一度つかんだ顧客は離さない

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
時間経過による ターゲットのニーズの変化を捉えて、その時々に応じたプロダクトを顧客に提供していく考え方を紹介します。

 

あらためて、横展開型戦略とは?

 あな たがターゲットにしている顧客は、あなたが提供しようとしているプロダクト(商品やサービス)だけを必要としているわけではありません。『セット販売の威 力』では、アスクルの商品展開などを例に挙げて、顧客の多彩なニーズにワンストップで応えるプロダクト戦略の強さを紹介しました。

 

  忘れてしまった人のために、フラワーショップを例にしてもう一度説明しましょう。フラワーショップはどんなプロダクトを販売していますか?切り花や鉢植 え、観葉植物、土や肥料、花瓶や鉢。ざっと挙げるとこんなところでしょうか?でも、中にはマッチを売っている店舗もあります。日本中を見渡せばそういう店 は数えきれないほどあるでしょう。どんなフラワーショップかわかりましたか?もう少しアイテムを付け加えましょう。その店ではお線香も売っています。

 

  もう、わかりましたよね。寺院や霊園などの近くで営業しているフラワーショップの話です。業種特有のプロダクトにこだわらず、狙った相手が必要としている ものは異業種分野のものであってもしっかり提供する。こういう姿勢と視点が大切なのです。何を売るのかの答えを見つけるためには、ターゲットのニーズを深 く理解し、求める商品やサービスを幅広く捉えること。これが『セット販売の威力』で学んだ内容でした。

 

 「今、あの人が欲 しがっているものは、これ+あれ」「今、あの会社が求めているものは、あれ+これ」。提供するプロダクトを横に大きく広げていくことで顧客満足を実現す る。こういう取り組みを横展開型のプロダクト戦略と呼びます。

 

つかんだ顧客を追 い続ける縦展開型戦略

 では、縦展開型のプロダクト戦略とはどういうものでしょう。これが今回のメインテー マです。縦展開とは、時間経過によるターゲットのニーズの変化を捉えて、その時々に応じたプロダクトを顧客に提供していく考え方です。

 

  B to Cの事例ですが、こんな縦展開を実行している起業家がいます。その人の「本業」は生命保険の代理店。彼は、特定の人だけを対象に、特定の保険商品ばかりを 営業しています。誰に何を?定年退職が間近い、いわゆる団塊世代のビジネスパーソンに対して、一時払いの生命保険ばかりを売っているのです。定年退職後に 毎月保険金を掛け続けていくのは確かにきついですもんね。「なるほど」と感じます。しかし、これで終わっては縦展開戦略ではありません。この起業家には 「もう一つの顔」があります。旅行代理店です。

 

 何となく読めましたか?この人、定年前の相手には保険を販売し、次にその 相手が退職したら、「世界一周豪華客船の旅」のような高額ツアーを販売しているのです。長年の宮仕えから解放された団塊世代の人々が、伴侶と共にぜいたく な旅行を楽しむ。これもあり得るニーズですよね。さらに旅行から戻ってきて「お金は使ってしまったけど、時間ならたっぷりとっている」という相手に、継続 的に通えるスクールなどの斡旋も彼は行っています。

 

 団塊キラーとでもいうべきサービス業ですね。狙った相手の環境変化に こまめに対応して次々とプロダクトを変えていく。顧客の側にしても、知らない相手からそれらのプロダクトを買い求めるよりずっと敷居が低くなり、購入が進 みやすくなります。

 

顧客流失は経営危機のもと

 当然、企業相手 のビジネスでも同じことが言えます。企業にも創業期、成長期、安定期、衰退期、変革期、再成長期などの団塊区分があり、その段階ごとに必要なものが異なり ます。企業の活動に則して言えば、「社員を増やす」「就業規則を整備する」「運転資金を調達する」「支店を出す」「新商品を開発する」「広告量を増やす」 「設備を入れ替える」「上場を検討する」など、あるいは反対に「人を減らす」「事業を縮小する」でも同じことで、要するに経営判断が動くたびにその企業に とって必要なもの(商品やサービス)は変化していきます。

 

 顧客から取り引きを打ち切られる。起業家にとっては一番こたえ るできごとです。その理由は大きく分けて3つあります。顧客の不信や怒りを買うような不始末をした。あなたの会社よりもすぐれた競争相手が出てきた。そし てもうひとつが、顧客の変化にあなたの商品やサービスが対応しなくなった、です。1つめや2つめのリスクに対処している起業家は少なくないでしょうが、3 つめのリスクに対処している起業家は決して多くないと思います。

 

 つまり、「相手の都合が変わったのだからしょうがない」 とあきらめ人が多いということです。しかし、「相手に合わせて商品やサービスを改良しよう」と考えることもできるのです。むしろ、あらかじめ取引先の「都 合の変化」(業績好調だから新規事業を準備するだろうとか、主力商品が不調なので宣伝費をカットするだろうとか)を予測しておき、「複数のニーズに対応し た何種類かの商品パターンを用意しよう」と考えることもできるわけです。

 

新規顧 客獲得には膨大なコストが

 つかんだ相手を簡単に手放すのか、それとも、何としても引き止めるのか。この選択によって、実は業績は大きく 左右されます。既存客を維持するためのコストに対して、新規顧客を獲得するためのコストは平均5倍と言われます。これは大変な問題です。

 

  金額で示しましょう。A社の取引先は20社あるとし、A社の1年間の経常利益は1500万円とします。一方、20社の取引維持コストは年間2000万円と します。つまり、1500万円の利益を挙げるために2000万円の営業費を要しているということです。整理すると、粗利益3500万円-営業費2000万 円=経常利益1500万円となります。これを1社当たりに平均すると、粗利益175万円-営業費100万円=利益75万円になります。

 

  ところが取引先の20%、つまり4社を失ったとします。新たに4社を獲得するためのコストは既存客の5倍ですから、100万円×5×4社=2000万円に なります。残った16社にかかる維持コストは100万円×16で1600万円。両方を足すと、新規4社分コスト2000万円+既存客16社分コスト 1600万円=3600万円という営業費になります。さて、20社から得られる粗利益はいくらでしたか?

 

 3500万円で すよね。ということは、粗利益3500万円-営業費3600万円=▲100万円になってしまうのです。2割の顧客の流失で黒字だったものが赤字に転落する わけです。こんなことを毎年繰り返していれば、その企業はいつまでたっても利益を蓄積することができません。

 

今、そして次に何を売るのか?

 だから、一度捕まえた相手は離さないという覚悟が大事なのです。 いや、覚悟だけではダメです。離さないための縦展開型プロダクト戦略、つまり相手の変化に対応した商品やサービスを提供していけることが大切です。「今、 何を売るのか」を考えるだけでは不十分。「今、そして次に何を売るのか」。先に先にと発想を伸ばしていくことが肝要です。

 

  これから起業する予定の人も、時間の経過によって変化する顧客のニーズを折り込んだ商品やサービスのラインナップをぜひとも構築してください。

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