮小・廃棄、あるいは他の用途への転用などを進めていきます。
もっとも顧客が急激にゼロになるということは、現実的にはあり得ないことです。競合の撤退が早く進むようなら、この市場に 踏みとどまって残存者利益を獲得するという判断もあります。
以上がプロダクト・ライ フサイクルの4段階区分と、各段階の中心的戦略の説明です。これから起業を目指す人は、今後、自らが投じる商品やサービスが市場のなかでどのように推移し ていくのかをざっと理解してもらえれば結構です。また、すでに事業経営を行っている人は、自社のプロダクトが今どの段階にあるのかを評価して、戦略立案の 参考にしていただければよいと思います。
寿命があるなら、いかにそれを長く延ばすか
しかし、プロダク ト・ライフサイクル論を通じてみなさんに一番理解してほしいことは、「何を売るのか?」と、頭を捻りに捻って出したその答えが、文句なしに市場ニーズを捉 えている、あるいは喚起するものだとしても、やがては確実に衰えていくものだという事実です。この当たり前の理屈を肝に銘じることが、「何を売るのか?」 を考える際に非常に大切になります。言うまでもないことですが、「どうせ衰えるんだったら何でもいいや」などという考えを推奨しているわけではありませ ん。
むしろ、どんなプロダクトにも寿命があるという前提を頭に置いておけ ば、では、どうすればそのプロダクトの寿命を長くすることができるのか、そういうふうに課題を形成していくことができるのです。
みなさんの身の回りを見渡しても、長い期間売れ続けているプロダクトもあれば、アッという間に新しいものに取って代わられ たプロダクトもあるでしょう。いわばライフサイルの長いものと、非常に短いものとがこの世のなかには混在しているのです。
プロダク ト・ライフサイクル論が成立しにくい昨今
もっと言えば、すべてのプロダクトがきれいに4段階を経て役割を 終わらせるわけでもありません。導入期から一気に衰退期に向かうものも少なくないですし、それどころか衰退期すら経ず、導入期直後に完全に消えてしまうも のもあります。
例えば、コンビニエンスストアで売られている商品。POSデータにも とづいて「死に筋」と判断されれば、徐々にではなく、一夜にしてその商品は棚から姿を消してしまいます。「あれ、昨日は確かに売っていたのになあ」などと 思って店内をキョロキョロした経験はありませんか?プロダクト・ライフサイクルの4段階論は、いわばプロダクトが「天寿をまっとうする」、理想的な考え方 なわけですが、コンビニではまさに「サドンデス」が日夜頻発しているのが現実です。
半面、これといった成長 期を迎えないまま、かといって衰退するわけでもなく、地味に長く売れ続けるプロダクトも現れてきました。いわゆるロングテールです。オンラインショップな ど、実際には在庫をほとんど持たない状態で大量のプロダクトを販売できる業態は、プロダクト・ライフサイクルが描く曲線とは異なり、ほぼ直線的に延々と売 れ続けるプロダクトというものを誕生させました。
つまり、プロダクト・ライフサイクル4段階論は、プロダクトの作り 手と買い手との間に介在する売り手のオペレーションによって、まったく成立しない状況も現れてきたということです。
提供するモ ノやコトの真の価値を認識せよ
ですから前半で4段階の詳細を「ざっと理解してもらえれば結構」と述べたの です。繰り返しですが、大事なことは、プロダクトには寿命の短いものと長いものとがあるという事実であり、そうであれば、みすみす短命なプロダクトを抱え て起業しないでほしいということです。みなさんには、長く売れるプロダクトを武器に起業してほしいと思います。
では、どうやって長く売れるプロダクトを見つけるのか?実はさほど難しいことではありません。見つけると考えず、長く売れ るプロダクトにしていくと考えればいいのです。
あくまで仮の話ですが、例えばクイックマッサージのサロンを開業し たとします。やがて供給過剰となり、衰退期に入ったとしましょう。「もう、それでおしまい」ですか?
そんなことはありません。クイックマッサージというプロダクトには限界が来たとしても、「人を癒すサービス」というプロダ クトに限界が来たわけではないからです。提供する商品やサービスが、ターゲットのどんなニーズやウォンツを満たすものなのかを本質的なところで理解してい れば、何らうろたえる必要はありません。以降も形を変えて「癒し」を提供していけばいいのですから。
つま り、買い手の真の課題を解決する知恵と思いにもとづいたモノやコトであれば、修正や改良という方法でプロダクト・ライフサイクルを伸ばしていくことが可能 なのです。こういう考え方と取り組みを、ライフサイクル・エクステンテョンといいます。自分が始めようとしているビジネスの本質的な価値を理解していれ ば、決して難しいことではありません。
流行プロダクトの追随は、短命に終わりやすい
もっとも、「人を 癒す」ことをプロダクトだと考えず、たまたまクイックマッサージがはやっているからという理由だけで開業した人に、エクステンションは不可能です。
実際、いますよね。「今、売れている。人気がある。はやっている」。そういう状況だけをたよりに「何を売るの か?」を決定する人。これでは短命になりかねません。また、それこそプロダクト・ライフサイクルの知識があれば、こうした安易な判断をくださずに済むので す。
「売れている」ということは、それがプロダクト・ライフサイクルの成 長期から成熟期にかけての段階にあるということですから、すでに先発組がシェアを抑えている状態であり、新規参入はなかなか困難なわけです。また、誰の目 にも売れていると映るようなプロダクトは、成長角度が急激であり、そうであれば下降角度もまた大きい危険性があるといえます。つまり、参入に成功したとし ても、瞬く間に衰退期へと向かってしまうということです。ちょっと思い出してみてください。雨後の筍のように増えたと思ったら、いつの間にか消えてしまっ た業種やプロダクト、いくつも浮かんできますよね。
生涯付き合えるプロダクトを自覚すること
これから起業をする人 にとってのロングセラー・プロダクトとは、起業家自身が、それを一生売り続けたい、提供し続けたい、やり続けたい、そう思えるモノやコトだと考えるべきで す。「なぜ、一生それをやり続けたいのか?」と自問すれば、想定しているプロダクトに内在する普遍的な価値に気付くことができます。
「クイックマッサージを開業したい」。なぜ?「人にマッサージを施し たいから」。なぜ?
「人を癒すことに喜びを感じるか ら」。
これです!ここまで到達していれば、そのプロダ クトは長持ちします。
言い方を換えれば、「何を売るのか?」の正解は、「何であれば、自分 は一生取り組むことができるのか?」の答えであるべき、ということです。