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「マネシタ電器」と揶揄されようとも
あまり品のよくない言葉ですが、松下電器は長年「マネシタ電器」と揶揄されてきました。もっとも当の松下電器自身も、そう言ってはばからないところもあり ましたけど。どういう意味かわかりますか?
へたに新しいものや独自のものを世に出してスベるよりは、二番手でもいいから、確実に 売れそうなものをつくろうというのが松下電器の基本的な考え方だったわけです。多少出遅れたとしても全国に広がる強力な系列販売店網にハッパをかければ、 アッという間に先発メーカーに追い付けたからです。
誤解してほしくないのですが、松下の技術力が低いというような話ではありませ ん。むしろ、他社から出たものにすぐ追随できるのは、あらゆる領域に渡っての研究と技術開発を日頃から怠らず、高度な技術水準を維持し続けてきたからこそ できることです。あくまで戦略として二番手を選択してきたという話です。
かたや「モルモット」と冷笑されようとも
ちなみに松下と対称的なポジションで 語られてきたのがソニー。こちらは「モルモット」呼ばわりされてきました。当たるか当たらないかわからない新製品を一番手で世に出していくわけですから。 もっともソニーもソニーで「他社にとってのモルモットで結構」と言い切って、金のモルモット像までつくった話は有名ですね。
それぞれが、 それぞれのポジションを理解したうえでしのぎを削りあう。そうやって日本の奇跡的な経済成長が生み出されていったんですよね。今や昔……。などと回顧にふ けっている場合ではありません。
最近では、松下もマネシタ路線を見直しています。市場の変化速度は速いですし、流通・販売も以前のように メーカー主導というわけにはいかなくなりました。また、諸外国のライバル企業とも戦わなければなりません。得意分野を確立し、先陣を切って製品を出してい く以外、生き残る道はないということです。つまり松下とて、差別化戦略が必要になったということです。
差別化戦略と同質化戦略
ちなみに差別化(あるいは差異化)戦略の反対語が何か わかりますか?同質化戦略です。まさに「マネシタ」戦略です。みなさんも日頃、いかに差別化が大切かという論をよく耳にすると思います。しかし差別化だけ が戦略ではありません。かつての松下電器が選択したような同質化も戦略として大いに活用できるものです。というわけで今回の「何を売るのか?」の答えは、 「他社と違うものも、同じものも売る」です。
今もっとも同質化合戦が熱いのは清涼飲料業界かもしれませんね。サントリーが発売した特定保 険用食品『黒烏龍茶』が大当たりしましたよね。するとどうですか。いつの間にか、あっちの自動販売機でもこっちの自動販売機でも、黒っぽいラベルの飲料が やたらと目に付くようになりましたよね。
ネーミングにおいてもそうです。『○○茶』なんて名前の付いたお茶、いったい何種 類発売されたのでしょう。漢字四文字で表すお茶の名前もたくさん頭に浮かびます。
ライバルがやったらウチもやる。そのかわ りウチがやればライバルもやる。この激しい戦いぶりを前記した松下とソニーに例えるなら、一社が松下とソニーの両方の役割を担っているということになりま す。差別化と同質化の両方の戦略を発動しているわけです。飲料市場がいかに激烈か、よくわかりますね。
同質化戦略を選択するための条件
さて、他社と違うものを売る。すなわち差別化戦略を選択する という場合は、市場の声をよく聞き、他社が実現できていないポイントを見出し、そこを達成して市場にアピールしていけばいいだけのこと(もちろんそれは大 変な努力を要する)ですが、同じものを売る場合には、何を重視すればいいのでしょう。
一番重要なことは、その市場(あるいはその業界)に おける、あなたのビジネスの順位です。つまり、シェアであるとか、評価であるとか、そういった指標が高い数値を示すか示さないかです。もし、あなたのビジ ネスが業界内において下位にあるのなら、同質化戦略は得策ではありません。差別化戦略一本でいくべきです。反対に上位にいるのなら、カッコをつけず、かつ ての松下電器のように下位の企業をマークしていけばいいのです。
こう言うと、「業界上位の企業なんてそう滅多にない」という声が上がりそ うですが、そこは考えようです。IT業界だとか不動産業界だとか、大きな括りで語れば確かに上位に君臨することは容易ではありません。が、利用者限定無料 ブログサービス業界だとか、女性向け東京23区内賃貸物件仲介サービス業界だとかに細分化していけば、実は相当な数の業界上位企業が存在することになりま す。
その中にあって顧客数が多いとか、宣伝力が強いとか、代理店が多いとか、とにかくほかよりも営業的に上位にいるのであれば同質化戦略 を用いることは可能です。同じものを売るだけでなく、同じようなセグメントに働きかける、同じような売り方をする。こういう判断もいいと思います。下位企 業が頑張って差別化を図ってきたら、無慈悲なまでにそのエッセンスを真似てしまう。そのくらいの図太さが起業家には必要です。
後ろめたい真似事は絶対にダメ!
ただし「図太さ」と「後ろめたさ」との違いには敏感でなくて はなりません。他社の着想に学んだうえで、それを超えるものを売る。こういう考え方をしていれば決して後ろめたい思いはしないでしょう。しかし、着想の結 果をそっくり真似る。つまり、自分では何ひとつ考えない。こういうプロセスでものを売れば心が痛みますよね。心が痛むような行為はすべきではありません。 にもかかわらずそれを強行すれば、当然それなりのしっぺ返しが待っています。
言うまでもないことですが、法的に保護された権利を侵すこと は許されません。知的所有権という言葉をご存じですよね。これは特許や実用新案、商標や意匠などのいわゆる工業所有権と著作権とに分かれます。工業所有権 は登録されていることが前提の権利ですが、著作権は登録の有無を問わない権利です。いずれにしても法的に独占的使用を認められたものを勝手に真似れば罰を 受けることになります。また、登録された商標ではなくても、有名なブランドのネーミングなどを真似れば、不正競争防止法違反に問われる危険性も高くなりま す。
また、真似をするプロセスにも気をつけなければいけません。それこそスパイまがいの方法で他社の情報を入手すれば、損害賠償沙汰にな ることは必至と覚悟してください。
視点や着想を真似て、新たなプロダクトを!
先行他社やライバルからよく学び、先行プロダクトが 市場のどのようなニーズを捉えているのかを理解し、その視点や着想を大いに真似たうえで、「何かがちょっと違うものを売る」。これが「同じものを売る」と いうことの正しい意味です。
泥棒まがいの模倣は許されることではありません。しかし、成功者やヒット商品から何も学ばず、結果的に市場か ら置きざりにされるような事態を招いてしまうことも経営者や起業家には許されないことなのです。