セット販売発想

この記事はに専門家 によって監修されました。

執筆者: ドリームゲート事務局
BtoCのセット 販売による効果。次に2種類のBtoBセット戦略のパターンの一つとしての横軸セットについてお話します。

 

「損して得取れ」のセット販売

  『特別商品と目玉商品』のおさらいをしておきましょう。(100-120)×5+(400-200)×1=100。こんな計算で表せる商売の話をしまし た。言葉に置き換えるとこうなります。(パンの売値-パンの仕入れ値)×パンを買った人5人+(ジャムの売値-ジャムの仕入れ値)×パンと一緒にジャムも 買った人1人=100円の儲け。 

 損して得取れ、なんて言いますよね。原価割れするほどの安売りパンでお客さんを引きつけておいて、しっ かり利益が出せるジャムを一緒に売る。パンを買った5人のうち1人でもジャムを買ってくれれば十分に利益が出る。そういう考え方を学んだわけです。

 

セットだから、安くも高くもできる!

 この「セット販売発想」 は、いろいろと応用ができます。例えば、フラワーショップの店内を思い浮かべてください。観葉植物のポトスが300円、同じくアイビーが300円、そして 花をつけたラベンダーが500円で売られています。また、大きめの鉢が900円で売られています。それぞれを購入すれば合計で2000円になります。 

  一方、ポトスとアイビーとラベンダーをあらかじめ鉢に寄せ植えしたものも売られているとします(実際にそんな組み合わせがあるかどうか知りません。あくま で例えです)。さぁ、この商品はいくらになりますか?寄せ植えの手間や、作り上げられた美しさという価値を付加すれば、2000円よりは高くしたいところ です。が、「まとめ売り」ができると考えれば、1800円でも悪くはないでしょう。お客さんの中には個別売りの合算と寄せ植えの価格を比較する人もいます から、お得感を出しておくという作戦はありです。

 もっとも逆の考え方も成り立ちます。その寄せ植え鉢の中に、小さなウサギの人形をひとつ 並べておきます。可愛らしさが増して訴求力が高まるとともに、この人形のせいでパーツごとの単価が見えなくなり、例えば2500円というような値段を付け ることも可能になるわけです。
 

「何と何とを組み合わせて売るのか?」

  ものをセットにすることにより、さまざまな価値を演出することができる。これがポイントです。「何を売るのか?」だけでなく、「何と何を売るのか?」。さ らには「何と何とを組み合わせて売るのか?」。そこまで発想を広げて考えることが「何を売るのか?」の答えに競争力をもたらすことになります。

  仮に2つの商品があれば、AとBに加えてABという商品も用意できるわけです。品目数が2から3に増えるメリットはもちろん、2つをセットにしたことに よって、価格メリットを訴求できたり、プロダクト自体の価値を高めたりすることもできるわけです。

 プラスのドライバーやマイナスのドライ バーが何本か入って100円程度で売られている「家庭用工具セット」などは、価格のメリットとプロダクトの価値の両方を高めている、いいセット商品ですよ ね。

 実際、「何を売るのか?」を考える時に、その答えが「一つしかない」というようなことはあまり考えられません。いわゆる商品ライン ナップとか営業品目とかの言葉で表されるように、複数の商品やサービスを提供するのが一般的です。だからファストフード店での「ポテトもご一緒にいかがで すか?」や、駅の弁当売り場での「お飲み物はよろしいですか?」などのセールストークが重要になるわけです。

 

ラーメンの大盛り」だって立派なセット商品

 とは いえ「ラーメンしか出さない店があるよ」と言う声も聞こえてきそうです。が、そういう店もよくよく覗いてみると、具のトッピングという方法によるセット販 売を行っていたりするものです。ネギを足す、味付け玉子を足す、チャーシューを足す……といったように。

 それでもまだ反論があるかもしれ ませんね。「具のパターンが一種類しかない店も知っている」と。あります、あります、そういうお店。でも試しにその店で「大盛りにできますか?」と聞いて みてください。たいてい「できますよっ」と答えが返ってくるはずです。「大盛り」とは、「通常のラーメンという商品に、さらに麺などをセットした」ことに よって生み出される新たな価値を指す言葉です。もっとも世の中にはスープも一種類、トッピングも一種類、ボリュームも一種類というラーメン屋さんもあるの かもしれません。これは差別化の発想です。セットが常識だからこそ、その逆を行くという作戦ですね。

 

BtoBには「横軸セット」と「縦軸セット」がある 

 さて、一気 にBtoCの事例でセットの威力を語ってきましたが、BtoBにおいても本質は何ら変わりません。というより、BtoBのほうが、より広範囲にまたがる セットや、より緻密なセットが要求されてくるものです。取り扱い額は大きくなりますし、購入決定までの関門の数も多くなります。また顧客は調達したプロダ クト(財やサービス)をもとにビジネスを展開するともなれば、そのセットに対する品質や価格、あるいは入手までのスピードや付属サービスに関する要求まで 厳しいものになってくるのも当然です。

 とはいえ、BtoBにおけるセット戦略のパターンは、大きく分ければ2種類にまとめてしまうことが できます。複雑な戦略に見えるものさえ、突き詰めれば2つのうちのどちらかということになります。その2つとは「横軸セット」と「縦軸セット」です。横軸 セットを「寄せ植え型」、縦軸セットを「パン&ジャム型」と呼ぶこともできます。

 なお、この回は横軸セットについてのみ説明します。それ ぞれ長くなりますので、縦軸セットの説明は次回に譲らせてください。

 

「プロダク トつながり」と「ターゲットつながり」

 さて横軸セットは、寄せ植え型と称したとおりで、複数のプロダクト をまとめて「同時に」販売する考え方です。
 パソコンのハードと周辺機器とOSとアプリケーションをまとめて販売することは、もはや常識ですね。 それらかたちのある商品だけでなく、設置サービスや設定サービスなどをセットにするのも当たり前。さらに保守サービスもセット。プロバイダの紹介や登録ま でセット。回線の提案もセット。「関係あるもの」なら、何でもかんでもセット!

 ところが「関係ないもの」であってもセットは可能です。実 際、ボールペンと蛍光灯とウーロン茶とトイレ掃除用ブラシと辞書を同時に納品してくれる会社だってあるのです。アスクルですね。商品カテゴリー自体は「関 係ない」のですが、それらは企業の総務や庶務にとっての必需品という意味では「一括り」です。

 一つのプロダクトを核にして、その周辺に有 形無形のプロダクトをセットしていく方法もあれば、一つのセグメント(ターゲット)を核にして、必要とされるプロダクトをセットしていくこともできるので す。

 

モジュール化思想に学べ!

  また、セットにして販売アイテムを広げて利益創出を図るのではなく、製造業やシステム産業で用いられる「モジュール化」の発想で、元来はバラバラに存在し ているパーツをある程度まで組み上げた状態にして顧客に提供することで、高い競争力を獲得するという考え方もあります。もっともこの考え方は決して珍しい ものではありません。顧客がワンストップでの納品やサービス提供を求める分野であれば、モジュール化は間違いなく強力な戦略となります。

  例えば雑誌の出版分野なら、通常、出版社は編集者やデザイナー、ライター、カメラマン、イラストレーター、校正者などといった職業の人にそれぞれ発注を行 い、仕事内容を説明し、業務遂行を管理し、報酬の支払いまでをしなければなりません。ところがこの「雑誌づくり」にかかわるすべての業務を一括で引き受け るという会社が出てくると、かなり魅力的に感じるものです。また、その会社が作業の遂行だけでなく、品質管理からスケジュール管理、予算管理までこなす。 さらには雑誌に入れる広告の営業や出版後の販売促進までフォローするとなれば、相当な競争力を持つことになるでしょう。もちろん最終的には「お値段が合え ば」という話になりますが。

 また、弁護士と弁理士と税理士と社会保険労務士と中小企業診断士と行政書士に、業務をオーダーする必要のある 企業も少なくありません。いわゆるコンシェルジェのように、その中の誰かが窓口になって調整をしてくれれば……と考えている経営者はたくさんいるはずで す。

 

セット戦略はどんなに相手にも有効

  とくに伸びている企業の多くは人材不足に陥っています。経営者のみならず、現場の人たちの忙しさも並大抵ではありません。そこにモジュール化したプロダク トをぶつける。バラバラのプロダクトを提案するよりはるかに優位であることは明々白々でしょう。

 そして言うまでもないことですが、伸びて いる会社は停滞していたり衰退が始まったりしている会社より財布のヒモが緩いものです。こういう相手を狙わない手はありません。もっとも普通は、「A社に モジュール化して提供してもらう」などという言い回しはしません。「A社にまる投げする」と言います(笑)。でも、同じことですから。

 さ て、横軸セットのすさまじいところは、上記したような成長企業だけがターゲットではない、という点にあります。業績が芳しくない企業に対しては、複数部署 や複数人材にまたがって行われているような業務を「一括請け負い」することで、クライアント企業の組織スリム化や業務効率化、固定費削減などを実現するこ とも可能になるのです。

 「何を売るのか?」と問われたら、「これを売る」などと表面的に答えるのではなく、「あれとそれとをセットにした ことによって生み出される、このようなメリットを売ります」と答えられるようになること。それがBtoBにおけるプロダクト戦略の前提です。

  次回はBtoBにおける「縦軸セット」に関して説明します。

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